70・白豚の悪夢(前半?視点 後半カルミアとモクレン視点)
◆◆◆
『人を殺してはいけない理由って、何だと思う?』
多くの敵を屠り戦乙女と崇められるユーフォルビアが、今にも消えてしまいそうなほどの暗い顔でそう言った。
その問いに私は答えられなかった。
だが、口の上手いアイツはこう答えた。
『そりゃ、取り返しがつかないからでしょ〜よ。
死んだ人は二度と生き返らないし、その人が死んだことで傷付いた周りの心も二度と元に戻らないからね』
その答えに、ユーフォルビアは
『ああ、やはり貴方の言語化能力は素晴らしいな』
と、暗い顔が一変。
花が咲くように美しく笑った。
⋯⋯⋯⋯。
⋯⋯今でも、人を殺してはいけない理由が答えられない。
私の元々の気質のせいなのか、それともこの戦争で人を殺し過ぎたせいなのか。
私は、未だにこの答えを探している。
文責、ドクトル・繝輔ぃ繧ヲ繧ケ繝�
◇◇◇
「のじゃー。人を殺してはいけない理由か? そんなん、殺人に許可を出したら絶滅するまで殺し合うからじゃろ。んなもん歴史が証明しておるわ」
少し遅めの朝という爽やかな空気は、サラサ先輩の小鳥のような声で放たれた物騒な言葉で、一気に重くなったのじゃ⋯⋯
あ、のじゃが移った。
私達はレンゲ様が解読したドクトル氏の日記の内容を聞きながら、食堂にて朝食のパンを食べていたのだ。
残念ながら、朝食はモクレン様が作った食事ではない。
ここ数週間、モクレン様は魔法兵器マグノリア・サイクロンを広めるために、従者役のレンゲ様を連れて毎日毎日パーティだの会食だのと色んな場所を飛び回っていたから。
目が回るほどにお忙しいモクレン様に料理を作る体力は無く、最近の食事は買ってきたものや出前などが続いている。
勿論、買ってきたパンも出前もとても美味しく飛ぶぞ状態になるが、やはりモクレン様の料理が一番美味しいと思う。
「モクレン様はまだお休みなのですね」
「そだねぇ。ボクが朝に起きてモクレン氏がまだ寝てるなんて、なんか不思議」
「ほんとじゃのう。ヤツは大丈夫なのか?」
私とレンゲ様の会話にサラサ先輩が続いた。
その疑問を、レンゲ様が答える。
「まぁ⋯⋯正直休ませたいんだよね。昨日も王都の有力者達が集まるパーティでバカほど飲まされてさ。その後は医者業界の婦人会に呼ばれて、勧められる手料理を全て食べるとかいう荒業をしてたから。そうやって媚び売りまくる営業方法も、身体が壊れたらどうにもならないからね」
「⋯⋯モクレン様」
モクレン様は今、教皇王を目指すべく必死に動いておられるのだ。
私も、モクレン様のために何かがしたい。
だが、何をしたら良いのかわからない。
もどかしさを抱きながら、レンゲ様に話を振った。
「レンゲ様。モクレン様の本日のご予定は⋯⋯」
「えっとねえ。今日はこのあと三時間後にあるハイタカ地方の資産家達と舞台鑑賞をして、リリーズ地方の侯爵家と会食をして、冒険者業界の重鎮達と魔獣駆除の報酬金値上げについての意見交換会をして⋯⋯」
「冒険者の会議にまで⋯⋯国中を飛び回るということですか⋯⋯」
「そだね⋯⋯それに⋯⋯⋯⋯あ」
レンゲ様が苦々しい顔で、
「今日はカルミアが出稼ぎ修行から返ってくる日だ⋯⋯。魔法兵器開発記念イベントでシャンパンタワー立てるって張り切ってたから⋯⋯」
と頭を抱える。
「出稼ぎ修行⋯⋯ですか?」
「うん。何でもハイタカ地方の東にあるリリーズ地方で、聖なる泉に体を浸けたり、神殿を巡って光魔法のパワーを高めたり、畑を荒らす猪魔獣を光魔法で倒したりするんだって」
「そうですか⋯⋯。あのキュアピュアヒールが強化されるのなら、国のためにもなりますね」
「キュアピュアヒール? 何それ」
「カルミア様が扱うヒールのことです。ええと」
私はカルミア様のキュアピュアヒールを不敬ながら真似をした。
美しい心と輝く笑顔云々の口上を言ったあと、祈るように組んだ手から人差し指を突き出し狙いを定め、何かを発射するような動きをした。
「以上です。恐れ入ります」
「⋯⋯美しい心と輝く笑顔の口上、自分で考えたのかな」
レンゲ様は遠くを見ながらそう言った。
◇◇◇
「美しい心と輝く笑顔で夢と希望をみんなにお届けっ! キュアピュアヒールっ☆」
あたし――カルミアは、リリーズ地方に出稼ぎ修行に来ていた。
でも、それは今日でお終い♡
「今夜はモクレン様の店で魔法兵器開発記念イベントがあるんだもん!! 特別に可愛くなって、七号を⋯⋯被りを伝票でぶっ殺す!!」
被りを伝票で殺す⋯⋯と言うのは、同じホストに入れ込む相手を、使った金額で蹴散らすという意味だ。
それに、今日はお友達⋯⋯と言う名の『あたしを成り上がりと馬鹿にしたブス共』をモクレン様の店に招待したから。
美貌とお金と浄化の聖女としての名誉を持つあたしが、今最も勢いがある美青年のモクレン様に溺愛される様を見せつけて、悔しがらせて見返してやるんだ!
そして、ついでに伝票で七号を殺す。
そもそも、モクレン様はあたしを『大事な人』って言ったし、あたしがお金を使うたびに『大丈夫?』って心配してくれるんだから!
これはもう本命でしょ!
ざまぁブス共。ざまぁ七号。
あたしは一旦実家の屋敷に帰ると、メイド達にすっごく可愛くしてもらった。
メイクに髪型にドレスに靴。全部完璧♡
あたしはるんるんした気分で馬車に乗った。
そして、約一時間後。
マグノリア地方の歓楽街にあるホストクラブ『メフィスト』の前に来ると、すでにブス達が到着していた。
「これはこれは浄化の聖女カルミア様。お育ちの良いご登場ですわね」
これは『ゆっくり来やがって、遅いんだよ』と言う意味の嫌味だ。最初はこれに気付かず笑いものにされたっけ。
⋯⋯こう言う回りくどいブス相手には。
「そうだよっ! あたし、パパとママからすっごく溺愛されてるの♡」
愛されてるマウントで殴り返すのが一番だ。
すると、あたしに嫌味を言ったブスは豚みたいに顔を歪めて悔しそうにする。
あんたの親は美人の妹ばかりを可愛がるクソ親だもんね。知ってるよ。だからパパとママに愛される可愛いあたしが憎いんでしょ。あー可哀想♡
他の連中も、みんなそんなやつばっか。
だから誰からも愛されてる可愛いあたしに八つ当たりするんでしょ?
でも、あたしはパパとママと今最高に勢いがある美男子のモクレン様に愛されてるから♡
あたしはるんるん♡って感じでメフィストの扉を開――――――
「お姫〜!! 待ってたよ〜!! いらっしゃ〜〜い!」
「⋯⋯⋯⋯白豚」
「え?」
「なんで見た目が白豚時代に戻ってんの!?」
そこにいたのは、子供時代ほど肥満ってわけじゃないけど、少し太って浮腫んですらいて、化粧で無理矢理隠したニキビが目立つモクリエールアレンがいたのだった。
こんな白豚に溺愛されても、ブス共は羨ましがらないじゃん!!!
◇◇◇
ブチギレるカルミアを、俺はとにかくなだめ続けた。
「ごめんねえお姫、最近忙しくて」
「はあ!? こっちは頑張って浄化の聖女の出稼ぎ修行して来たのに!! あんたのために金払ってのに! あんたを見せびらかして皆を見返したかったのに!!! それなのにブクブク太った白豚に戻ってあたしに恥かかせて! 今の醜いあんたに価値なんか無いじゃん!!!」
「ま、まあまあお姫、落ち着いて落ち着いて」
「落ち着けるわけ無いでしょ!!! プロ意識足りてないんじゃない!? プロならちゃんと夢見せてよ!!! あたしのママは大女優らしくいつも綺麗にしてるの!! 見習えよ!!」
コイツの言う通り、俺の容姿は劣化していた。
ここ数週間、色んなパーティや会食やらで大量の飲酒と大量の食事をしただけでなく、睡眠時間すらまともに取れずずっと二日酔いだったから。
しかも、さっき吐いたばかりでふらついている。
ああ⋯⋯無茶し過ぎたな。俺まだ二十三で若いしなんとかなるっしょと思ってたけど駄目だった。
「白豚時代のあんたに価値なんか無いの!!!」
白豚。ああ、ガキの頃コイツに言われた言葉を思い出す。
不細工な男は人に非ずと痴漢扱いされ晒し者にされた、あの時の俺がこちらを見ている気がした。
でも、コイツの色恋感情を操り浄化の聖女として修練を積ませ、根源の大樹を復活させた功績で教皇王となり、ツミキちゃんをユーフォルビアの呪縛から解放したいから。
頑張れ、踏ん張れ、吐き気がなんだ、目眩がなんだ。
ツミキちゃんは、俺よりもっと酷い目に遭いながらも、魔獣と闘い続けてきたんだから。
「ごめんねぇお姫」
駄目だ⋯⋯フラフラする。
これはあれだ。ガキの頃婆ちゃんと一緒にチャリに乗る練習をした時に近い。
最初はバランスを取れずにフラフラしたけど、意外とすぐ乗れたんだよなぁ。
俺、ホスト以外にもチャリの才能はあったんだな⋯⋯。
「ねえ聞いてんの!?」
「お姫ごめんねぇ。次会う時はお姫のために仕上げてくるからぁ〜」
「⋯⋯お姫お姫ってさあ」
「え?」
あ〜駄目だあかん、目が回る。
レンゲくんは今裏方でタワーの準備をしているから、俺がコイツをなんとかしないと⋯⋯。
「前に言ったあたしの本名、覚えてる?」
「お姫〜不安にさせてごめんねえ」
定型文的な台詞を言いながら、グッチャグチャになった頭を働かせてコイツの本名を思い出す。
「カルミア姫、がっかりさせてごめ」
「カルミエラ」
「は?」
「あたしの本名はカルミエラ!!! あたしが可愛くなるようにって花から取ったの!!! ママが付けてくれたの!!! この前言ったじゃん!!!」
「うるせえな知るかよ」そうだよねえこの前聞いたもんねえごめんねぇ⋯⋯
⋯⋯!!!!! あ、ヤバい、酒に酔い過ぎて本音が出た。マズい、カバーしなければ。
「カルミアでもカルミエラでもパエリアでも何でも良いじゃんお前の名前なんか」
⋯⋯駄目だ。本音が止まらない。我ながらなんて酷いことを。
でも、言葉が出ない。嘘が付けない。ヤバい。なんで。
限界を超えた頭と身体は、嘘を付く気力すら無いというのか。
それとも、忘れもしない子供時代の忌まわしい出来事が暴走しているのか。
ああ、パエリアの背後にガキの頃の俺がいる。
醜く太って顔はニキビでグッチャグチャな、白豚と罵られた俺が暗い顔で言っている。
『あの時の恨みを晴らせよ、俺』
その時、パエリアの心を一撃で破壊する言葉が浮かんだ。
『お前ほんとはママに愛されてないんじゃねえの? だから不安でママがママが言うんだろ?』
でも、これは人として言ってはいけない。
この一線を超えたら、俺もパエリアと同じになる。
嫌だ。化け物にはなりたくない。
目の前が揺れて立っていられない。
あ、倒れる。
⋯⋯もう、駄目かも。
微かに呟いたその時だ。
「モクレン様。お待たせ致しました。被りを伝票で殺しに参りました」
「⋯⋯ツミキちゃん? なんで」
地面に倒れそうになった瞬間、突然現れたツミキちゃんに抱きかかえられた。
暖かくて柔らかくて良い匂いがする。ずっとこうしてたい。
「モクレン様のために何か出来るかと考えた時、ホオノキ様より『冒険者は魔獣駆除の報酬を貰えるのに貴女が貰えないのはおかしいから』と報酬金を頂きました。なので、モクレン様に一撃ブチ込もうかと」
「そっか⋯⋯それじゃ、ツミキ姫のシャンパンタワー、入りま〜す」
そう呟いたあと、俺の意識は遠退いたのだった。
◇◇◇
良い感じにお付き合いありがとうございます!
ちょっとでも
「面白い!」
「先が気になる!」
「モクレン…ついに限界が来たか…!」
「ツミキお前ほんとスパダリだな!」と
思って頂けましたら、下記の星☆☆☆☆☆から★★★★★5評価を入れてくださると嬉しいです!(私のモチベーションが上がります!)
ブクマとべた褒めレビューとご感想とリアクションもお待ちしておりますぞ!
それでは、何卒宜しくお願い致します~!!!




