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【完結】虐げられた死神令嬢ですが、陽気な騎士団長に溺愛されて幸せになりました。〜一方、私を捨てた元婚約者は知らない間に破滅してました〜  作者: ぷきゅのすけ
第三部 死神令嬢、ひたすら愛される

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61・生クリームのような呪い(モクレン視点)

「チョコムースだったら、オヤジ殿も食べるのも楽だと思うんだよね〜」




そう言いながら、モクレン様は厨房にてボウルを片手に生クリームをかき混ぜていた。


その隣で私はチョコレートを刻むという任務に付いている。



その一方、レンゲ様はガンショウ殿やサラサ先輩と一緒に雷魔法の稽古中だ。




「それにしても、レンゲ様は素晴らしい方ですね。何やかんや文句は言うものの、モクレン様のお力になるため尽力されているのですから」


「⋯⋯いや、レンゲくんが頑張ってんのは、俺のためじゃないんよ。⋯⋯プルトハデス国が国力を取り戻したら、聖ペルセフォネ王国に行くって言う夢があるから頑張ってくれてんの」


「え」




突然のことで驚いてしまい、チョコを切り刻む手を止めてモクレン様を見上げた。


モクレン様は遠くを見ながら話を続ける。




「レンゲくんの才能はこの国じゃ宝の持ち腐れだもん」


「⋯⋯確かに。私達を何度も助けてくれたレンゲ様の魔道具は、聖ペルセフォネ王国から引き受けた魔道具ゴミから開発された物ですからね」




当たり前のようにレンゲ様の魔道具の恩恵を受けて来たが、元を辿れば全て聖ペルセフォネ王国の文明力によるものだ。


レンゲ様は、どんな思いで聖ペルセフォネ王国の魔道具ゴミを拾っていたのだろう。


寡黙で気怠げながらも優しいレンゲ様のお心を思うと、言葉が見つからない。


私はただ、モクレン様の言葉を待った。




「まあ、今はレンゲくんがいないとプルトハデス国は詰みだからさ。こっちに居てもらわにゃならないんだけど。⋯⋯全部問題が片付いたら⋯⋯そん時は⋯⋯聖ペルセフォネ王国に羽ばたいてもらおうじゃないの」




モクレン様の声が弱々しく震えた。


もしかして、この発言は⋯⋯。




「モクレン様。それは、嘘ですか?」


「!!? ⋯⋯ぁ、あ〜⋯⋯バレちゃった? ぁはは」




やはり、嘘だったか。


そして、嘘と判断出来た自分にも驚いた。


心無き私には嘘を見抜くなど不可能であると思っていたから。


限度はあれど、意外と人に不可能は無いのかもしれない。




「ツミキちゃん。これは二人の秘密にして欲しいんだけどさ。⋯⋯俺ね、レンゲくんのこと兄貴みたいに思ってんの」


「レンゲ様が、兄君⋯⋯ですか」


「うん。⋯⋯ほら、俺の兄貴ってアレじゃん。⋯⋯だから、仲の良い兄弟ってのに、ちょっと憧れがあってね」




モクレン様は照れたように笑いながら目を細める。




「いっつもレンゲくんをコキ使ってるけどさ。文句言いながらでも応えてくれるから。気が付きゃいっつも甘えてる」




振り返ってみると、モクレン様とレンゲ様はたまに兄弟のようにも見えた。


甘え上手で要領の良い弟と、天才的な創造力を持つ心優しい兄。


お二人の関係は、そんな感じと言っても差支え無いだろう。




「だからさ。レンゲくんには幸せになって欲しいんよ。⋯⋯聖ペルセフォネ王国にレンゲくんの幸せがあるなら、そっちに行って欲しい。俺が呪いになっちゃ駄目だから」


「呪い⋯⋯ですか?」




突然禍々しい言葉が飛び出して来た。


この文脈における呪い⋯⋯とは、一体どう言った意味を持つのだろうか。


モクレン様の言語化を待った。




「呪いってのはね。足枷と似てるのかな。『本当は別の場所に行きたいのに、俺がいるから離れられない』って奴よ。義理堅い奴ほど『俺を裏切れない』って離れられなくなっちゃうヤツ」


「⋯⋯確かに、レンゲ様は義理堅い方ですからね」




何やかんやで義理堅いレンゲ様は、決してモクレン様を裏切らない最強の副官と言える。


でも、それはレンゲ様の聖ペルセフォネ王国に行きたいという夢を阻む呪いに変わってしまう。


人と人の関係とは、実に難儀である。




「ツミキちゃん、君もだよ」


「え」




突然私の名を出され、気の抜けた声が出た。


私が、同じ? 一体どう言う事だろう。


意味が分からずモクレン様の顔をじっと見る。



モクレン様はただ、優しく微笑むだけだ。




「残念ながら、現状ツミキちゃんの力を借りないと詰みなんだけど。でも⋯⋯問題が全部片付けば、君も、自由に色んな場所に行って良いんだ」


「? 私はモクレン様のお傍で、命が尽きるまでその優しさに応える所存ですが⋯⋯」




死ぬまでモクレン様の傍で、頂いた優しさと恩義に応え続ける。


それはまさに。




「モクレン様。私は貴方こそが幸せ――――⋯⋯」




幸せ、と言う単語が自然と口から出た。


私の幸せは、モクレン様なのか。

 

やっと分かった。私の幸せとは、モクレン様である!


新しい発見をして嬉しい状態になる私は、モクレン様にこの衝動を伝えたくて仕方ない!




「モクレン様! 私の幸せは貴方です! 私の生きる理由は貴方で――」


「ツミキちゃん」




モクレン様は優しく微笑んだままだ。


でも、生クリームをかき混ぜる手を止め、体ごと私の方へ向いている。





「ありがとう。嬉しいよ」


「! はい! 私の幸せはモクレン様であり、私は貴方のために生きていきた――」


「でもね」




モクレン様は、優しく笑ったままだ。




「ツミキちゃんに最大の敬意と感謝を持って言うね。⋯⋯俺を生きる理由にしちゃ駄目だよ」


「ぇ? ⋯⋯え?」


「他人を生きる理由にしたら、それはいずれ呪いに変わる」


「あ、あの? 一体⋯⋯何を、仰っているのですか⋯⋯?」




仰ることが何一つわからない。


モクレン様を生きる理由にしては駄目なのか?

モクレン様が私の幸せと言うのは駄目なのか?


私の頭は疑問符に埋め尽くされた。




◇◇◇




ツミキちゃんから夢のように甘過ぎる言葉を言われ、生クリームみたいになった理性のまま抱き締めてしまいそうになった瞬間。


『あ、これホストと客じゃん』と気付いてしまった。



生きる理由を持たない空虚な女性が、一時的に心の穴を埋めてくれるホストに身も心も捧げてしまう、あの地獄の構図。



例えを変えるなら、男性向けの生クリームたっぷりな異世界ハーレム小説みたいな。


酷い扱いを受けていた女奴隷が主人公にちょっと優しくされただけで、相手を救世主のように慕い全てを捧げるようなアレである。


こう言った物語は客が存在する商売であるから特に何も思わない。


だけど、いざ自分が全く同じ状況になって思い知った。


なんて甘美であり、そして残酷な展開なのか、と。


後先考えずに、眼の前に差し出された生クリームを鷲掴みにして貪り食いたい。


だけど、何も考えずに生クリームを食らい続けた結果は、俺が一番良く知ってる。


残ったのはブクブクに肥え太った体と、過剰な油と砂糖でニキビだらけなりにグチャグチャになった顔だ。




「今から、少し難しいことを言うよ。⋯⋯今は分からなくて良い。でも、覚えておいて」


「⋯⋯?」




あ〜、ツミキちゃんは可愛いなあ。

不思議そうに俺をじっと見る、分厚くてバチバチの睫毛に囲まれた赤と金色の目が本当に綺麗だ。




「⋯⋯君はとても無垢で、純粋だ」


「??? 私が⋯⋯無垢? 純粋? その様な言葉はカルミア様に用いられることはあれど、私に使用されると言うのは⋯⋯理解が追い付きません」


「今はまだわからないよね。でも、いずれわかる時が来るんだ。君は成長の途中で、これからもっと色々な体験をして、今以上に素晴らしい人になる」


「⋯⋯は、はあ」




ツミキちゃんは何も分かっていないようだ。

そりゃそうだろう。俺と出会うまでの十九年間、彼女は人として扱われて来なかった。


死なないから生きるだけの日々を送って来た彼女は、あまりにも無垢で純粋過ぎる。



そんな彼女を、俺は簡単に支配出来る。


まるで、自分の手の平に小さなツミキちゃんが乗ってるみたい。



はっきり言って、彼女は未熟だ。


見た目は成熟した女性でも、中身は生まれたばかりの子供と同じ。


そんなツミキちゃんが、自分を初めて人として扱った俺に情を抱くのは当たり前だろう。


人扱いされてこなかった未熟な子供が、当たり前の事をする大人に感謝以上の感情を抱いてしまうのと同じ。



だから、ツミキちゃんが俺を生きる理由にしてしまうグロテスクさを、無視出来なかった。


でも、ツミキちゃんの意見と考えを否定してはいけない。


彼女を尊重しながら、距離を取る。


これはとても難しい。




「ツミキちゃんが俺のために生きたいって思うのは、とても尊くて美しいものだよ。⋯⋯でもね、いずれ君は沢山の経験を重ねて成長する。その時に、『あの時間は何だったの』って、絶望する時が来るんだ」


「⋯⋯すみません。仰ることが、何一つ理解できません」


「回りくどくてごめんね、でも、聞いて。誰かのためじゃなく、誰かの恩義に応えるとかじゃなく、自分のために生きるんだ」


「⋯⋯? わ、私は⋯⋯モクレン様の恩義に応えることが、貴方こそが幸せだと⋯⋯思うのですが」


「⋯⋯それじゃ、君が思う恩義って、具体的にどんなこと?」


「そ、それは⋯⋯、そう! モクレン様は私に名前をお与え下さって、丁寧に会話をしてくださって、美味しい食事を作って下さって、暖かいお言葉をくださって、私は、モクレン様から溺れるほどの優しさを頂きました⋯⋯っ!!!」


「ツミキちゃん、あのね」




俺は必死に言葉を探そうとするツミキちゃんに、諭すつもりで話を続けた。




「俺がツミキちゃんにしたことは、俺が特別優しいからじゃない。⋯⋯人として当然のことをしただけなんだ」


「当然、ですか?」


「そう。だから、人として当然のことをした奴を、過大評価しちゃいけない」




こんな事を言うくせに、いずれ成長して成熟するだろうツミキちゃんに、忘れられたくない自分がいる。幻滅されたくない自分がいる。


矛盾する気持ちを抱えたまま、俺はツミキちゃんをじっと見た。


ツミキちゃんは賢くて面白くて優しくて綺麗な子なのだ。

こんな子が幸せになれない世界なんて、そんなんおかしいだろ。




「幸せになるんだよ。誰かにしてもらうんじゃない。自分の手で、自分を幸せにしてね」


 


この言葉に、最大の敬意と愛を込めた。




◇◇◇




⋯⋯やっぱ適当に甘いことを言って抱き締めときゃ良かったな〜と、俺は後悔しながらチョコムースをオヤジ殿の元へ配膳した。


彼の寝室は耳の長い反社まみれでめっちゃ怖い。

ハイエルフは花から生まれてくると聞いたが、正直花から生まれてくる外見ビジュじゃねえだろこれと思う。



ちなみに、ツミキちゃんはレンゲくんとサラサのところへチョコムースを差し入れに向かっている。




「フウロウ殿。こちらはチョコムースでございます。ぜひお召し上がりくださいませ」




そう言ってベッドに寝たきりのフウロウ殿にチョコムースを膳ごと差し出した。



白髪に赤い目をした御老体であるフウロウ殿は、



「⋯⋯す、すまない⋯⋯、人の⋯⋯⋯⋯子」



と今にも事切れそうな声を出した。



そんな彼の食事の手伝いをしながら、『チョコムースでご都合主義的に元気になって、色々話してくれないかな』と思ったが、そんな甘い展開は何も起こらない。



だが、俺が作った料理を美味しそうに食べてくれるのはとても嬉しい。


そんな事を思っていると。



寝室の障子が開かれ、サラサとレンゲくんを連れたツミキちゃんが入って来た。




「モクレン様、お二人をお連れしました。フウロウ殿のご様子は如何で――」


「!! ⋯⋯ユーフォルビア大佐」




フウロウ殿の突然の言葉で、呼吸を忘れた。


驚愕の顔をしたフウロウ殿が、寝たきりだったのが嘘のように立ち上がり、ビシッと敬礼をしてしっかりした声を出したのだ。


まるで、それが習慣だったみたいに。








◇◇◇


良い感じにお付き合いありがとうございます!


ちょっとでも

「面白い!」

「先が気になる!」

「モクレン、お前チャラいくせに誠実だな…」

「ユーフォルビア大佐!? いよいよ謎が明けていくな!」と


思って頂けましたら、下記の星☆☆☆☆☆から★★★★★5評価を入れてくださると嬉しいです!(私のモチベーションが上がります!)

ブクマとべた褒めレビューとご感想もお待ちしておりますぞ!



それでは、何卒宜しくお願い致します~!!!

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