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本日もよろしくお願いいたします
魔獣討伐の後処理に追われていた3日間が終わり、翌日は1日寝て過ごした。
そして翌々日、俺が食堂で朝食を食べているところへ、ゲリエル侯爵が現れた。
「あ、すみません。直ぐに食べ終わって部屋に戻りますので」
慌てて食事をかきこもうと思ったら、手で制された。
「いや、今日は君に話があって来たのです。私も朝食を一緒に頂いて宜しいですか?」
「この屋敷の主人はゲリエル様なのですから、私の許可など不要かと思いますが?」
私のこの返しに何故か、悲し気に目を伏せる侯爵。
「いや、君は侯爵夫人なのだから、君もまたこの屋敷の主人だ」
「はぁ。この屋敷の主人だと自覚した事も、主人として接された事も無いですが、そうかも知れないですね」
「・・・」
(ぐうの音も出ないって顔してら。嫌味が過ぎたか?
意地悪はこれくらいにしておく方が良さそうだ)
給仕がゲリエル当主の朝食の準備をし、ふたりとも無言で朝食を食べた。「話がある」と言う割には一向に口を開かないゲリエル公爵に疑問を持っていると、食後に何故か玄関ホールへと連れて行かれた。
そこには家令のギャビーを先頭にこの屋敷の使用人達と兵士長と衛兵長などが並んでいて、私の姿を認めた瞬間、一斉に頭を下げてきた。
「は!? 」
「ツェツェアーリ、君には申し訳ない事をした。私は君を虐げようなどとは思っていなかったのだ。
寧ろ白い結婚を申し込んだ代わりに、ここでの生活が快適に恙ない物になる様にと家令に指示していた・・・つもりだったのだ。
だが、私の言葉が足りなかったために使用人たちに勘違いをさせてしまい、このような事態に至ってしまった」
「いえ!ご主人様は何も悪くありません。私がご主人様の意思を読み間違えてしまったのでございます!
悪いのは私めでございます!お詫びのしようもございません。
私の命でも何でも差し上げますので、どうか、どうか、ご主人様の事を咎めるのはご容赦いただけませんか?」
とギャビーが悲痛な声で訴えると、続いて侍女頭のマラルも声を上げる。
「私どもにも責任がございます!ご主人様の真意をよくよく聞きとって、間違って受け取っていないか確認するべきでした。私たちも罰して下さいませ!」
それを受けて、こんどはゲリエル侯爵が彼らを庇う。
「いや、君たちが悪くない。
私は罪悪感からツェツェアーリを避けて顔を見ない様に務めていた。その様な振る舞いが君たちの勘違いを助長したのだ。
私が不甲斐ないばかりに、気苦労を掛ける」
「いえいえ!ご主人様は素晴らしい方です!悪いのは私共でございます!」
「いやいや―――」
「いえいえ―――」
(うん、俺は一体、何を見せられてるんだ?
“お優しい侯爵様と従順な使用人の愛の絆”ってやつか?
これ、俺に謝ってるのか?謝ってないよな?謝られてる気が全然しないよな?)
「ツェツェアーリ、彼らを許してやってくれないか?」
「・・・許すも許さないも、許さないといけない事など、何もされていませんが?
私はこの屋敷で何かを課せられる事も無く、非常に自由に快適に暮らさせて頂いております。
それに、さっきからゲリエル侯爵様以外の方からは謝罪もされている様には思えませんし。
ギャビーさんの命がどうとか仰られていましたが、仮に彼らに断罪が必要なら、家令如きの命で賄える物とも思えませんし」
「っ!? 申し訳ございません、ツェツェアーリ様!
我々の態度は、主人の指示に従っているとばかり勘違いしていたとは言え、帝国との和平条約のために御身を差し出して頂き、当家に輿入れして頂いた方に対する態度ではありませんでした。
これからは使用人一同、心を込めてお世話させて頂きたく存じ上げております!
誠心誠意お仕えすることをお許し願えますか?」
「いや、今で通りで良いですよ」
「いえ!そう言う訳にはまいりません!」
「いやいや、だから快適に過ごせてたって、私、言いましたよね?急に丁寧に接されても鬱陶し・・んんっ、煩わし・・ゲフゲフ、迷惑・・じゃなくて、えーっと、ちょっと差しさわりがある・・かな?」
「言い直しても同じことだと思うが・・・」
「と、兎に角!今まで通りで、私の事は放っておいて下さい!自由を愛しているのです!」
(今更、恭しく傅かれても困惑しかねぇわ!)
「・・・もちろん君は好きに過ごして貰って構わない。侯爵夫人として正当な待遇も約束する。
しかし、冒険者は辞めてくれないかな?もしくは、せめて護衛を連れて行ってくれ」
「護衛なんか付いてきたら、邪魔・・じゃなくて、彼らの気配が気になって、討伐に集中できない恐れがあります。それに、冒険者を辞めるつもりはありません。
って言うか、侯爵夫人をさせられる方がめいわ・・・いえ、そのような責任ある大役は私では力不足ですので辞退させて下さい」
「ツェツェアーリ・・・君は・・・そこまで私たちを恨んでいるんだね?」
「いやいやいや恨んでなど・・・恨むほどの感情も関心も一切、何もないです!他人事です!・・・あん?」
「そうだな。私たちはお互いの事を全く知らない他人だな。お互いに知り合う事、まずそこから始めなければな」
「あ、いや、すみません。責めている訳ではなく・・・失言でした」
「いや君の意見は正しい。同じ屋根の下に暮らす者同士、お互いを知る努力をする事は人として最低限のマナーだったな。それさえ怠っていた自分が恥ずかしいよ。申し訳ないが、“白い結婚”は取り消せないが、せめてこれからは交流を持たせてくれ」
「まぁ、はい。たまに話す位ならば、お付き合いさせて頂いても良いですが・・・ほんと、“たまに”にして下さい」
「ありがとう。皆も、ツェツェアーリを敬い、心安く過ごせるように心を砕いて接してくれ」
「畏まりました!」
はぁ・・・今更だけど、まぁ良いか。
▲▽▲▽▲▽
「ツェツェアーリ様!おはようございます!お着替えを手伝わせて頂きます。本日はどのお召し物になさいますか?こちらの紫色のドレスなどツェツェアーリ様にとってもお似合いになると存じますがいかがですか?」
「いえ、手伝いは結構です。それと今日も冒険者活動に行きますので、動きやすい服を着ますね」
今まで一切関わってこなかった専属侍女のラベンダが急に馴れ馴れしくしてきて・・・鬱陶しい。
「ツェツェアーリ様!晩餐の準備が整いましてございます!晩餐用のドレスを準備致しましたので、お着替えをお手伝いさせて頂きます。湯あみもされますか?」
「湯あみも、着替えも不要です。このまま頂きます」
何度手伝いを断っても、諦めずに勧めてくる。はぁ・・・
それに、湯あみの手伝いは断固拒否したい。俺の体は女だが心は男なんだよ。
「ツェツェアーリ様!ご主人様がお庭でお茶をご一緒したいと申しております。こちらのドレスにお着替えなさいますか?萌黄色の肌触りの良いドレスでございますよ!」
「これから冒険者ギルドに行く用事があるので、お茶会は辞退します。ドレスも不要です」
ゲリエル侯爵も毎日お茶に誘ってくるの、勘弁してくんないかな?
で、侍女も何かって言うとドレスを勧めてくるのにうんざりなんだけど。
ドレスは何十着もゲリエル侯爵から贈られた。ドレスだけでなく装飾品もそれなりの数になった。
だけど、前の完全放置の状況の方が気楽で良かったぜ。これがあと数年も続くのか?やっぱ、最初のゲリエル侯爵の申し出通り、1年で離縁する方が良いかもな。
そんな事を考えながら、屋敷を後にするツェツェアーリだった。
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