子供の行方2
碧梓が女主族の居住地の外へ出ていたことを、初めて知った程元は、それ以上に教会で呂伸と知り合っていたこと、『火花』持ちであったことに驚愕していた。
居住地の外にこっそり出ていたこと自体を秘密にしていたので、呂伸と知り合ったことも黙っていたのだろう。同時に、『火花』持ちであることも、教会に行っている理由の一つなので、秘密にしていたと考えられる。
夏瑚も覚えがあるが、十代になったあたりで、親にも自分の胸の内を明かさなくなっていた。親にも、と言うか親には、という場合もあった。親から距離を取ろうとする年ごろなので、碧梓もそうなのだろう。
夏瑚もその頃には母親を亡くしており、もともと母親より距離のあった父親には隔意を感じていたから、より顕著になっていた。
碧梓の真意はわからないが、程元にとっては、年頃の子供に遠慮していたら、一度にいくつもの秘密を知り、止めに行方がわからないのだから、混乱していた。時折、涙ぐんだりしているが、当所なく周囲を回って碧梓の姿を探しているようだった。
歩き疲れると家に戻って碧梓の服や小物を整頓しながら、考え込んでいた。
夏瑚は日に一日、程元を訪れて食事をした。全く無気力ということもなく、促されたら食事の支度もするし、食べ物を口に運ぶ。
心配したよりも大丈夫そうだと安心して、他の女主族の人たちにも挨拶をしておく。
どちらにせよ、夏瑚はいつまでもここにはいられない。女主族の住民たちも程元や碧梓のことを気に掛けてくれていることがわかったので、それほど心配は必要なさそうだ。
王子たちと、馬州軍のが掃討した禅林周辺の廃村には、その後も毎日兵士が巡回して、今は無人になっていることを確認している。
碧梓がいなくなった日から考えて歩ける範囲の集落には手配を出し、行方を探しているが、それらしい人間は現れていない。子供は目立つし、大人に偽装するのも容易ではないので、まず間違いないはずだ。
この辺りは乾燥していて、水場は限られるので、集落以外の場所で野宿もすぐ突き止められる。
碧梓に大人の協力者がいたり、大人に攫われた場合のことも考えて、そのための捜索も行っている。集落ごとでは難しいが、代官が駐在する町では検問所があり、そこで徹底的な捜査を行ってもらっている。
行方不明の子供を探す手段は全て尽くした。
問題は、既に殺されている場合である。
死体を隠すには、人のいない乾燥地帯はうってつけだ。大きな獣は少ないため、放置すると目立つものの、埋めてしまえばしばらく隠すことはできる。場所によっては砂や乾燥した土が風に動かされるので、数か月で地表に現れてしまうが、逃げる時間を稼ぐことは十分にできるだろう。
そのため、昇陽王子は碧梓が殺されている場合は捜索はしないと決めた。
「顧敬には悪いが、我々にはそれだけの能力がない」顧敬は冷たいともとれる王子の言葉にうなずくしかなかった。
一行の手駒は、基本的には自分たちと護衛しかいない。日数も、あと5日程度で王都に戻る予定にしている。自分たちが被害を被ったならともかく、このまま禅林に留まるわけにはいかない。彼らはあくまで学生で、勉学のために禅林に来ただけなのだ。
王族・貴族としての務めとして事件に関わるとしても、まだ全員正式な成人ではない。公務に就ける資格があるのは盛容だけで、それも学園に入るためにすべての公務から離れていて、当然権限も持っていない。
それに禅林で行政・司法を携わるべきなのは、領主と族長であり、下手をするとその権能を犯すことになりかねない。
唯一親族として顧敬だけが関係者になる。だから、顧敬は禅林に残って捜査を続けるのもよし、そもそも禅林までくるにも別行動だった。
顧敬は正学生の碧旋の側近だから、正学生と共に学ぶか、正学生の補助をするのが任務であり、正学生が問題なければ、離脱するのも自由だ。
「一度、父に報告を」と顧敬は短く答えた。
猶予は5日としても、道中も考えると、明日にはここを発つことになる。
報告を待ちながら、荷造りを進める。
作業が一段落したところで、碧旋が夏瑚のところへやって来た。
「?どうしたの?」何か言いたげに口が小さく動いている。でも声は出ていない。
碧旋は捜索に護衛と一緒に駆けずり回っていたようで、ここ数日はろくに会っていなかった。
「荷造りは終わったの?」手伝ってほしいのかと思い、聞いてみる。「いや、大して荷物はないし」
「何か気になることでも?」「うん」碧旋は、程元の様子と、彼女には碧梓の行方に心当たりはないのかと聞いてくる。
それは既にみんなにも説明していることだ。だが、もう一度聞くからには、念を入れたいのだろう。
夏瑚は程元の様子を思い返しながら、考えてみたが、程元本人は心当たりがないと思っているのは確かだと思えたし、本人は気づかずに手掛かりをつかんでいるということもないように思う。
「そうか。でも、気になるところがあるんだ。付き合ってくれないか」




