45・マグノリアのヒーロー達よ(後半モクレン視点)
「プロメ様。モクレン様とのご交渉、お疲れ様でございました」
首無し騎兵の魔獣を駆除したあと、ヒーローショーは無事に終演を迎えた。
その後、私とレンゲ様とサラサ先輩とシドウ様は瓦礫の後片付けをする一方、モクレン様とプロメ様はレアメタルについて色々と交渉するため、三名の護衛と共に別室へ移動したのである。
そして、お戻りになったプロメ様と三名の護衛と私は、砦の特等席から夜景を眺めつつ、レンゲ様によって修理された舞台で踊るサラサ先輩の歌声を聞いていた。
そんな中、護衛の男性が『俺も参加するぞ!!』と舞台に飛び入りし、サラサ先輩と意気投合して歌い踊り始めたのは驚きである。
「⋯⋯元気な方ですね」
私がそう言うと、プロメ様はため息を付いて
「すみません、ほんと⋯⋯」
と疲れたような声を出した。
「プロメ様、レアメタルについては⋯⋯どのようにご判断されたのですか?」
「そうですねえ⋯⋯。詳しい話はいずれ教皇王陛下にお出しする書簡に書かせて頂きます。⋯⋯⋯⋯ので、私からは簡単に申し上げますね」
プロメ様は桃色の瞳で私を見ながら、柔和に微笑んだ。
その笑顔にはもう、人を見定める冷たさは感じられなかった。
「レアメタルは、プルトハデス国だけじゃなく、私達フォティオン王国にも莫大な利益をもたらすと判断しました」
「! それでは⋯⋯!」
「ええ。⋯⋯レアメタル増産には、私達ナルテックス鉄工の金属をぜひともご使用くださいませ」
モクレン様の交渉は上手く行ったのだ!!
瞬間、力が抜けそうになった。
これまでの苦労が実になったことに安堵し、私は「良かった⋯⋯」と絞り出す様な声をあげた。
「プロメ様。本当に⋯⋯っ、本当にありがとうございます!! この御恩は、一生忘れません⋯⋯!」
そう言って頭を下げると、プロメ様は「ツミキ様、顔をお上げください」と呼びかけてから、私の手を握ってくれた。
「私の方こそ、先程魔獣から救ってくださって、本当にありがとうございました。⋯⋯貴女は、こんなに見目麗しいのにとてもお強いのですね」
「勿体無きお言葉です。⋯⋯それに、あの時はシドウ様のお力があってこそですから。⋯⋯正直、この国で最強の騎士と呼ばれるロスベール公爵とは、次元が異なる強さでした」
嘘偽りのない本音である。
いくらレアメタルを使った魔道武器とはいえ、その場にあった舞台道具の槍であの立ち回りをするとは。
信じられないほどの強さであった。
そんな私の言葉に、プロメ様は
「ええ。シドウさんは最強なんです」
とにっこり笑う。
その笑顔はとても暖かく、可憐で美しかった。
だが、プロメ様はそんな可憐な顔を疲れたように歪めたではないか。
「それにしても、ロスベール殿には困ったものですね。もし、レアメタルの交渉を持ちかけたのが彼だったら、私は応じませんでした」
プロメ様は、微笑みながらサラサ先輩達の舞台を見つつ、話を続けた。
「一方、モクレン公は、実に手強い方でした。⋯⋯甘い顔で相手を魅了したかと思えば、陽気な顔で相手を楽しませて。⋯⋯でも、それで油断したら最後。ほんと恐ろしい方。だから、信用できるのです」
「な、なるほど⋯⋯?」
「最大の敬意と畏怖を持って、褒め言葉として申し上げます。⋯⋯モクレン公は、まさにマグノリアの白い悪魔ですね」
プロメ様の発言の真意が掴めず『?』となるが、モクレン様が褒められていることはわかる。
モクレン様が褒められると、私も嬉しい状態になった。
「そして、そんな白い悪魔を目覚めさせたのが、ツミキ様です」
「わ、私⋯⋯ですか?」
発言の意図が分からず聞き返すと、プロメ様は楽しそうに微笑んだ。
「ええ。モクレン公は交渉の際、仰ってましたよ。⋯⋯ツミキ様のお蔭で、モクレン公は得意分野に全力を注げるのだと」
「そう⋯⋯ですか。モクレン様なら、私がおらずとも結果を出されていたでしょう」
「ツミキ様。御自分を下げる必要はありません。だって、貴女は魔獣を倒して皆を救ったヒーローなのですから」
「⋯⋯ヒーロー? ⋯⋯私が?」
この国が壊滅した元凶の子孫である私が、ヒーローと呼ばれてよいのだろうか。
そんな私の戸惑いを、プロメ様は打ち消すように言った。
「モクレン公が仰いました。貴女はずっと、魔獣を倒して人々を護ってきた、と。自分のヒーローは貴女だ、と。⋯⋯私から見ても、そう思います」
「⋯⋯!」
モクレン様は、私をヒーローと仰ったのか。
そして、プロメ様もそう仰った。
胸の内が弾む。呼吸が浅くなるが、心地良い。
これは、誇らしい状態であり、嬉しい状態だ。
「だから、ツミキ様。貴女はもっと御自分を誇って下さい。お願いです」
「⋯⋯はい。⋯⋯ありがとう、ございます」
私がそう答えると、プロメ様はにっこりと笑って私の腕を引いた。
「それじゃ! 色々と食べに行こうじゃないですか!! 今日は何でも奢りますよ! 私はスーパー金持ちプロメ・ナルテックスなのですから!」
「で、では⋯⋯! あの焼きそばと言う麺類を」
私はプロメ様と、そして彼女の護衛につく女性二名と一緒に大宴会中の砦を歩いた。
夢の様な大宴会の会場を歩きながら、『モクレン様は今どうしているのだろう?』と気になった。
◇◇◇
「モクレン殿。⋯⋯貴方ほんとは、ヒーローヲタクじゃないでしょう?」
「あ、バレました?」
砦のバルコニーにて。
煙草を吸っているシドウ殿へ近付くと、彼はすぐ俺に気付き、小さな灰皿袋に煙草を押し付け火を消してから、話しかけてきた。
「まあでも⋯⋯モクレン殿は俺に話を合わせようとしてくれたんですよね」
「いや〜お恥ずかしい。⋯⋯最初はプロメ嬢に擦り寄るためシドウ殿に好かれよう! って下心剥き出しだったんですけど⋯⋯でも」
シドウ殿はバルコニーの柵に両肘を乗せて寄りかかっている。
赤い髪と赤い瞳は澄んでいて、まるで彼の心の様だと思った。
そう言えば、レールガンジャーのレッドの二つ名は、澄んだ正義の赤き炎⋯⋯だったな。
まさに、ヒーローだと思う。
「ヒーロー漫画を読むうちに、そんな下心は忘れました。純粋に面白くって⋯⋯真っ直ぐで、眩しくって」
ヒーローは下心や計算とは全く無縁で、誰かのために戦おうと頑張る心の綺麗な人達だった。
「俺は、そうはなれなかったから」
バルコニーの柵を背もたれに、その場に座り込む。
すると、シドウ殿も合わせるように座ってくれた。
煙草を一本くれたので、たまには良いかと頂戴する。
「俺、ガキの頃はチビでデブでニキビだらけのきったねえ不細工で。性格も陰気だから、ヒーローごっこの輪に入る勇気も無かったんすわ」
煙草の煙を身体に入れ深呼吸すると、気が緩んで口調が乱れた。
でも、シドウ殿は気にしてないし、交渉も既に終わってるし、良いか。
「でも、ある時。俺が大食い怪人に似てるって、ヒーローごっこに誘ってもらえたんです。⋯⋯俺、嬉しくて。全力で怪人の真似して、みんなを大笑いさせたんです。そしたらみんな、『何だよ、お前超良いヤツじゃん』って喜んでくれて」
あれがきっかけで友達が出来たが、そのすぐ後にカルミア事件が起こり、俺はホオノキ婆ちゃんに預けられたのだ。
あの時の友人達は、今でもたまに手紙でやり取りしている。
「その時ね、思ったんだ。俺は、誰かを喜ばせて楽しませて、相手に何かを提供しないと居場所が作れないって。そっからは、面白いヤツ路線で頑張ってさ」
「⋯⋯そっか」
シドウ殿も言葉が緩んだ。
その方が心地良かった。
「でも、成長した俺は、存在してるだけで誰もが恋する美男子になったわけで」
「自分で言うのかよ。⋯⋯まあ、その通りだけど」
「でしょ〜? んでさ、女の子は勿論、その子達狙いの男もたくさん近付いて来たんよ。俺が何もしなくても、みんな好き好き言ってチヤホヤするんだわ。⋯⋯そん時、今まで頑張ってたのが馬鹿らしくなった」
「⋯⋯そうかい」
手に持つ煙草の煙が空に消えてゆくのを見ながら、言葉を続けた。
「しかもさ、俺にはガキの頃に培った人を楽しませるって言う振る舞いが出来るわけじゃん。⋯⋯そうすりゃ無双状態よ」
「だろうな」
「⋯⋯その内、『こんな美男子の俺がこんな風に振る舞えば嬉しいだろ?』って下心だけで行動するようになって。大学時代も、言い寄ってくる女の子の色恋感情を操って、代返とかノートとか見せてもらってたし。女教授に甘い顔して単位をもらったことも何回もあるよ」
そんなズルばかりしてたから、結局学力が足りずに卒業不可能の危機になったのだ。
「気が付きゃ、人に媚び売るのが得意なだけのカスになってた」
ロスベールの母親が言った通りだ。
『人に付け入るのが上手い淫売の息子』
そのまんまである。
「だから、ヒーロー漫画を読んで、俺もこんな風に真っ直ぐ王道に振る舞えたらな〜って。⋯⋯俺も⋯⋯シドウさんみたいに⋯⋯」
首無し騎兵の魔獣が襲撃した時。
ツミキちゃんを助けたのは、俺じゃなくてシドウさんだった。
あの時、まず子供らを避難させたあと、サラサの爆音波で応戦させるかと計算したその瞬間には、シドウさんは舞台道具の槍を手に、鬼神のような強さでツミキちゃんを救ったのだ。
「⋯⋯カッコよかったよ、シドウさん。あんたは、ヒーローだ」
やばい、湿った雰囲気になっちゃった。
『ホスト怪人のカスレンからしたら羨ましい限りよ〜』とふざけて笑いを取ろうとしたら。
「モクレンさんだってヒーローじゃねえか」
「え」
シドウさんは煙草を片手にそう言った。
「そもそも、たった数日間でここまでの大宴会を開くなんて、普通じゃ無理だろ。それに、プロメから聞いたよ。あんたは、兄貴に潰された人達を元気にして、騎士団を作ったって」
「⋯⋯ぁ、ああ、うん」
シドウさんの真っ赤な目から視線を逸らせない。
ずっりいなあ⋯⋯と内心でため息をつく。
「それにさ、モクレンさんがカスなら、『あの人』もあんたに心開いたりしないよ」
「え? シドウさん。あの人って⋯⋯」
「あ、やべ」
シドウさんはそう言ったあと、
「まあ、もう種明かししていっか」
と呟き、呆れたような笑顔を見せた。
「今回の外交で、国交を結ぶかの最終決定権を持つのは、プロメじゃない。⋯⋯⋯⋯今、ステージに飛び入りしてあんたの友達と楽しそうに歌ってる、あの方だ」
「え、え? ⋯⋯え?」
最終決定権を持つのはプロメ嬢じゃなく、あのやけにノリが良い護衛の男性だったなら、俺の作戦も兄貴のやり方もどっちも不正解じゃねえか!!
「あの方曰く『国の真価は【王子】の立場だと見えない物がある。まるで、肉料理のパイナップルだ』だってさ」
「お、王子ぃぃいいいいッ!?」
確かに、あの男性はプロメ嬢やシドウさんより先にケーキを食べたり、ヒーローショーでもノリノリで声援を飛ばしたり⋯⋯と、護衛にしては元気過ぎる言動が目立っていたが。
無邪気な人なんだろうと思っていたら、まさか王子だったとは!!!
俺はすぐに立ち上がり、バルコニーから舞台を見た。
すると、フォティオン王国の王子に肩車をしてもらってるサラサが、
「お主はデカいから見晴らしが良いのう!! ゆけー! 発進じゃ!!!」
とほざいている!!!
「のじゃお前何してんだ!!!!! そのお方はお前が乗って良い相手じゃない!! 降りろ鳥!!!! 今すぐ降りろ〜〜〜〜ッッッ!」
俺の叫びはのじゃの歌に掻き消された。
取り乱す俺を見ながら、シドウさんは楽しそうにケラケラ笑っていた。
◇◇◇
良い感じにお付き合いありがとうございます!
ちょっとでも
「面白い!」
「先が気になる!」
「ツミキ、プロメと仲良くなれて良かったね!」
「モクレンも⋯⋯シドウと打ち解けられてよか、え、王子!?」と
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