気遣いの形
私達、スミス家の姉弟は、学校には乗り合い馬車で向かう。
だから、席を離せば、同じ馬車の中だろうと気まずい時間を過ごすことはない。
それでも、というか、昨日から気まずい思いはずっと続いているのだけれど、完全に一方通行なので、余計にモヤモヤして仕方なかった。
なにせ、家族に客人を含めたグループに対して、私一人が孤立しているだけなのだから。
その内、仕えてくれている執事達とも対峙することになるのだろうかと思うと、不安で仕方なく、昨夜もあまり眠れていない。
それでも、父が大事に守っていたことを継いでいかないわけにはいかないのだから、まだ幼い弟に代わって自分がしっかりするしかないと決意している。
幸い、執事は真剣に話を聞いてくれて、執務室の扱いに同意してくれたので、ひとまずは安心なのだけど。
「おはよう」
「久しぶり、何してた?」
馬車から降りると冷たい風に開放感を感じて、そこかしこから、長期休暇明けの気配に気がつく。
さっきの馬車の中でも似たようなやり取りが繰り広げられていたのだろうけど、気を張っていたのか、何も入ってこなかったみたいだ。
教室の扉をくぐれば、いつも一緒に行動することの多い三人が声をかけてくれたので、まだ自分の居場所があったことにホッとしてしまった。
行動派としっかり者と文系派、サリとアシュとミリの三人組。
タイプが違うのに仲がいい幼なじみで、同じクラスになってから、私が混ぜてもらっている形で親しくなった友人だ。
その内の一人、小柄なミリが、気遣いに溢れた手紙をくれた相手で、色々と弱っていたせいか、つい、顔を合わせて抱きついてしまう。
「はは、熱烈なハグじゃん」
そんな笑い声と共に、次々と抱きつかれて、四人で団子になっていた。
だから、もうしばらくは家で気張っていることもできるだろうと信じられた。
なのに、そんな細やかな前向きな気持ちすらも、翌日には挫けさせられるなんて、思ってもみないことだった。
客人と連れがしばらく居座るとこが確定し、メイド達には申し訳ないと思いつつも、家での食事を一人で取ることにした翌日。
本格的な授業が始まり、唯一、一人でしなくてもいい食事の時間だと思いながら四人で食堂に向かったら、どこか異様というか、違和感のある集団と行き合った。
目立つ割に地味という印象で、まあ、目立つというのは中等部の制服だからだけど。
中等部と高等部は授業時間がずれているので、高等部が食堂に来る時間帯には、たいていの生徒が去っている。
駄目だという決まりはないものの、制服の違う先輩達がいるというのは決まりが悪いので、暗黙の了解というやつだ。
私が目にしたのは立ち上がって席を整えていたところだったから、少し話が盛り上がって長引いたのだろうと目についたくらい。
それよりもメニューを決めてしまおうと受付で本日のラインナップを覗き込んでいたら、なぜか、その集団が近づいてきたから、ちょっと迷惑に思う。
なるべく、そちらを見ないようにと体ごと斜めに避けてみたのに、妙な名称で呼ばれたからギョっとした。
「スミス家のお姉様」
なんの冗談かと思ったら、丁寧に膝を曲げて挨拶をしてきたから、尚更、ギョっと引いてしまう。
「はじめまして。私、中等部一年のキャサリン・ウェザーと申します。この度は、ご愁傷様でした。お悔やみを申し上げますわ」
言われて、彼女らの違和感の正体に気がついた。
彼女のベルベットのリボンを筆頭に、ハンカチやら髪留めやら、果ては腕章まで、集団の全員か何かしらの黒いアイテムを身につけている。
ついでに、その集団の中心に弟妹がいるのが目に入って、なるほど、と思う。
そんな風に状況を確認している間も、キャサリンという子はクラスのみんなで話し合って揃えたのだと胸を張って語ってくる。
今すぐ、やめてほしかった。
「ところで、参考までに、お姉様のご友人方は、どんな方法でお悔やみを示したのかしら?」
悪意はなく、ただ先輩の話を聞きたいといった様子が、悪意以上の迷惑さに感じられた。
キャサリンは常にハキハキ話すタイプらしく、サリもアシュも気がついて振り返っているし、ミリには気まずい顔をさせてしまっている。
「ごめん。うち、休み中に父親が亡くなってるんだ。三人とは会ったことなかったから、言わないでいただけ」
ここで黙っていても仕方ないから打ち明けたけど、居た堪れなさがひどい。
「そう言う訳だから、あなたの疑問に答えはないわ。それと、あなた達の気持ちは十分伝わったけど、私はお腹が空いてるの。もう、いいかしら」
「あ、ええ、こちらこそ、失礼しました。でも⋯⋯じゃあ、これから何をしてくれるのか楽しみですね」
は? と声が出なかったのは、たまたまでしかない。
あまりの発言に呆然と固まっている内に、キャサリンは気取った様子で会釈をして食堂を出ていく。
ただ、フリーズ状態でも、すれ違いざまの双子が小馬鹿にするような視線を向けてきたことだけは目に留まった。
思わずのため息で体がほぐれたら、とりあえず、メニューを選ぼうと提案して、注文したトレイを手に端の席に着いた。
胡椒の効きすぎるチキンをつつきながら、なんて切り出そうか迷ってる内に、ミリの方が謝ってきた。
「ガーティー、ごめん。性格的にガーティーから言わないのわかってたのに、二人に伝えとかなくて⋯⋯」
「え、ミリ、知ってたの?」
「うん。親戚に騎士団の人がいるから、それ経由で」
「あ、そっか。ガーのお父さん、騎士団に出入りしてるて言ってたもんね」
アシュの言葉に、よく覚えてるなぁと思いつつ、今度こそ私が謝る番だ
「ごめん、変なことに巻き込んで」
「いや、ガーが謝る必要ないでしょ。むしろ、なんなの、あの後輩」
そう怒ってくれるのは、好戦的なサリ。
「悪気はないんだろうけど、ちょっと悪目立ち」
「でも、双子ちゃん達は満更でもなさそうだったけどね」
「ほんと、似てない、きょうだいだよね」
ポンポン交わされる会話を聞いて、やっぱり言っておこうと思った。
「だからさ、これからしばらくは、三人と一緒に行動しないでおこうと思うんだ」
「は? なんで? 意味わかんないんだけど」
素早く反応してくれたサリに嬉しく思いながらも、意見は変えられない。
「あの子、気にしてんの? 中等部の一年でしょ? それに、言い方悪いけど、うちら全員、小領主の家だよ」
確かに、この地域では大領主様を抜かせば、小がついても領主の家は偉い方だ。
でも⋯⋯。
「三人には何もしてほしくないから」
俯いて理由を話せば、反論が止まった。
「うん、気持ちはわかった」
リーダータイプのアシュに言われて、本当だろうかと目線を上げてみる。
「わかったから、しばらくの間だけね。あと、そのしばらくは、いつでも切り上げていいからね」
「うん。うん、ありがとう」
伝わってよかったと安心しながらも、自分で望んだくせに、これでまた居場所がなくなったと考えてしまうのが辛かった。




