73・レンゲくんのキュアピュアヒール(前半?視点)
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我々プルトハデス人が使う魔法は、自然現象を操ることである。
従って、炎や水は制御が比較的容易いのだが、雷や光となるとそうもいかない。
雷とは神の怒りであると仲間のハイエルフから聞いたことがある。
確かに、避雷針と言う魔道具が開発されるまで、人々は雷を神の怒りと呼んで恐れていたからだ。
だが、雷と同等に制御困難なのが、光魔法である。
無尽蔵に反射する性質を持った光と言うものを制御するには、光への知識よりも生まれ持った勘の鋭さが必要となる。努力した凡人より才能のある怠け者の方が容易く制御出来てしまうのが、光魔法の理不尽なところだ。
願わくば、光魔法の才覚が真摯で心の強い人物に授からんことを。
文責、ドクトル・繝輔ぃ繧ヲ繧ケ繝�
◇◇◇
「残念。ボクらの代の浄化の聖女はあの頭キュアピュアヒールだもんなぁ」
「レンゲ様⋯⋯あのキュアピュアヒールはレンゲ様の頭脳を持っても理解不能なのですね」
数日後の昼。
私達はベーコンレタストマトのサンドを食べながら、レンゲ様が解読を進めているドクトル氏の寝盗られ日記の内容を聞いた。
「それにしてもモクレン様!!! 体調不良復活おめでとうございます!!! その第一号としてお作りになられたベーコンレタストマトサンドは瑞々しさと塩気と肉の活力に溢れており生命を感じます!! ベーコンの塩気とトマトの酸味溢れる甘みがレタスの水気で混ざり合うこの旨味は、まさに生命の象徴でしょう!!!」
「ありがとうツミキちゃ〜〜ん!! いや〜やっぱツミキちゃんの食レポは聞いてて気分ブチ上がるわ〜! 俺もう君の食レポ無しじゃ行きていけないかも♡ ⋯⋯それに」
向かいの席に着くモクレン様は、そう言って満面の笑みを浮かべる。
「俺のビジュも数日爆睡して元通りだもんね〜! いや、みんなに看病され溺愛されたお蔭で、より美青年に磨きがかかったかも?」
私には審美不可能だが、どうやらモクレン様のビジュは元に戻ったそうで、何よりだ。
彼が倒れて数日間、私とレンゲ様とサラサ先輩とで代わる代わる看病した甲斐があったと言えよう。
「今なら俺キュアピュアヒール撃てちゃうかも♡ そんくらい超元気よ〜」
「キュアピュアヒールと言えば⋯⋯ホオノキ様は『何それ知らん⋯⋯怖』と仰ってましたが、彼女はどうやって光魔法を制御されているのですか?」
私がそう聞くと、モクレン様はベーコンレタストマトサンドを上品に召し上がり、紅茶を飲んで一息付いてから答えてくれた。
「詳しくは知らんけど、歌手として鍛えた筋肉で無理矢理押さえつけて制御してるらしいよ」
「筋肉⋯⋯ですか」
てっきり聖なる力とか女神への祈りとかそう言った聖女的な事が出てくるかと思ったが、予想の斜め上であった。
まさか、筋肉とは。
まあ、確かにホオノキ様はご高齢であるにも関わらず、背筋はしっかりしていていつも颯爽としている。
肌艶も良く表情もキラキラしているが、アレは持って生まれた美貌ではなく、歌手として鍛えた筋肉の賜物なのだろう。
私がホオノキ様のキラキラした佇まいを思い出していると、向かい隣に座るレンゲ様は
「ホオノキ氏⋯⋯まさかのパワー型か」
とベーコンレタストマトサンドを分解し、トマトをちびちび口にした。
そんなレンゲ様に、隣りに座るサラサ先輩がベーコンレタストマトサンドにかぶり付き咀嚼してから、
「パワー型のホオノキ嬢ちゃんと、天才型のカルミア嬢ちゃんか⋯⋯こりゃ参考にならんの。レンゲの雷魔法制御の手掛かりになるかと思ったんじゃが」
と肩を竦める。
「のじゃ⋯⋯あの混沌の神と魔道具がガッチャンコした最凶の魔獣を、学者さんは機械魔獣と分類したんじゃったっけ? 次の機械魔獣が出て来る前に、レンゲの雷魔法が使い物になればのう」
「そーだねサラサ氏。⋯⋯機械魔獣が滅多に出てこないタイプで助かったよ。あんなのが次々カチコミして来たら、プルトハデス国は間違い無く終わると思われ。エンダーするね。エンダープルトハデスだ」
レンゲ様がフォークでベーコンを絡め取り、それを少しずつ食べる。まるで小動物のような食事風景だ。
そんなレンゲ様に、モクレン様が紅茶を飲みながら続く。
「機械魔獣が頻発しない理由って、やっぱ死毒の森も混沌の神と機械をガッチャンコするのに手間取ってるからってこと? 生み出すのに時間がかかる魔獣ってんなら、レンゲくんが雷魔法の制御を可能にするまで時間があるってことか」
何かを考え込んだように鋭い表情を浮かべるモクレン様は、唇に手を当てて「それにさ」と続けた。
「見ただけで気がおかしくなる魔獣ってことは、見なけりゃ良いわけじゃん。⋯⋯レンゲくん、何かこれを解決出来る魔道具作れそう?」
「そだねぇー。うーん、考えられるのは電磁波を使った暗視ゴーグル魔道具⋯⋯とかなら、まあ肉眼で見てるわけじゃないし、いけるんじゃないかなあ」
電磁波を使った暗視ゴーグル。
謎が謎を呼ぶ魔道具の名が出て来てしまい、私の頭からは煙が出そうである。
「レンゲ様、電磁波を使った暗視ゴーグルと言うのは⋯⋯その、一体」
「ああ、ごめんね。えっと、光が物体にぶつかると電子が飛び出す現象があって、その電子が動くことで電磁波が」
「⋯⋯???」
「ごめん⋯⋯えっと、モクレン氏、頼んだ」
レンゲ様がモクレン様に言語化を頼んだ。
ちなみに、サラサ先輩は『電子』の時点で鼻提灯を浮かべ眠っていた。
「俺、魔法科学はいつも赤点ギリギリで得意じゃねえんだけど⋯⋯。ん〜と、例えばさ。このベーコンレタストマトサンドって食べるとき、ベーコンの切れ端とか小さいトマトとかレタスやパンの欠片とかが散らばるでしょ?」
「はい。散らばったそれらをフォークでまとめて食べるのも、とても美味です」
「そう。それ! 要は、ベーコンレタストマトサンドからパンや具材の欠片が出て来るのと一緒で、光の欠片が電子――電気のカスみたいなのが出るって考えたら分かりやすいかも?」
「なるほど⋯⋯! 少しですが理解が深まりました!」
モクレン様は「まあ、厳密には違うかもだけど、超簡単な理解としてはこれで良いんじゃないかな?」と付け加えて、言語化を続けた。
「そんで、ベーコンレタストマトサンドのカスを集めて、超小さいベーコンレタストマトサンドを作り出すみたいに、光のカスである電子を集めて可視化するってのが電磁波による暗視ゴーグル魔道具の仕組みよ。⋯⋯それに、ベーコンレタストマトサンドがデカけりゃデカいほど、カスから作れるサンドもデカくなるでしょ?」
「なるほど!! だったら、光は無限大に存在しますから、いくらでもカスを抽出可能ですね!!! その莫大なカスを目視出来たら⋯⋯機械魔獣を肉眼で確認しなくても姿を捉えることは可能です!!」
「そ! そゆこと〜! ⋯⋯レンゲくん、これで大丈夫そ? ⋯⋯レンゲくん、聞いてる?」
モクレン様の問いかけに、レンゲ様は答えない。
別の何かに気を取られている⋯⋯と言う様子だ。
「⋯⋯電子は⋯⋯光のカス⋯⋯⋯⋯カスで作ったベーコンレタストマトサンドは物質的には同一⋯⋯。⋯⋯まさか」
レンゲ様がそう呟いた瞬間。
モクレン様のスマホに、マグノリア騎士団から『王都との境界沿いに大量の羆魔獣が出没』と緊急事態を告げる連絡が入ったのだった。
◇◇◇
「駆除致しますッ!!」
王都との境界沿いに位置する健康的な森にて。
相変わらずロスベール公爵不在で動きが鈍っている聖騎士団を無視し、私達は羆魔獣の大軍の処理に当たった。
勿論、魔法兵器マグノリア・サイクロンも現場に投入している。
レンゲ様や他の騎士達が操作する魔法兵器で、身体の小さい羆魔獣は一瞬にして吸引されていった。
そして、魔法兵器で吸えない個体は、モクレン様が指揮する騎士団で応戦したり、サラサ先輩が爆音波でぶっ飛ばしたりと、対応する。
⋯⋯だから。
「まずは腕から頂きますッ!!!」
私が殺るべき相手は、通常の二倍の体躯を持つ巨大な羆魔獣のみ!!
針金のような体毛に包まれた腕が、私を切り裂こうと振り下ろされる。
大剣のような爪が遅い来るが、それを最小限の動きで横に回避した。
爪が地面に突き刺さって動かなくなった腕を駆け上り、跳躍して肩関節目掛けて大鎌を振り下ろす!!
グァァアアアアッと羆魔獣の叫び声が空気と肌をビリビリと震わせ、血飛沫が舞う。
毒を含んだ血はレンゲ様達が操作する魔法兵器で吸引するため、毒による大地の汚染と人体への悪影響は比較的軽量に抑えられた。
だから、他者を心配する必要は無い。
存分に大鎌を振るい、対象を駆除出来る!
羆魔獣は、跳躍した私を握り潰さんと手を伸ばす。
だが、身を捻って回転しながら大鎌を振るい、伸ばされた手を腕ごと真っ二つに切り裂いた。
地面に着地した瞬間、両腕を無くした羆魔獣が私を食らおうと大口を開けて迫って来たため、大鎌を水平に振り抜き羆魔獣の口を割くように真っ二つにする。
獣臭と血の臭いが充満するが、魔法兵器がすぐに毒の血を吸引するため、それもすぐ止んだ。
「駆除完了。それでは、魔獣を生み出す死毒の根の節を切除に――ッ!?」
背後。
音も無く声も無く、何かが飛び掛かってくる気配がした。
油断した。羆魔獣はもう一匹いたのだ!!
すぐに大鎌を構え背後を振り向こうとした、その時――
「ツミキ氏伏せろーーーーーッッッ!!!!」
初めて聞く、レンゲ様の大声がした。
言われた通りに地面に伏せると⋯⋯なんと。
レンゲ様がカルミア様のキュアピュアヒールと似た構えを取っていた。
握った片手から人差し指と中指を突き出し、もう片手は指を突き出した手を固定するように添えられている。
「ボクとしたことが、何で気付かなかったんだ。『光も雷も似たようなもん』なのに」
そして。
「ぁあたぁれぇーーーーッ!!!! キュアピュアヒールの丸パクリサンダー(仮)ーーーーッ!!!!!」
落雷のような轟音と共に、レンゲ様の人差し指と中指から眩い稲光が発射されたのだった!!!!
そして、雷光で焼かれた羆魔獣は「グガァァァアアアッ」空気がひび割れんばかりの悲鳴を轟かせ、一瞬にして黒焦げになる。
一方、レンゲ様は「うわぁぁあッ!!」とキュアピュアサンダー(仮)の発射による反動で、盛大に後ろへ吹っ飛び木に激突した。
「レンゲ様ッ!!!!!!! ご無事ですか!?」
急いでレンゲ様の元へ向かうと、彼は
「痛てて⋯⋯こりゃ連発は出来ないな」
と言いながら背中を擦っている。
「レンゲ様⋯⋯どうして、キュアピュアヒールの真似をされたのですか⋯⋯?」
「気付いたんだ。光と雷って似たようなもんだって。⋯⋯そしたら、カルミアのキュアピュアヒールの仕組みがわかったんだ」
レンゲ様は背中を強打したせいで咳き込みながらフラつき、脇腹を抑えながら背後にある木に背を預けた。
「カルミアは分散する光を巧みに操ってたんじゃない。⋯⋯キュアピュアヒールの構え――つまり、『祈るように組んだ手から突き出した両指に光を集めて、それを発射してた』だけ。だから、それをパクってみたんだ」
「⋯⋯そう、だったのですね。⋯⋯あのキュアピュアヒールに、そんな意味が」
「あの宴会芸みたいなぶりっ子仕草、意外と理に適ってたと思われ」
そう言ってレンゲ様は笑うと、
「でも、キュアピュアヒールって名前はダサいよ。⋯⋯ボクの美意識に反する」
と手の平を私へ向けた。
私はその手の平へハイタッチをした瞬間⋯⋯!
バチッッッっと静電気が走り、二人して思わず声を上げたのだった。
◇◇◇
良い感じにお付き合いありがとうございます!
ちょっとでも
「面白い!」
「先が気になる!」
「レンゲくん雷魔法の制御おめでとう!!」
「レンゲくんとツミキの緩い友情感が好き」と
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