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子供の行方1

 捕らえられた男たちの取り調べは結構順調に進んでいるらしい。

 そちらには夏瑚たち一行は関わらず、自警団と代官府、遅れて到着した領軍で行われている。

 捕縛に協力したことで、情報は伝えられている。


 付け火のほとんどは、廃村に潜んでいた男たちの仕業で確定だった。

 職がなく、暇を持て余して、刺激を求めた結果の行為。中には女主族に子作りを拒まれ、恨んでいた者もいるらしい。

 そのうちの一人に、元妻が女主族の居住地に逃げ込んで、彼女に会えなくなり、離縁を余儀なくされた男もいた。その男は積極的に他の男を煽ったようだ。その言動に敬遠する者もいたが、賛同したり、乗せられて放火した者もいる。

 彼らの処遇は、女主族の族長も裁判に加わって決定することになる。


 「そろそろ戻らなければならないな」

 昇陽王子が一人ひとりの顔を確認するように見回す。

 予定より長く禅林に滞在してしまった。

 放火にばかりかまけてしまったが、取り調べは全面お任せだったので、課題についての情報収集と、それぞれの仮説検証は進めることができた。


 「碧梓の行方が気になります」乗月王子が顧敬を見やって言った。

 碧梓の行方はわかっていない。女主族の方で探しているが、いなくなった支所への火の玉事件の日、朝から碧梓の姿を見た者がおらず、難航しているらしい。

 普段から、碧梓は秘密主義なところがあり、狭い居住地の中でも、よくどこかに隠れていたらしい。どこの子供も自分だけの秘密基地を作って遊んだりするものだが、碧梓もそうだった。


 「居住地は狭く、住民はそれほど多くないし、関係性も緊密になりがちだ。だから、一人になれる場所をどこかに作るのは精神的にも必要なことで、居住地でうまくやっていくこつのようなものなんだ。だから大人でもそういう空間を持つことはよくあるし、皆見て見ぬふりをすることが多い」

 女主族の居住地の中では、子供だけでなく大人も一人になれる場所を持っている。だから、誰かが、一人で行動している時、あまり注視しないようにしているのだ。


 だから、朝、碧梓の姿が見えなくても、誰も騒がなかった。

 母親の程元は碧梓がいなくなっていることに不安を覚えたけれど、他に人には探すようには頼めなかったのは、そういう不文律があることを知っていたからだ。

 一人でうろうろと子供を探していた。

 程元は自分が碧梓とうまく向き合えていないことを自覚していた。碧梓の出自への不安を抱え込んでいたままで、それを誰にも打ち明けられずにいたからだ。

 そしてずっと、碧梓自身にその秘密を伝えるべきかを悩んでいた。


 程元はずっと碧梓に対する負い目があった。

 碧梓が生まれた当初は、育てることだけで精いっぱいだった。それが落ち着く前に、夫は死んでしまった。今度はその衝撃に耐えるのに精いっぱいになり、碧梓に心を砕いて育てた記憶がない。

 その上、程元は碧梓の出自に自信がなかったから、自分を支え手伝ってくれているはずの侯爵家の使用人たちを信じられなかった。


 新しく家族となった当代侯爵一家とも信頼関係がなかった。仲が悪いと言うより、距離があった。貴族の家族としては、それほど珍しくはないが、未亡人となった父親の後妻との距離など、ある程度あるのが当然で、あまり親密だと逆に問題が生じることが多い。その辺りも、庶民の程元とは間隔が違う。

 侯爵家の使用人は、古くからの従者たちほど、程元に対して不信感を持っていた。自分たちの主を騙した平民の女だと。

 新しい使用人や、親身になって世話してくれた者もいたが、程元には耐えられなかった。


 時間をかければ、懐疑的な従者たちでも、信じてくれるようになったかもしれない、と思う。先入観を覆すのにある程度の時間は必要なものだ。それはどんな関係でも一緒なのに、程元はその時間をかけなかった。

 そのことも、程元にとっての罪悪感に繋がっている。

 顧家から逃げずに、周囲の人たちと関係を築けるように努力するべきだった。それをせずに逃げ出したことで、本来碧梓が得られたものを失わせた。


 落ち着いてみると、碧梓は先代侯爵の子供だと感じる。ふとした時に見せる表情に、亡き夫の面影を感じる。それなのに、侯爵家から出たことで、碧梓の出自には大きな疑問符がつくことになった。逃げ出さなければ、そういう噂もいずれは沈静化したかもしれないし、顧家の中にも溶け込んで、家族の一員として認められていたかもしれない。

 その機会を奪ったのは、母親である自分だ。


 程元の中で、碧梓への罪悪感は二人の間に埋められない溝を作り出していた。程元は碧梓を育てながら、どこか碧梓へ遠慮したり、一線を引いているところがあった。

 だから、碧梓の行動を強く咎めたりしたことはない。

 それでも碧梓はいい子に育ってくれたと思う。口は悪いし、態度は素っ気ない時もあるが、母親の体調を案じてくれる子だ。程元はそれに感謝しつつ、碧梓の行動を全て受け入れていたし、余計な詮索はしなかった。

 特に、成人前の思春期に差し掛かった昨今は、碧梓がどこに行って何をしているのか、知ろうとしなかった。半面、居住地にいる以上、行ける範囲は限られているし、なんだかんだと住民たちは皆碧梓のことを知っていて、見守ってくれていることがわかっていた。

 居住地の外に興味があることは気づいていたけれど、公式に認められている外出の機会以外に、外へこっそり出ていたことは、程元にとって想像の埒外だった。

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