62・むかしむかし(前半?視点)
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僕がまだ子供だった頃。
気が付いたら、戦争が始まっていた。
幼い自分には何も分からなくて。
でも、大人達が日に日に余裕を無くし、険しさの滲む笑顔でプルトハデス国を過剰に賛美し始めた時から、なんとなく『あ、ヤバいんだ』って肌で感じた。
そのうち、その過剰な賛美は純然たる真実だと分かった。
僕達は創造の女神プルートによって作られた大地に生きる女神の子であり、女神プルートの慈悲である魔導結晶を奪いに来た隣国の人型ゴブリン共は抹殺せねばならない。
僕は当然、海を超えた隣の国――聖ペルセフォネ王国の連中を雷魔法で黒焦げにして殺しまくった。
僕は、不可能とされていた雷魔法を制御することが出来たから。
人型ゴブリン共を殺すのは、とても簡単だった。
そして、僕は得意の魔道具発明で同志達を支援した。
やがて、僕――私は大人になった。
私は、雷魔法部隊を率いる部隊長兼魔道具研究所所長として、国を護るために粉骨砕身で尽力した。
ゴブリン共を雷魔法で消し炭にする一方、魔法科学による兵器――魔法兵器を開発する。
最初は大いに捗っていたが、徐々に人手が足りなくなり、魔法兵器の開発も進まなくなってきた。
もっと人手が欲しい。
そんな時に、一人の女性がプルトハデス軍に入ってきた。
彼女の名は、繧ー繝ャ繝シ繝医ヲ繧ァ繝ウ・ユーフォルビア。
大鎌を振るい首を狩る姿はまさに死神のようであったが、彼女は皆から愛されていた。
それは、漆黒の髪と黄金の目を持つ美女だったから、と言うだけでなく、とても感情豊かで豪快で人懐っこい性格をしていたからである。
とても明るくユーモアに満ちていて、日に日に貧しくなっていく食事を前にしても、豊富な語彙力でその食事をたくさん褒め称えていたくらいだ。
彼女のお陰で、我々の食事の時間は生命を維持するための手段ではなく、生きる喜びを実感出来る幸せな一時へと変わった。
そんな繧ー繝ャ繝シ繝医ヲ繧ァ繝ウに、多くの人が――――――私は恋をした。
だが、庶民階級である私と公爵令嬢である彼女は本来言葉を交わすことすら叶わない関係だ。
この恋心は、根源の大樹にでも沈めておこう。
文責、ドクトル・繝輔ぃ繧ヲ繧ケ繝�
◇◇◇
「まさか⋯⋯ユーフォルビアが女性で、大佐と呼ばれる地位に着いていたとは⋯⋯」
オヤジ様――フウロウ殿の『ユーフォルビア大佐』発言のあと。
フウロウ殿は力尽きたように倒れ込んでしまい、しばらく眠ったあと、全てを忘れてしまっていた。
もう少しで重大なことがわかりそうだったのに⋯⋯と落胆した私達は、レンゲ様の雷魔法の稽古のあと、少し遅い時間に彼の提案で流し素麺なる食事をしながら色々と話し合うことにしたのだ。
「レンゲ様、流し素麺とは随分不思議な食事ですね⋯⋯! 真っ二つに割った竹を組み立てて滑り台のようにし、そこに水を流し素麺を滑らせるとは⋯⋯!」
「そうでしょー。ボクやホオノキ氏の出身地であるハイタカ地方で有名なものでね。暑い時期の風物詩みたいに呼ばれてるんだよぉ」
「ホオノキ様もですか!? ですが⋯⋯同じ出身地なのに訛りが大きく異なるようですね」
「そうだねえ。同じハイタカ地方でも、ボクはマツバラ地区で、ホオノキ氏はギオン地区出身だから。地方は同じなのに住む場所で訛りが違うなんて、不思議だよねえ」
レンゲ様は流し素麺台の出発地にタンクを取り付け、そのレバーを微調整しながら水の勢いを整えている。
その一方、モクレン様が
「よ〜し! それじゃ一旦素麺流すぞ〜」
と箸でひとつまみした素麺の塊を流れる水へ乗せる。
すると、サラサ先輩が
「ツミキ! 良いタイミングを狙って麺を取るのじゃ!!」
とお声をかけて下さったので、素麺が流れてきた一瞬を狙って箸を滑らせる。
瞬間、皆様から拍手をされ嬉しい状態と楽しい状態と誇らしい状態になった。恐れ入る。
そして、箸で取った麺をモクレン様特性の麺汁に付けて啜ると、一瞬で飛ぶぞ状態になった。
「モクレン様!! 流し素麺とは旨味と涼が取れると同時に達成感も得られる食事ですね! そして、舌触りの良い細くしなやかな麺が麺汁の爽やかな甘味と辛さと旨味と絡み合い、喉越しがとても心地良いです!!」
「ツミキちゃ〜ん! 昼の食レポもキレッキレだね〜!! そんならガンガン流して行くから、みんなどんどん食いなよ〜」
モクレン様のお言葉に甘え、私達は流れてくる素麺をそれぞれ箸で取りながら素麺の心地よい食感を味わった。
少しして、レンゲ様が
「モクレン氏、今度はボクが素麺流すからキミも食べな」
と選手交代した。
モクレン様は流し素麺を箸でさっと捉え、麺汁に浸し一口啜ると、
「そう言えばさ〜レンゲくん」
と話題を切り出した。
「さっきフウロウ殿がツミキちゃんを見て『ユーフォルビア大佐』つったじゃん。だから、もしかして、フウロウ殿が持ってた暗号だらけの資料の束に、ユーフォルビア大佐の情報があるかもと思うんだけど、どうだった?」
「あー、それね。ボクも同じこと思って稽古の休憩中に暗号解いてたんだけど、全然駄目。ユーフォルビア大佐ってのが、公爵令嬢であることと、感情豊かで豪快で語彙力が豊富で食レポが得意だったのと、鬼強え美女だったってことしか分からなくて⋯⋯」
レンゲ様は素麺を流しながら言葉を続けた。
「正直、どの資料も解読の難易度が馬鹿ヤバくて、一番解読しやすそうな日記っぽいのから取り掛かったんだけど、書いたのはフウロウ殿じゃないっぽくてさぁ」
そう言ったレンゲ様へ、サラサ先輩が
「じゃあ誰っぽいのじゃ?」
と素麺を啜りながら尋ねた。
「あーそれね。多分なんだけど、さっき朝ご飯中に話したドクトルって言う人だと思う。ほら、フウロウ殿以上の雷魔法の鬼才で、魔道具を創るのも天才だった人」
レンゲ様のお話を思い出す。
彼は解読中の資料からドクトルという名前を特定したのだった。
「一つ良いでしょうか、レンゲ様。何故フウロウ殿の資料の中に、ドクトル殿の日記の一部が紛れていたのですか?」
私は、流れる水に素麺を滑らせるレンゲ様に聞いた。
そう言えば、レンゲ様は雷魔法の訓練後でお疲れの筈。素麺の美味しさに飛んでいる場合ではなかった。今度は私が素麺を流す番だ。
レンゲ様へ素麺を流す役を代わりますと告げると、彼は「ありがとぉー」といつものへにゃっとした笑顔を浮かべる。
そして、地面に腰を下ろし素麺を啜りながら、話を続けた。
「ツミキ氏の疑問はボクが思うに、毒でボロボロのフウロウ殿が生き残った大人のハイエルフとして同族の子供達を護るため、敗戦が濃厚でヤバい状態の軍から急いで逃げ出した時、咄嗟に持ち出した資料にドクトルさんの日記が混ざってたって感じかと思われ」
レンゲ様の考察に、疑問が浮かぶ。
「あの、僭越ながらレンゲ様。暗号を使うほどの情報が記載された資料をフウロウ殿が持ち出したのなら、当時のプルトハデス軍は何故フウロウ殿を野放しにしたのでしょう?」
私の疑問に、モクレン様が答えた。
「それは⋯⋯国的にハイエルフを失うわけにはいかなかったんじゃないかな。だって、ハイエルフは自然を活性化させる力があるのと同時に、『長命』だから」
「長命⋯⋯」
ふと、サラサ先輩を見た。
頬をリスのように膨らませて美味しそうに素麺をもぐもぐ食べるサラサ先輩は、子供のように見えて三十年は生きている。
私達が寿命でこの世から旅立っても、サラサ先輩はずっと永遠と生き続けるのだ。
そう思うと、胸の奥に肌寒い風が吹き抜けるようだった。
そんな事を思う私へ、モクレン様が話を続ける。
「プルトハデス国にとって一番ヤバいのは、戦勝国である聖ペルセフォネ王国に歴史を奪われること。⋯⋯でも、こっちには長命のハイエルフがいる。例え歴史の教科書を自分達で作れなくなる時が来ても、ハイエルフが歴史を語り継いでくれるから」
「つまり、ハイエルフは生きた歴史の教科書ってことなのですね」
「そう。しかも、長命でたくさん知識を持つハイエルフは、いずれ国にとって無くてはならない重鎮になって、聖ペルセフォネ王国とも互角に戦える外交上の切り札になる。だから、国としては絶対に生きてて欲しい人材なんよ」
「なるほど⋯⋯」
長命故に知恵と知識に富んだハイエルフは、将来的に優秀な外交役になるだろう。
そんな彼らがいれば、プルトハデス国の歴史も失われない。
サラサ先輩にも、きっとこの国の顔役になる日が来るのだろうと彼女の丸い頬を眺めていたら、モクレン様と目があった。
「それにしても、フウロウ殿は賢い方だね。軍から資料を持ち出して逃げるなんて。大したお方だ」
「? モクレン様。私には、資料を持ち出すという危険な行為を何故? としか思えないのですが⋯⋯」
疑問符に頭を埋め尽くされながら素麺を流すと、モクレン様はそれをスッと箸で取り、啜ってから答えた。
「それはねえ⋯⋯後世のハイエルフ達を護るためだよ」
「護る⋯⋯ため?」
「そう。国にとってハイエルフは重要な存在だから。⋯⋯最悪、国がハイエルフの子供達を監禁するとか、非道なことをするかもしれない。⋯⋯だけど、その子供達はフウロウ殿が持ち出した極秘資料の中身――この国の弱みを知っている可能性がある。しかも、そんな彼らにはいずれ外交という表舞台に立ってもらわなきゃいけないわけで」
「! ⋯⋯つまり、もし秘密を知っているハイエルフに酷いことをしたら、そのハイエルフが外交役になった瞬間機密を暴露して復讐する恐れがある⋯⋯! と言うことですか!」
「そ。国は歴史の生き証人となるハイエルフに最強の外交役になって欲しい。だけど、ハイエルフにヤバい秘密を握られている可能性もある。そんなハイエルフには消えて欲しいけど、国のためには生きててもらわなきゃいけない。しかも、国に愛情を持ってもらわないと、表舞台に立った瞬間ヤバい秘密をぶち撒けられて国が終わる恐れがある。⋯⋯だから、国はハイエルフに迂闊に手を出せない」
「⋯⋯なるほど」
プルトハデス国としては、将来の外交役であるハイエルフにこの国を愛してもらわないと詰みだ。
それに、自分達の弱みを握っている可能性があるハイエルフに迂闊に接触すれば、最悪自分達が弱みに付け込まれる可能性がある。
だったら、そっと距離を取って見守るのが一番だろう。
フウロウ殿は同胞の子供達を護るため、この構図を描いたというのか。
「だからさ。もし日記や資料の解読が進んでも、情報は俺達の中に留めておこう。下手に『これが真実だ!』って口外したら、国に『ハイエルフ達がどのくらい暗号を解いて情報を握っているのか?』がバレちゃうし」
モクレン様の言葉に、サラサ先輩が
「わらわ、調子こいてうっかり言っちまいそうで怖いのじゃ⋯⋯」
と眉を下げる。
そんなサラサ先輩へ、モクレン様が
「大丈夫大丈夫。兄貴やカルミアじゃないんだから。サラサは賢いから大丈夫だよ」
と笑って答えた。
すると、レンゲ様が
「そういやモクレン氏、ロスベールって言えばさ、あれから王都に魔獣が出たって連絡スマホに来た? 一応『夜行性の魔獣が光や人の匂いに釣られるから夜間のイベントは止めた方が良い』って王都側に連絡はしたんだけど」
と素麺を啜ってから言った。
「魔獣は大丈夫っぽい。さっき婆ちゃんから平和やでって連絡があったから。⋯⋯でも」
モクレン様が考え込むような顔で、こう続けたのだった。
「兄貴の様子が⋯⋯どうにもおかしいんだって」
◇◇◇
良い感じにお付き合いありがとうございます!
ちょっとでも
「面白い!」
「先が気になる!」
「狂戦士ユーフォルビア、女やったんかい」
「ドクトルって誰だよ!」
「流し素麺良いなあ~」と
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それでは、何卒宜しくお願い致します~!!!




