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【完結】虐げられた死神令嬢ですが、陽気な騎士団長に溺愛されて幸せになりました。〜一方、私を捨てた元婚約者は知らない間に破滅してました〜  作者: ぷきゅのすけ
第四部 死神令嬢、真実を知る

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72・チャリに乗りました!(最後カルミア視点)

「ホストクラブ『メフィスト』は今日で閉店。カルミアを迎え撃つための罠も、アイツをバカ怒らせた今はもう必要無いからね。それに、従業員は全員俺ンとこの騎士だから、店締めても問題無しよ」




モクレン様が倒れた翌日の昼。


晴天の元、彼の母君であるモニカ様の告別式が、近所の小さなマグノリア教会にてホオノキ様主導で行われようとしていた。


現在、黒い服を着た私達は、ホオノキ様が告別式用の祭服に着替えるのを待ちながら、教会のベンチに座って雑談をしていたのだ。




「モクレン様、メフィストの儲けはどのくらい出たのですか?」


「それがねえ〜確定申告して税金払ったら全部パーになっちゃった。アハハ」


「よっ、赤字領主⋯⋯⋯⋯恐れ入ります」




不敬覚悟でモクレン様に冗談を言ったら、モクレン様は目を丸くして驚いたあと、蕩けたような笑顔で



「いつもギリギリ、赤字でキリキリ、きりきり舞いのモクレンでぇっす♡」



とウインクし、人差し指と中指の間に持って来て決めポーズを取った。



⋯⋯やった。私もついに冗談を言えるようになったのだ。


これは嬉しい。嬉しい状態である!


レンゲ様とサラサ先輩も、前のベンチから体を捻ってこちらを見ながら


「やるねーツミキ氏」


「お主も成長したのう」


と笑顔を浮かべている。



私はモクレン様の元へ来て、毎日たくさんの笑顔に囲まれている。


そして、人を嘲る攻撃的な笑いと、心から嬉しいから浮かべる笑顔は全く異なるのだと知った。



もし、国からロスベール公爵の元へ戻れと言われたら、私は頷けるだろうか。


――嫌だ。この人達の傍にいたい。


モクレン様の笑顔が見れなくなるのは嫌だ。



私の中に目覚めた自我――船の船長が、どんどん成長している気がする。


だが、肝心の舵輪――心は未だ無い。



みんなにはある心が、私には無いのだ。


心があったら、どんな感じなのだろう?


もっとみんなと楽しい状態になれるのだろうか。


⋯⋯もっと、モクレン様と近付けるのだろうか。



私に心が無いのは、かつて狂戦士と断罪されたユーフォルビアが、根源の大樹に穢れた心を捧げて敵兵を殺戮する力を得たからだ。



⋯⋯ならば、根源の大樹には、ユーフォルビアの心があるのだろうか?

 


根源の大樹。


プルトハデスの大地を創生した女神プルートそのものであり、この国の生命の化身でもある存在だ。


この大樹さえ再生すれば、問題は全て解決する。


そうすれば、ユーフォルビアの心はどうなるのだろう?




「⋯⋯ツミキちゃん? どしたの?」


「! ああ⋯⋯根源の大樹について、考えておりました」


「根源の大樹か⋯⋯魔獣対策の魔法兵器が完成した今、最後に残ったのがこれだもんなあ」




モクレン様の言葉の後に、レンゲ様が



「ボクの雷魔法の制御問題もまだだもんねえ」



と続く。



そんなレンゲ様に、サラサ先輩が尋ねた。




「レンゲ、雷魔法の制御の進捗はどんなもんじゃ?」


「順調に遅れてるかなー。ドクトルさんの寝盗られ日記の解読も難しくてさぁ。⋯⋯ほら、前に話したと思うけど、ドクトルさんみたいな魔法科学者って、元は錬金術師だったでしょ? 錬金術師って、自分達の知識が漏れないように暗号使って文章書いてたじゃん? それと同じ事をドクトルさんもしてるから、もうお手上げだよ」


「のじゃ⋯⋯。錬金術師か」




サラサ先輩は



「錬金術師がいたのは恐らく二百年前くらいか。それじゃあガンショウ達も何も知らんのう」



と残念そうにする。すると、長い耳がへにゃりと下がったので、とてつもなくサラサ先輩を抱き締めたい衝動に駆られた。




「錬金術師⋯⋯確か、レンゲ様が解読した日記の内容によると、禁断の魔道具を開発して百年迫害されたそうですね。⋯⋯でも、何を作ってしまったのでしょう?」




私の疑問に、モクレン様が天井を見上げながら



「禁断の魔道具ねえ⋯⋯一体何作ったんだか」



と言った、その時だ。




「皆さん、お待たせしましたね。⋯⋯さ、我がバカ娘兼孫のバカ親の告別式が始まりますよ」




威厳のある黒い祭服に着替えたホオノキ様が、控室からゆっくりと現れたのだった。




◇◇◇




告別式と言っても、参加するのは私達いつもの四人とホオノキ様しかいない。


だが、この告別式はモクレン様の心を軽くするためのものなので、特に問題は無かった。


そんなモクレン様は、モニカ様の大きな写真の前で彼女への思いを語り始めた。




「⋯⋯正直、母ちゃんが死んだ実感が、まだ無いんだ」




喪服に身を包んだモクレン様は、いつもの饒舌さとはかけ離れた様子で、たどたどしく言葉を続ける。




「親らしいこと、何もしてもらってないから⋯⋯よく分かんない。⋯⋯でも、あ、あ〜⋯⋯一個だけ、ちょっとだけ⋯⋯あったかも」




モクレン様は天井を見上げながら、ゆっくりと語った。




「チャリだ。⋯⋯補助無しのチャリに乗る練習は婆ちゃんとしたんだけど、補助輪が付いたチャリは⋯⋯母ちゃんと練習したんだった。母ちゃんが消える、数ヶ月前かな」




チャリ――自転車のことだろう。


この国だと自転車は貴族が広い庭を走って楽しむ嗜好品であるため、それに乗ることが出来たモクレン様は、さすが公爵家の次男である。




「母ちゃん、親父以外にも貴族の彼氏がいてさ。そいつからガキ用のチャリを貰ったってんで、突然『ママと自転車の練習しよ?』って言ったんだ」




モクレン様の話を聞きつつ、ふとホオノキ様の顔を見た。



彼女は深い眼差しで遠くを見ている。

その視線の先には、モニカ様がいるのだろうか。




「俺、ガキの頃はいわゆる動けるデブって奴で。平衡感覚? バランス感覚が良かったみたい。だから、チャリのコツはすぐに掴んだ。⋯⋯でも」




モクレン様の目尻に照明が当たり、小さく輝いた。




「わざと乗れないふりをした。⋯⋯そうすりゃ、母ちゃんとずっとチャリの練習が出来るから。⋯⋯だから、嘘付いて母ちゃんの気を引いてた。俺、ガキの頃から何も変わってねえじゃん。⋯⋯なんか、そんな事を思い出したよ」




モクレン様は言葉を切り上げた。

その頬には、一筋濡れた後があったのだが、それについて触れることは誰もしなかった。




◇◇◇




「え、私も⋯⋯チャリに乗って、良いのですか?」




告別式の後。


全員で教会の片付けをしてから屋敷に戻ると、ホオノキ様が後から馬車に自転車を乗せてやって来られたのだ。




「ええ。わたくしの太客がくれはってな。⋯⋯でも、チャリはこれで二台目やさかい、みんなで使こうてくれたら嬉しいわ」




今日のホオノキ様は、出身地であるギオン地区の訛り全開である。


きっと、素で誰かと話したい心持ちなのだろう。




「私が、チャリに乗る。⋯⋯ユーフォルビア一族として生まれた私が、チャリに」




自分の脚さえあればどこへだって行ける交通手段を、魔獣から王都を護るために生まれた私が手にする。


生きていればこんなこともあるのかと、驚いた。


戸惑っていると、モクレン様が笑顔で



「良いじゃん良いじゃん! ツミキちゃんは運動神経抜群だし、すぐ乗りこなせるよ! 大丈夫、俺が教えるから!」



と背中を押してくれた。



レンゲ様も



「運動神経クソ雑魚のボクがチャリに乗ったら事故りそうだから遠慮するけど、ツミキ氏なら大丈夫じゃない?」



と笑っている。



サラサ先輩も



「このチャリは大人用じゃ。わらわじゃ脚が届かん。だから、お主が乗るのじゃツミキ! 安心せえ! わらわが応援してやるぞ!」



と歯を見せて笑う。



そして、私達は屋敷の中庭に出た。


初めて跨る自転車は確かにバランスを掴むのが難しく、後輪を抑えてくれるモクレン様がいなければ転倒間違い無しだ。




「モクレン様!! チャリとは中々にっ! 難しい物ですね⋯⋯、ぁっ!!!」


「大丈夫大丈夫すぐに慣れるから! 頑張れ!」


「はい! ⋯⋯うわっ!」




何とかバランスを掴み、ペダルを漕いで前進する。


徐々にフラつきは無くなり、不格好ながらも前へと進めた。




「モクレン様! 抑えててくれてますか!? 貴方がいないと私は百転倒します!」


「大丈夫だよ! しっかり抑えてる!」




良かった。モクレン様は後輪を抑えていてくれる。


だが、それにしては声が遠いのは気のせいか。




「モクレン様ーーーっ!!! 後輪はお任せしましたよ!! モクレン様ーーーっ!!!」


「はいは〜い!! お任せあれ〜〜!!」




やはり、モクレン様の声が遠い。


⋯⋯まさか、既に手を離しているのか!?


背後を確認したいが、バランスを取るのに精一杯だ。



必死にチャリのバランスを取る私に、レンゲ様とサラサ先輩が



「かッ飛ばせぇーーツーミキ氏ッ!!!」


「お主がかねば誰が行くーーっ!」



と楽しげな声援をくれる。


その応援のお蔭か、徐々にチャリは私の一部のように制御可能になったのだった。




◇◇◇




「はあ!? メフィスト閉店したの!? 何それ詐欺じゃん!!! 結婚詐欺だーーっ!!!」




あたし――カルミアはもぬけの殻になった店舗の前で絶叫したあと、パパと一緒にモクリエールアレンを結婚詐欺で訴えるため、国一番の弁護士を呼んだ。


⋯⋯しかし。




「えっと⋯⋯カルミア様。貴女はモクレン公に『高額な商品の購入を要求』されたり『過剰な金銭を要求』されたことは無いんですよね?」


「そうだよ。アイツはあたしが金を使うたび『お姫は大事な人だから、無理させたくない』って言ってたもん!! これって本命詐欺じゃん!」


「⋯⋯そうですか。では、金を稼ぐため娼館に斡旋されたりは⋯⋯」


「はあ!? あるわけないでしょ!! アイツはあたしを本命って言ったの!!! どこの世界に本命の女を娼婦送りにする男がいるの!?」


「⋯⋯はあ」




国―番の弁護士のくせに煮え切らない態度でイライラする!!


早くアイツを結婚詐欺で断罪してよ!!




「結論から申し上げますと、モクレン公を結婚詐欺で訴えるのは不可能です」


「⋯⋯は?」


「何故なら、『お姫は大事な人』だとか『君と一緒に夢を叶えたい』という言葉はホストの営業の範疇であり、その中で不当に金銭を要求されたわけでは無いのなら、彼に落ち度は無いということです」




弁護士の言ってる意味が分からずパパを見た。


すると、パパは怒って



「だが、アイツはホストではなく公爵家の次男だぞ!! 公爵家の次男から将来を約束するような話をされたら、誰だって騙されるだろう!!!」



と怒鳴り返す。



すると、弁護士は重いため息を付いて答えた。




「モクレン公は『ホストクラブを立ち上げた際、きちんと国に開業の申請し、確定申告をして税金も払っています』⋯⋯従って、カルミア様と接していた時のモクレン公は『ホストとして接客業務中であった』と『国が証明しているのですよ』」




弁護士は肩をすくめて笑った。




「もし、モクレン公が『ホストになっていなかったら、公爵家の次男と言う立場でカルミア様に言い寄って結婚詐欺をした』と訴えることもギリ可能でしたが⋯⋯。いやあ、ここまで用意周到だと手も足もでませんわ。さすが白い悪魔だ」


「⋯⋯嘘でしょ⋯⋯!?」




この瞬間、アイツが突然ホストになったわけが分かった。


アプローチしてくるあたしを逆に誘惑して、浄化の聖女として働かせる為だったんだ。


そして、後からあたしに『結婚詐欺だ!』と騒がれても『甘い言葉はホスト業務の範囲内の言葉です』と言い逃れが出来るように、全てを仕組んでいた。



完敗。この二文字が浮かぶ。


ここまで完璧にやられたら、もう怒鳴る気力も無い。


あたしとパパは魂が抜けたみたいに天井を見上げていた。







◇◇◇


良い感じにお付き合いありがとうございます!


ちょっとでも

「面白い!」

「先が気になる!」

「チャリに乗るツミキ、可愛いやんけ」

「モクレン、チャリの才能はあるんかい」

「カルミアへのざまぁがキマったなあ……」と


思って頂けましたら、下記の星☆☆☆☆☆から★★★★★5評価を入れてくださると嬉しいです!(私のモチベーションが上がります!)

ブクマとべた褒めレビューとご感想とリアクションもお待ちしておりますぞ!



それでは、何卒宜しくお願い致します~!!!

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