噂の的
「さっきの見た?」
「見た、見た。可愛かったね」
「ねー。元々、双子ちゃんって目立ったけど、二人ともカップル成立だよ。しかも、妹ちゃんの相手は大領主様のとこの三男で、お兄ちゃんの方の相手は中等部一の美少女とかって、出来すぎでしょ」
「ちちちっ。それがさ、もっと出来すぎな話があるんだよ」
「え、もっとって?」
「昨日、家族ででかけたら、素敵なマダムの二人組が歩いてたんだよね。大人なのに可愛いって感じで、すごく仲良さそうで、背の高い従者を引き連れてて」
「へえ。なんか雑誌に載ってそうな感じ?」
「そうそう。それで、つい目で追ってたら、うちのお母さんが、その片方が双子ちゃんのお母さんだって教えてくれて」
「ホントに? それは確かに、もっと出来すぎな話だわ」
「でしょう。もう、すっごく絵になる光景だったんだから。あ、そういえば、そっちのクラスに双子ちゃんのお姉さんがいるって言ってなかっけ。どんな感じの人?」
「あー⋯⋯なんてゆーか、何事にも例外はあるって感じ?」
「ああー、理解した」
そこで話題が変わったようなので、すれ違わないで済むよう柱の陰に身を隠す。
学校が始まって一週間。
我がスミス家はすっかり噂の的になってしまったらしい。
直接聞いたことはないのに、私が内容を把握できているくらいには広まっている話題だ。
双子の弟妹には目立つ彼女彼氏ができたと噂されるほど仲のよい異性が側にいて、家のことに干渉しなくなった母と友人は従者を連れて街に出歩いているらしい。
父のことで塞いでばかりいるよりは、よかったのだろう。
どちらも、これまでは家にこもりがちなタイプだったから、親しい人ができたのも、外に出かけるのも喜ばしいことだと思う。
ただ、私としては、困ったことになったと頭を抱えてしまうだけだ。
本当なら、そろそろアシュ達に手紙でも書いて、一緒のお昼を復活したいなと思っていた。
双子もキャサリンも、自分達の交友に忙しいからか、私の友人に興味をなくしたみたいだから。
だけど、あんな噂が広まったからには、私と一緒にいることは、言われなくていいことを言われる待遇を余儀なくされてしまう。
今の私は、華やかな交際の双子や母に比べて地味で孤立しているという評価だ。
そんな私といるだけで、位や容姿を悪い意味でチェックされる。
アシュ達は小領主の家だけど、いい意味で目立つタイプじゃないから、よく言われることはないと思う。
おかげで、当分は学校でも一人でいるしかなさそうだ。
「はぁ」
こっそり、小さく息をつく。
ため息すらも、教室では、なんとなく気を使うから、廊下の内に吐いておく。
今日なんて、放課後に担任の教師から呼び出されて心配されてしまったけど、別にいじめられてたりするわけでもないから、どうしようもない。
さっさと帰ったところで、することもないし、したいこともない。
「やだな⋯⋯」
思わずこぼしたところで、楽しげな「知ってるか」と、噂話が始まりそうな言葉が聞こえて足が止まった。
自分の教室だ。
声は男子。
それだけを認識している内に話は進んでいく。
「うちのクラスのスミスんとこ、休み中に父親が亡くなったらしいんだけど、聞いた死因が傑作なんだよ」
「なんだそれ」
「いや、だからさ、そいつ、小領主なのに大領主んとこの騎士団に指導してたって話なのに、死んだ原因は落馬なんだと」
「マジか。騎士団っつったら、乗馬は基本だろ」
「な、傑作だろ。それに、そんな奴に習ってた騎士は災難だよな」
どんな顔をして話しているのかは、もちろんわからないけど、笑い混じりなのは確かだ。
それに、話自体に嘘はない。
だけど⋯⋯
どこまでも冷え込んで行きそうな暗闇の中、ガタッと机か椅子が動いた音にハッとする。
「なんだよ、ジュリウス。無理やり、足伸ばしてきやがって」
「⋯⋯例えば、俺は、運動神経のいいお前がうっかりクラスメイトの足に引っかかって頭を打って重傷になったところで笑わない」
「は?」
「刺す虫が飛んできて、慌てたせいで打ちどころ悪く障害を負ったところで、笑い話にしたりはしない」
「何が言いたいんだよ」
「別に。ただ、宣言しておきたくなっただけ」
「ちっ、真面目ぶりやがって」
「そうでもないだろ。本当に真面目なら、今の話題は咎めて当然の場面だろうから」
淡々とした声に対し、乱暴に机が倒される音が響いて、半端に開いていたドアが一息に全開にされる。
ビクッと目が合って、気まずいとか怖いというよりも、あんな話題を出していたのは、この人達かと認識をした。
そのせいか、向こうの方が目を泳がせていなくなった。
なんだか、私の方が笑いたくなっている。
話題を咎めずに否定してくれたのは、きっと、ジュリウス・ハウザーだ。
淡々として、あまりクラスに溶け込んでいる雰囲気のない男の子。
たぶん、私とは話したこともないはず。
さっきのは、私の父じゃなくても、誰が笑い話にされてようと否定してくれる人なんだろう。
それが無性に嬉しくて、どこか私が救われた気分になってる。
ここのところ、平気な顔をしていたけど、いい気分じゃなかったことがハッキリしたみたいだ。
当人がいないところで話題にされてばかりで、なのに、それで救われることもあるらしい。
ガタッと椅子を引いたような音に、慌てて遠くに逃げるべく足を動かす。
直接庇われたわけでもないのに、感謝されても困るだろうし、向こうも聞かれてたと知れば困るだけだろう。
なのに、ついつい、頬が緩んでしまうものだから、尚更、合わせる顔がないというものだ。




