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捜査5

 夏瑚は呂伸に話を聞きながら、呂伸は案外何もわかっていないことに溜息をつきたくなった。

 呂伸は、ただ、来るもの拒まずで孤児と交流してくれればよいと思って、訓練に興味を持ってきてくれる子供を受け入れていただけだ。呂伸にとっては、孤児たちが大切で、訓練に来る市井の子供は孤児たちの友達候補だから、優しく接しているに過ぎない。

 実際、碧梓と呂伸はそれほど会話をしていないようだ。少なくとも、呂伸はあまり記憶していなかった。


 逆に碧梓はどこまで知っていたのだろう。

 自分の母親と呂伸が昔付き合っていたことは知っていただろうか?

 自分が本当に先代侯爵の子供かどうか、疑ったことはなかったのだろうか。

 先代侯爵の子供だと言われていながら、女主族の居住地で生活していることを不思議に思わなかっただろうか?


 疑問には思いながら、母親にも従者にも、はっきりとは聞けなかったのかもしれない。

 特に母親に聞けなかったのはなぜだろう。

 従者はともかく、一番真相を知っているはずの人が母親だ。ずっと一緒にいて、自分を育ててくれた母親に、素直に疑問をぶつけられなかったのは。


 呂伸は何も知らなかった。程元が女主族の居住地にいたことも、その子供が碧梓であることも、碧梓が自分の子供ではないかと噂する者がいたことも。

 夏瑚たちは呂伸にそれを伝えるのは止めた。

 ただ、碧梓の名前を出しただけで、「まさか、あの子を疑っているのですか?」と眉を顰められた。

 呂伸は「私はただ孤児出身だから、ちょっと孤児に親身になれるだけで、特別善良でもなんでもないですよ」と言っていたが、僧侶になるべくしてなった人物ではないかと感じた。


 「一応可能性のある人間については、検証しなければなりませんから」と夏瑚は言い、一応呂伸の知っていることは聞きだして、教会を辞去することにした。

 「私たちの主も情報を集めております。代官府に協力させていただいているので、何かわかったらご連絡いたしますね」もうばれているとは思うものの、使用人らしく言っておく。


 「ありがとうございます。ご滞在は、どちらに?」

 高級と目される宿は限られているので、調べればすぐわかる。隠す必要もないので、知らせておく。多分、呂伸の方でも何かしら調べようとするのだろうし、悪用される心配は少ない。

 「もし、碧梓が困っていたら」呂伸は考えながら夏瑚たちを見渡した。「行き場をなくしていたら、私は引き受けます」


 夏瑚はちらりと顧敬を見た。

 もし、呂伸が本当に碧梓の父親だったなら、いい父親になったのではないか。程元にとっても、変に気負わずに済んで、幸せを感じられたかもしれない。少なくとも、誠意のある夫にはなったと思う。

 だが、意味のない仮定だ。顧家の面々は碧梓が先代侯爵の子供だと確信している。

 無責任な夏瑚から見ると、程元は呂伸と結婚して身の丈に合った家庭を築いたほうが余程幸せだったと思う。

 でも、そうしなかったのは、やはり程元は先代侯爵を好きだったのではないだろうか。そこには彼に地位や財産の魅力が含まれていたとしても。あくまで含まれていただけで、本人がいなくなってしまえば、その圧力には耐えられなくなってしまったのではないだろうか。


 「その必要はありません」と顧敬はきっぱり断言した。

 「碧梓には母親もいますし、親戚もいます。だから、大丈夫です」顧敬は片手を胸に当てる礼をして、その手で自分の胸を叩いた。

 「そうですか」呂伸はちょっと安堵したように笑った。「わかりました。でも、何か私にできることがあれば、仰ってください」

 「ありがとうございます」夏瑚たちは礼を述べて、教会から撤収した。


 王子たちと合流した一行は、捕縛した容疑者たちの情報を集積しながら、碧梓を探した。

 碧梓は朝方居住地でいつものように住民たちに目撃されており、その様子にも特に変わったところは見られなかったので、行方不明だと思われていなかった。

 支所へ火の玉が飛来すると言う騒ぎがあり、それから逃れた程元たちが戻っても、碧梓は現れず、居住地中を探しても、見つけることができなかった。


 「支所への火の玉は、碧梓がやったってことかな」碧旋が呟く。

 荷車に設置された仕掛けはともかく、それ以外の付け火も夏瑚は見ていない。痕跡からもすべてがわかってはいないが、あれだけは『火花』のなせる火だろう。

 他の『火花』持ちも調べたが、不在証明があったり、動機がなかったりして曖昧な感じだ。

 碧梓も動機はないように思う。なぜ支所に火つけをする必要があるのか。


 廃村に潜んでいた男たちは、数名がいくつかの付け火を認めていた。

 同期は主に、「暇潰し」「憂さ晴らし」「女主族への恨み」などだ。特に女性、女主族に拒否された男が、腹いせに居住地の境界の森に火をつけたり、荷馬車に仕掛けをしたと白状した。


 それでもすべての付け火が判明したわけではなかったけれど、大部分の犯人を捕まえることができていて、その事実は公表された。

 さらに、住宅のぼや騒ぎはどうやら住民の不注意で発生した可能性が浮上してきて、詳細が不明だった件にもそれなりに決着がついた。

 支所への火の玉以外は。  

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