子供の行方3
碧旋は夏瑚を誘っただけで、他の面々とは別行動を取った。
なぜなら、気になるところというのが、花街だったかららしい。
「いや、物騒では」一緒に来た姫祥がぶつぶつ口の中で文句を言う。
確かに、本来なら花街の住民でない女性が出歩いていたら、男に絡まれかねない。だが、時間帯は昼間だし、下女の格好なら花街の女性とは間違えられないだろうと思う。
「いやいや、明らかに下層の女なんて、娼婦でなくても軽く扱われる」姫祥は不安そうだ。
「目立たず入り込みたいんだよ」碧旋も女用の服を纏い、姫祥たちに食料の入った袋を持つように促した。
食料の買い出しに出入りする下女を装う。碧旋は、二人とは少し色合いの違う服装に、乾燥した薬草茶の大きな包みを二つ抱える。これで一応、それぞれの店から花街へのお使いにきた下女という風体に相応しくなった。
一応陰ながら護衛が3人、後をついてくる。
王子たちには反対された。ただ、花街に潜り込むには女らしい子供が良い。盛容は成人男性なので論外、昇陽王子や劉慎、顧敬も男性に見える。乗月主従も男性らしいと言うより、貧しい人間に見えない。盛墨も働く子供の演技ができない。
「そこ行くと俺は物乞いの演技もできるし」碧旋はけろりと言う。姫祥がこの中では一番立場が近く、夏瑚も平民生活をされなりに送ってきているから、大丈夫だろうと。
劉慎は碧旋と姫祥だけでも良いのではと難色を示したが、夏瑚自身がそれを蹴っ飛ばした。
「この中では、夏瑚が一番碧梓と話が合ってたように思うんだ。だからだな」
「しかし、代官府からも族長府からも布告が出ているのに、花街の人間が不審者を庇うだろうか」乗月王子が首を捻る。
「そうだな、碧梓は花街との接点はなかったと聞いている。以前から付き合いがあればともかく、碧梓を匿うとは考えにくいが」
「匿う、ではなく監禁しているのかもしれません」「その場合は、花街の人間が監禁しているのか、誰か別の人間が連れてきて、花街に隠しているのか」
「花街には独自の規律がある」碧旋が王子たちを見る。「上の人間から言われただけで、はいそうですかと動くとは限らない」
碧旋の言葉に頷いたのは劉慎だった。「確かに、規模の大きな繁華街には、行政府でも把握しきれない部分がある」
大きな花街がある都市は限られる。娼館は一定の大きさの街にはつきものだが、娼館だけでなく賭場や酒場などで賑わう花街となると、様々な人間が入り込む。公的な機関の手を嫌う人間も少なくない。いかがわしい人間でも、金を運んでくれば受け入れられ、過去が不明でも、自分に対しては誠実に振舞うのであれば居場所ができる。
そうやって人のつながりができ、組織ができる。
その中の人間が隠すと決めたら、表には出てこない可能性がある。
「まあ、いいじゃねえ」盛容がぽつりと言う。「正直、もう時間切れで打つ手はないだろ。越権行為だしな」「そうですね、顧家に協力するという建前はあるにしてもこれ以上は難しいですね」盛墨も腕を組む。
顧敬は今後も関わることはできるが、他の面々は顧敬に個人的に助力する程度のことしかできない。学生なので多少の無茶は目をつぶってもらえたというだけなのだから。
消極的ながら、他の面々の容認を取り付け、荷造りは盛墨たちが引き受けてくれた。王子たちは護衛を付けることで納得した。碧旋は護衛を引き連れていくことで、潜入がばれることを危惧していた。それでも仕方ないと飲み込んで、護衛たちと綿密に打ち合わせをした。
3人で花街の裏路地へ進む。道に関しては自警団から教えてもらった。
昼間の明るさのもとで見ると、花街はずいぶん侘しく見える。ごみはあちこちに落ちているし、吐いた跡やら尿の匂いまで漂ってくる。
建物も、よく見ると古ぼけており、よく手入れされている家などでは見かける花飾りなどもない。代わりに蝋燭や油を使った灯りが設置されていて、夜になるとそれが灯されることで、雰囲気を生み出しているのだろうと思った。
碧旋は孤児院の孤児たちからも情報を収集したようだ。
孤児の中には花街の生まれの子供がいる。娼婦の子供は母親の手で育てられることもあるが、若くして亡くなる母親も多く、それで娼館にいられなくなって孤児院に行きつくのだ。
禅林の孤児院はかなり面倒見がよく、躾も教育も行き届いているという評判だから、将来を考えて母親が居ても孤児院に行く、行かされる子供もいると言う。
その花街出身の子供たちによると、基本的に花街は朝が遅い。夜遅くまで稼いでいるからなので当然なのだが、娼館は掃除や食事の世話などに下女を雇っていることが多く、朝は下女だけが起き出して働きだす。
しかしどこもできるだけ下女は少なく、あまり雇いたくないものだ。できるだけ少ない人数で仕事をこなしてほしいと言うのが本音で、儲かっていない娼館では、娼婦や娼婦の子供にやらせているところもある。
下女たちは同じ待遇の者同士で、仲良くなったり助け合う。朝、裏路地の井戸端で集まっておしゃべりをしながら洗濯をしているとのことで、碧旋たちはそこへ向かっていた。




