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捜査4

 前代侯爵の従者は、退職を願い出て、現在は休職扱いだ。

 従者としてはもう仕事をしていなかった。当代侯爵には別の従者たちがついている。

 従者という役職は、貴族の側近の一人でもある。身分は高くないが、私的な領域で、最も近く仕える家臣だ。身分以上に主への影響力がある。

 昔から従者は乳兄弟が務める習慣があった。今は必ずしもそうではないが、兄弟に近い距離感の存在だと言える。


 幼馴染として一緒に遊ぶことから始まり、学友となり、主が大人になったころに従者見習いとなる。

 そして主が身罷った時にはその職を辞すことが多かった。更新を育てるための仕事に就くことも多いが、どちらにせよ、別の誰かの従者になることはないし、大きな影響力を持つこともない。主の家族ともそれなりに親しく接するけれど、主を失えば一線を退くのが当然だった。


 従者に残された仕事は、前代の維持である碧梓との連絡役だけだった。

 数名いた他の従者は皆引退したが、その男だけは細々と勤め続けていた。従者には十分な給金が与えられていて、皆ある程度の貯蓄をしておき、引退後の糧とする。その従者だけはそれがなかった。家族の揉め事と裏切りの結果、先代が亡くなる数年前に全財産を持ち逃げされていた。


 そのような事情がなくとも、従者にとっては侯爵家との繋がりが人生の証だった。

 そのような物を所持していれば、身元はすぐに暴かれてしまう。それがわかっていても、従者にとっては己の人生の証拠品のような根付を手放すことはできなかったようだ。


 侯爵家の関係者が一人で廃村に滞在しているのは不自然だ。しかも休職中だ。元従者ということで、潜入のような特殊な任務でもない。

 当然彼は尋問された。

 当初、従者は体を固くして身構えている風があったが、放火について質問されたときに、呆れたような声で返事をした。表情が緩んでいた。


 それで印象としては、放火とは関係がなさそうだと言う判断になった。

 放火についての質問は、従者にとっては予想外であり、また安心できるものだったということだ。

 但し、初めに緊張していた点からすると、何か追及されると不味いことがありそうだ。

 尋問自体が緊張を誘ったのかもしれないが、そもそも廃村に滞在している理由が不明である。凡そ、侯爵家の元従者が廃村に潜んでいる妥当な理由など、思いつかない。


 王子たちは取り急ぎ顧家へ早馬を手配する。

 顧敬は権限を持っているものの、基本的に碧梓のことに関する権限だと聞いていたので、情報収集も兼ねて使いを出すことにしたのだ。顧敬は祖父の元従者の存在自体は知っていたが、詳しいことは何も知らなかったからだ。


 式長の尋問に同席していた夏瑚たちから、碧梓がどうやら教会での訓練に参加していた情報を突き合わせて、一行は自警団から尋問を引き継ぐことに成功した。

 「放火については、情報は出尽くしたようだな」顧敬が教会の控室で自警団の副長に告げる。

 何度も休憩を挟みつつ、繰り返し式長に質問をして、孤児たち、他の僧たちの証言もとって、自警団も自分たちの心証を固めたようだ。


 「我々の別動隊と、馬州軍の協力によって、近隣の廃村に潜んでいた者たちを確保している。自警団の諸君にはそちらの尋問を依頼したい」

 王子たちからの指示に従って、顧敬が自警団の説得を試みる。

 顧敬の態度は以前よりもだいぶ落ち着いていて、言葉の淀みがない。

 夏瑚と初対面の時の顧敬は本当にどうかしていたんだな、と改めて思う。

 禅林で再会したときは、その時の無礼な態度を謝られたし、ずっと気を使って遠慮ばかりされていた。それで不器用な人だなという感想を持った。


 でも、今こうやってゆっくりと自警団の面々を見回しながら説得している様子を見ると、やはり貴族の子息なんだな、と感心する。その態度には余裕が感じられて、所作は整っている。

 王子からの指示だから、気持ちに迷いがなく、本人も納得がいく行動だから、説得力もあるのだろう。

 それに実際呂伸の尋問は手詰まりになっていた。不在証明は完璧ではないものの、有罪の証拠も皆無で、自警団の心証も無罪だったのだろう。

 最終的に監視は付けることで、呂伸の尋問は終了し、自警団は教会に二人の団員を残して引き上げていった。団本部には王子たちが派遣した護衛と馬州軍の使者が待機している。


 自警団には、顧家の従者のことは伝えなかった。

 放火については関係ないと判断したからだ。自警団としても、別の領地の領主家に関わるのは避けたいはずだ。

 ただ、夏瑚は呂伸の尋問に付き合って気になったことがあった。

 夏瑚たちは呂伸の話を聞いて初めて、碧梓が『火花』持ちの訓練に参加しており、呂伸達と交流があったことを知ったのだ。

 それが意味するところは、いくつかあるが、特に問題なのは、碧梓が『火花』持ちである可能性だ。


 夏瑚は胸の内が重くなってくるのを感じていた。

 初めて会った時、荷馬車に仕掛けられた火種に、碧梓は驚いていた。それは嘘には思えなかった。

 王子たちも放火は複数の人間が関わっていると考えている。それらを考えていくと、あの仕掛けは碧梓がやったわけではないが、他の付け火にはもしかして碧梓が関わっていたかもしれないと言う予測に辿り着くのだ。

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