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家族が薔薇色すぎるので、推し活はじめてみました。  作者: よしてる


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ミーティング

とりあえず、迷惑をかけない!


これに尽きると思い浮かんだからには、まだ完全に了承してないとかいう心情は振り切って、前向きに話し合う方向で行くことにする。

でないと話が進まないし、やることが決まっているのにグズグズとしているとどうなるかは、いいだけ経験してきた身の上だけに、する側にだけはなりたくなかった。

もちろん、本当に嫌なことや無理なことは断るけれども、そこまででないなら、ちゃっちゃか動くまでだ。


ひとまずは教室に荷物を取りに戻り、それなりの用事を済ませてきたくらいの時間を引き伸ばして、緊張しながら移動教室に向かう。

でも、段々と近づく内に、これは駄目だと思う。

下手に緊張していたら、変な勘繰りをされるかもしれない。

なにせ、向かう相手はジュリウス・ハウザー。

冷静で、気遣い上手で、周りをよく見られる人物だ。

尊敬して眩しすぎる存在じゃなく、ただのクラスメイトとして向き合わないと、自分を保てる気がしない。


目的の教室の少し前から呼吸と意識を整え、自然体を装ってノックをしてからドアを開けると、そこには肘をついて顔を乗せていた彼が、こちらを向いたところだった。


「入れば?」


そう言ってきたのは、私が固まっていたせいだろう。

もう最初っから、全然やばい。

でも、それも仕方ないことだと思う。

だって、まともに顔を合わせたのは、これが初めてなんだから。


以後は、とりあえず、目を合わさないようにしようと作戦を立て、彼の前の席にカバンを置いて、イスを後ろ側に向き直して座った。


「じゃあ、とりあえず、俺が聞いてることを話すから」


提案にネクタイの辺りを見ながら頷いておく。

彼は手元に置いてあった手帳を開いて、やってくる日時や名前なんかを教えてくれる。

それを聞きながら、手帳も緑系なんだなと眺めてみるけど、これも駄目だとわかった。


「ごめん。覚えきれないから、メモしてもいい?」


そんなに記憶力がいいわけでもないし、勉強も、まず書いてから目で見て覚えるタイプだから、知らないことを聞かされても耳から脳に留まらず、どんどん流れ出てしまっていく。

こればっかりは、ジュリウス・ハウザーが相手でも、無理なものは無理だ。

できることなら、全て暗記してしまいたかっただけに、自分が残念でならない。


仕方なく体を捻ってカバンからノートとペンケースを取り出した。

そう、何を隠そう、彼を連想する色だから選んだペン軸を出さないといけなくなるから、暗記してしまいたかったのに、教室で使うのもそわそわしてたっていうのに、本人を前に披露させられるなんて、どんな拷問かと思ってしまう。


たいした予定が入る身でもないから手帳なんてお洒落なものは持ってなくて、落書きやメモに千切ったりして使っている雑記帳の両ページ白いところを開いて、インクと共に、とうとう例の物を出してしまう。

何やら視線を感じるけれども、新品だからに違いないと信じることにする。


「えっと⋯⋯」


「なら、見て写した方がいいだろ。名前の綴りとかあるから」


声かけに迷っている内に、向こうから手帳を出してくれたので、こくりと頷いて、せっせと専念することにした。

但し、教室と違って、向き合っているがために、視線をガンガン感じてしまうのが辛い。

早く書き写したいのは山々だけど、よれよれの字を見せるわけにはいかなくて、しかも、私の字は昔流行った書き方にハマってたせいで、字だけがブリッコに定着してしまっている自覚があった。

友達には読みやすいと評判はよかったけれども、ここでお見せするには痛すぎる。

一応、それなりに大人な字も覚えたものの、丁寧さが必要となるので集中力が必要だというのに視線を意識してしまい、どうやって集中したらいいのかわからない。


変な汗を書きながら、頭に入れるのは二の次で必死に書き写す。

要点がわかりやすく見やすい手帳を丸写ししてしまえば、後からでも問題ないとわかるから。


「⋯⋯なあ」


描き終わりまであとちょっと、というところで、なんだか呼びかけられたみたいで顔を上げたら、口元に手を当てて、難しい顔で言われた。


「それ、俺の字体まで真似してないか」


え?


見比べて見れば、後半になるにつれて、自分の手になじみのない、右肩上がりの角ばった仕様になっていた。


「そうかも⋯⋯」


必死すぎたと分析する私に、ふっと軽く吹き出す音が聞こえた。


「ウケる」


え?


「あ、気にしないで、どうぞ続けて」


頭が回らず、言われるがままにノートに視線を戻すけど、残りはたったの三文字。

これを続ける?

あの可愛い顔を見た後で??


よくわからない状態で、インクをつけ直したペン先をノートにつけて、ふと、好奇心で今度は意識して真似た字を写してみる。


「ぶふっ」


今度こそ、はっきりと噴き出した音に顔を上げれば、横を向いて、もっと可愛い顔を晒していた。


「勘弁してくれ。あーと、なんだっけ⋯⋯そうだ、行き帰り。二人は中央のホテルに泊まるから、家が近い俺が、行き帰りの馬車を同行するから。スミスは、学校以外でいそがしいんだろ」


そのまま必要事項の話が続いたことにも、私の事情を考慮してくれることにも、初めて家名を呼ばれたことにも驚きで、反射で普通に受け答えてしまう。


「そうだけど、でも、悪いよ」


「効率的なだけだろ。だいたい、報酬が出るわけでもないのに、朝や放課後に無駄な時間と交通費を払う必要もないって」


素っ気ない正直すぎる意見に、更に驚きつつも、それならと引きさがることにする。

なにせ、同意見で、とってもありがたい。


「じゃあ、それで」


「よし。となると、朝はロビーとかで待ち合わせにしとくか」


そう言いながら、写し終わった手帳を引き取り、挟んであった乗り合い馬車の時刻表を取り出した。

彼らがどれに乗るのか確認してみれば、到着が、私の方が五分少々遅い。


「じゃあ、私はこれで来るね」


「なんで? 普段は、この時間に乗ってるんじゃないの」


「そ、う、だけど、それだと、ちょっと遅いから待たせちゃうことになるし」


「五分かそこらだろ。こっちが遅れるかもしれないし。そのくらいで一時間近く早いのにするのも必要もないだろ」


「⋯⋯じゃあ、いつものにします」


「よし。で、その代わりってわけでもないんだけど、妹の方は任せていいか」


「いいけど」


兄妹に合わせて男女で案内を頼むというのは、そういう意味があるからなのは明白のことなのに。


「助かる。別に、女子が苦手とかじゃないんだけど、なんか、先生が言うには、妹の方が不安が大きいらしくて」


「そんなこと言われたら、私だって自信はないんだけど」


「でも、スミスって、基本的に面倒見いいだろ。人の話も聞いてくれそうだし。逆に、俺なんかは、こう、引っ越しってだけでも色々考えるだろうに、国を跨ぐなんて不安に思って当たり前だろって考えるから、優しく慰めるとかできる気がしない。下手すると、むしろ不安を煽りそうで、こっちが不安」


「えぇ」


「だから、スミスの方で、その辺を気遣ってくれると助かるって話」


どことなく気まずげで、不貞腐れたような雰囲気で頼まれたら、自信がなくても任されるしか選択肢はない。

それでなくても、あのジュリウス・ハウザーとの共同案内による精神に負荷が、更に加わるという頼みであっても、私の首はしっかりと縦に振らさっていた。

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