75・まさかの緊急事態です!?
◆◆◆
戦況はどんどん悪くなる。
敵である聖ペルセフォネ王国はあまりにも強大だった。
『敗戦』と言う二文字が我々の頭にこびり付き始めたある日、王家が私にこう命じた。
『かつての錬金術師達が開発しようと試みた、莠コ蟾・逕溷多菴薙�繝�繝ウ繧ッ繝ォ繧ケ繧堤函謌舌☆繧�と言う禁断の魔道具を製造して欲しい』
確かに、莠コ蟾・逕溷多菴薙�繝�繝ウ繧ッ繝ォ繧ケ繧堤函謌舌☆繧�と言う禁断の魔道具があれば、この戦況を変えられるかも知れない。
私は古の錬金術師達が残した暗号を読み解き、禁断の魔道具、莠コ蟾・逕溷多菴薙�繝�繝ウ繧ッ繝ォ繧ケ繧堤函謌舌☆繧�の開発に着手することにした。
文責、ドクトル・繝輔ぃ繧ヲ繧ケ繝�
◇◇◇
「ごめんねツミキ氏、サラサ氏。君らのスマホ開発はもうちょい待ってくれる? 暗号解読で死ぬほど忙しくてさあ」
今日は魔法兵器マグノリア・サイクロンの使用感をマグノリア騎士団に聞くため、久しぶりに騎士団の砦へ来ていた。
そして、午前中の間、私とサラサ先輩は騎士団の戦闘訓練、レンゲ様はドクトル様の日記の解読、モクレン様は近所の牧場から頂いた豚肉の解体をして昼食の準備⋯⋯と言う、それぞれ別行動を取っていたのだ。
その後、昼食前に私達四人は厨房へ集まり、モクレン様の手伝いをしていたのである。
「構いませんよ。レンゲ様はただでさえお忙しいのです」
「そうじゃぞレンゲ。今は暗号解読に集中せえ」
私とサラサ先輩がそう言うと、レンゲ様は
「ありがとうねえ」
と疲れたような声を出す。
「アイパッドとボクのスマホの機能を連携したから、風呂入ってる間も寝る寸前もスマホ片手に暗号解読で、もう眼精疲労がヤバくてさあ。まあ、アイパッドでも通話出来るようになったから、その点は便利だけどさ」
昼食のサラダ用のレタスを千切りながら、レンゲ様がため息を付く。
そんなレンゲ様に、モクレン様が続いた。
「レンゲくんがそんな状態なら、俺用の魔道具武器を作って♡ なんておねだり出来そうにないね⋯⋯」
モクレン様は豚肉の塊を大鉈のような肉切り包丁で解体し、返り血を浴びながら「レンゲくん、いつもありがとね」と労った。
すると、サラサ先輩はトマトを洗いながら
「モクレンには口先という武器があるじゃろ。人それぞれじゃよ」
と宥めるようなことを言う。
私も
「モクレン様は既に充分活躍されております。そもそも、貴方がいなければこの国は既に破滅していたでしょう」
とパン生地を捏ねながら答えた。
⋯⋯これは結構楽しい。
「モクレン様がいなかったら、私はロスベール公爵に婚約破棄されたあと野垂れ死んでいたかもしれません。レンゲ様もサラサ先輩も、貴方がいたから本領を発揮出来たのです」
「ありがとねえツミキちゃん。⋯⋯そう言ってくれるのは嬉しいんだけどさ。⋯⋯でもね」
モクレン様は豚肉を薄く切って塩とコショウなどで味付けした後、大きく重そうなフライパンの上に乗せて焼き始めた。
香ばしい香りに飛びそうになる。これは昼食が楽しみだ!!
「やっぱさ、俺も戦闘力になりたいのよ。カッコよく暴れ回ってツミキちゃんと共闘したいじゃん」
「モクレン様⋯⋯」
私と共闘したいと言うモクレン様へ、嬉しさと同時に胸の『キュッ』と言う鋭く甘い痛みを覚える。
この原因不明の痛みも、私に心が戻れば理解出来る様になるのだろうか。
そんな事を思っていると、レンゲ様が
「それってシドウさんのこと意識してるの? マグノリア大宴会での彼、鬼強かったもんね」
と突然シドウ様の名を口にする。
「ぶっちゃけると、モクレン氏とシドウさんじゃ体質が違うから、彼みたいにってのは無理ゲーかな。あの超人的身軽な動きは、発達した『遅筋』によるものだからね」
レンゲ様の言葉に、サラサ先輩が
「ちきん? チキン? なんじゃそれ。わらわの仲間か?」
と文鳥のように首を傾げる。
「遅筋ってのは、持久力を司る筋肉でね。草食動物的なしなやかな筋肉のこと。⋯⋯ほら、草食動物は肉食動物から逃げなきゃいけないでしょ? だから長時間走ったり跳ねたりするスタミナと身軽さが必要だと思われ。⋯⋯まあ、彼はパワーも人並み以上にあるわけだけど」
レンゲ様の考察に、モクレン様は唇を尖らせて
「ずっりぃなあシドウさん。最強じゃん」
と呟く。
その横顔が幼い子供のようで、いつも余裕綽々で理知的なモクレン様からは想像もつかない。
⋯⋯意外な一面が見れたと、嬉しくなった。
「その一方。モクレン氏は圧倒的に『速筋』タイプだ。モクレン氏、意外と腕や脚が太いし、身体の厚みもあるからね。⋯⋯速筋は遅筋の逆で、太く発達して瞬発力とパワーに長けてるんだ。⋯⋯ほら、肉食動物って草食動物を狩るとき、一気にビュンッて食らいつくでしょ? それだよ」
「なるほど⋯⋯ならば、遅筋はスタミナ重視の長距離走で、速筋は瞬発力重視の短距離走が得意⋯⋯と言うことでしょうか?」
「ツミキ氏、せいかーい」
正解か、これは嬉しい。
パン生地を捏ねる手に力が増す。
「だから、速筋型のモクレン氏がシドウさんみたいに動けるわけじゃないってこと。⋯⋯でも、それは劣ってるとかそう言うんじゃない。ただの個体差。ボクとツミキ氏とサラサ氏が全く違う能力に秀でてるみたいにね」
レンゲ様はそう言って、千切ったレタスの上にプチトマトを良い感じに載せながら、細い片足でモクレン様のしっかりしたふくらはぎを小突いた。
「だから、シドウさんみたいになれないことは君の力不足じゃない。気にすんなー」
「⋯⋯はいはい。⋯⋯でもさぁレンゲくん。そんなら速筋型の俺用に何か魔道具武器でも作ってよ〜。俺、剣も槍もしっくり来ないし、弓もそんな得意じゃないし、斧なんて扱いづらいし魔法も使えないんだからさあ」
大きなフライパンを器用に手首で揺すりながら、
豚肉のステーキを調理するモクレン様が再び甘えるような声を出す。
そんなモクレン様に、私は
「ならば大鎌を使いましょう。僭越ながら私が教授して差し上げます。朝から晩までモクレン様と一緒にいられるなら、喜んでお教えしましょう」
と親指を立てる。
すると、モクレン様は
「ぅ゙⋯⋯ツミキちゃってば、相変わらず純真無垢な直球ぶん投げてくるじゃないの」
と顔を赤くし私から視線をそらした。
今日もモクレン様は相変わらず美青年だ⋯⋯⋯⋯と、平和な時間を楽しんでいた、その時だ。
ズシンッッッと地面が揺らいだ!!
地震か!? と思ったが、これは地震の揺れではない。
まるで、重量のある何かが大地を踏み締めているような、そんな揺れである。
「魔獣か⋯⋯!? みんな料理中止!! マグノリア騎士団を連れて出動だ!」
モクレン様の掛け声とともに、私達は白昼堂々出没した魔獣を駆除するため、調理中の食材を冷蔵魔道具に詰め、外へ出たのだった。
⋯⋯だが、砦の外で私達を待ち構えていたのは。
「モクリエールアレン。貴様をマグノリア・サイクロンと言う名の大量殺戮兵器を開発した『危険武器製造法違反』と『外国貿易法違反』で緊急逮捕してくれる」
武器を構えた大勢の聖騎士団と貴族らしい人々を引き連れたロスベール公爵が、冷く無機質な声でそう告げた。
すると、モクレン様は私達を護るように前に出る。
「兄貴、久しぶりの登場でこれかよ。ベルさんが飛んで落ち込んでんじゃねえかって同情したのが馬鹿みたいだわ」
「母上は失踪したのではない。母上は執事長に拐われただけ。だから、私が教皇王となり、母上のご期待に沿うことが出来たなら、きっとお戻りになる」
「兄貴、言ってること矛盾してるのに気付いてる? 拐われた相手の期待に応えても戻れないでしょ。拐われてんなら助けてやれば?」
「⋯⋯この場で全員逮捕しても構わぬぞ。貴様らが開発した魔法兵器は国家の安寧を脅かす武力に相当するのだから」
ロスベール公爵は逮捕状と思われる書類を片手に罪状の言葉とやらを続けるが、今は彼等と揉めている場合では無い。
巨大な地響きを立てる魔獣を一刻も早く駆除しなければ。
一体どうして、こんな忙しい状況でやって来たのだ。
⋯⋯まさか。
「ロスベール公爵、貴方はモクレン様を逮捕するため、『魔獣が出現し混乱したタイミングを狙って来た』と言うことなのですか?」
「さあな。⋯⋯少なくとも、今の状況で話を長引かせたいか?」
「! 魔獣が出たなら団長である貴方と聖騎士団達こそ出動するべきでしょう!? こんな事をしている場合なのですか!?」
「内乱から民の安寧を護るのも私の役目だ」
ロスベール公爵は、何やら様子がおかしい。
まるで何かを覚悟しているような、人として大事な何かが吹っ切れているような、そんな状態だ。
「モクリエールアレンは、大量殺戮が可能な魔法兵器を秘密裏に開発しただけでなく、それを他の地方に無料でばら撒いた。⋯⋯ならば、貴様は親交のあるフォティオン王国のナルテックス鉄工にも、魔法兵器の設計図を渡した可能性がある。⋯⋯我が国で開発された大量殺戮兵器の設計図が他国にわたるなど、戦争の火種になりかねない」
「ロスベール公爵!? そんな証拠どこにあると言うのですか!?」
「ならばやっていない証拠を今ここに出せ。ことは国家の公安事案に関わることだ。ユーフォルビア一族如きが口を出して良い話題じゃない」
反論したいが、正体不明の魔獣によるズシンズシンと言う地面を揺らす足音は、どんどん近付いてくる。
まさに、緊急事態だ。早く動かねば取り返しのつかない事態になってしまう!!
「ツミキちゃん」
「はい? ⋯⋯!?」
突然、モクレン様が強い力で私を抱きしめた。
今までは壊れ物を扱うような優しい力だったのに、今回はまるで私と言う存在を身体全体で覚えようかとするような、そんな抱きしめ方だ。
そして、私の耳元へ小声で囁いた。
「どうやら俺が行かないと事態は膠着したままっぽいね。いや〜兄貴は母親の失踪で心神喪失してるって油断して、対策を怠った俺のミスだわ」
「モクレン様。もしや、ロスベール公爵はマグノリア・サイクロンの利益を狙っているのでは⋯⋯?」
「だろうね。⋯⋯それに、今回は兄貴だけじゃない。『兄貴派の貴族達』が入れ知恵してるみたい。だから、国民が絶対に逆らえない公安事案って言葉を持ち出して、魔獣の出現と同時に逮捕しに来るみたいなことをやりやがったんだよ」
モクレン様はそう言ってから、私に向き直る。
いつもの余裕綽々とした美青年の微笑みだ。
「ツミキちゃんは、みんなと一緒に魔獣の対策に行って欲しい。⋯⋯大丈夫。俺、絶対帰ってくるから。⋯⋯言ったでしょ? 『君の心を一緒に取り戻そう』って」
「⋯⋯かしこまりました。モクレン様のお帰りをお待ちしております。ですから、魔獣はお任せを」
そう言って、私達は離れた。
すると、モクレン様は次に身を屈めてサラサ先輩を抱きしめると、今度はレンゲ様を抱きしめた。
耳元で何かを囁かれたレンゲ様は目を見開くと、ゆったりした上着の袖をモクレン様の背に回す。
そして、すっと離れてから
「ほら兄貴、みんなとの抱擁は済んだぞ。さっさと話し付けに行こうか」
と肩を竦めたのだった。
◇◇◇
「美味!! 最近の即席乾麺は美味しいですねえ」
モクレンが公安事案でパクられた頃。
ファウスト枢機卿長は、プルトハデス王城の中庭にある噴水に座り、ホッとした表情を浮かべながら即席乾麺――カップ麺を啜っていた。
「プルトハデスの即席乾麺もレベルが上がりましたねえ。最初は食べられたもんじゃ無かったのに」
笑顔のファウスト枢機卿長は、そう言って即席乾麺の汁を飲み干したのだった。
◇◇◇
良い感じにお付き合いありがとうございます!
ちょっとでも
「面白い!」
「先が気になる!」
「モクレン…まさかの公安事案か…」
「ロスベール、嫌な覚悟が決まってんな」
「ファウスト枢機卿長、このタイミングで何カップ麺すすっとんねん!!」と
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