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本日もよろしくお願いいたします

 妻の話に混乱した私は、兎に角まずは事実確認だと考えて使用人を順に呼んで話を聞きました。


まずは家令のギャビー。


「はい、旦那様。ご安心くださいませ。パミドロル帝国の好きにはさせていませんよ!あの女を使って侯爵家の財産を食いつぶそうと言う魂胆に違いありませんからね!あの女に無駄な金は与えておりません。ええ、もうしっかり財政を守っておりますとも!」


次に専属侍女のラベンダ。


「はい。私どもは旦那様のために帝国の女をしっかり懲らしめておりますとも!国策であんな売女を押し付けられて旦那様はなんてお可哀想なのかしらと、皆心をひとつにしておりますのよ。あんな女に侯爵夫人としての待遇をするなんて考えられませんからね!」


最後に兵士長。


「ギャビーさんからは護衛の必要なしと承っておりますよ?我々としても帝国の女に監視を付けない事に不安があると上申いたしましたが、何でも「好きにさせておけ」とのご指示だそうで、こう言う対応に・・・やはり監視なしは不味かったですか?あの女、何かやらかしやがりましたか?」


 何て事なの!私が妻を避けると言う対応をした事で皆がここまで勘違いしていたなんて!優秀な人材を集めた結果がこの斜め上方向の「忖度」に繋がってしまったんだわ。

 どうしてこうなってしまったの・・・




▲▽▲▽▲▽


 私は今はアルスラン・ゲリエル侯爵だけれど、前はアマラ・シャルパンティエと言う名だったの。いいえ、改名したのではないの。生まれ変わったのよ!

 前世での私は伯爵家の令嬢で、女性ながら騎士に成り、パトルと言う幼馴染と結婚の約束をしていたわ。でも、内戦が始まってしまって彼とは敵味方に分かれて戦わざるを得なくなったの。そしてそのまま生き別れになってしまった。私は80歳手前まで生きたけれど、パトルは22歳の若さで亡くなってしまった。

 私が前世を思い出したのは10歳の時。剣術鍛錬を行っていて父の剣を受け損ねて頭を殴打されてしまい、半日意識が無くなってしまった時だったわ。

 目覚めた瞬間、私が前世の死の直前に願った事が叶ったのだと言う事に気が付いたわ。しかも「男に生まれ変わる」と言う冗談半分に呟いた事まで。


 前世の記憶を取り戻した私はすぐさま、パトルの行方を捜したかった。「きっと彼もこの世界にいる」そんな確信があったの。

 けれど、私はまだ10歳で社交界にも出ていない。そんな私はまずは周囲の人間をそれとなく観察してみたけれど、今世の私(アルスラン)の狭い世界の中にパトルらしき人はいなかったわ。

 成長と共に人付き合いの範囲が広がって、パトルを探す捜索の範囲も広げていけたけれど、(よう)として行方は知れないままでした。


 時を経るとともに「彼もこの世界にいる筈」と言う確信は揺らいでいきました。 

 今すぐ会いたい。けれど、実は自分しかこの世界に生きてはいないのではないかしら。

 そう思うと今すぐこの命を絶ちたくなってしまう。


 パトルは剣技に長けていました。ですからきっと彼は今世でも剣の道に進むはずよね?それならば私も今世でも騎士を目指してみようと決意したわ。

 鍛錬に打ち込む事はまた、探し求める人に会えないまま無為に過ぎるこの生をごまかしながら生きて行くよりも建設的であろうと思ったの。

 でも、できるならば会いたい。もう一度だけでも。


 私は前世でも騎士だったし今世でも鍛錬の成果が出て、14歳から騎士見習いになり16歳の成人と共に騎士に叙任されました。

 そして魔獣討伐や隣国との戦争に従軍して戦果を上げ、着実に騎士として出世していき、百人長を任されるまでになったわ。


 もちろん、騎士団の中でパトルの捜索も怠りませんでした。

 でも、いくら探しても見つからないの。レチノール国には居ないのかしら?でも、外国を探して歩く訳にはいかなし・・・困ったわ。


 そして、まだまだ騎士として活躍すると思っていた22歳の夏、両親の訃報が届いたのです。

 馬車で移動中の事故です。まだまだ現役で活躍すると思っていたのに・・・私は放心してしまいました。

 でもいつまでも呆然自失でいる訳にはいきません。私は領地経営の為に正規軍からは退団することになりました。ただし、非正規騎士として、時々は訓練に参加しなければなりません。

 これからは、従軍が必要な場合、侯爵家の私兵を指揮しての活動になります。


 領地と王都を往復しながら領地経営と騎士職を兼任する事2年。日々の忙しさに忙殺されてパトル探しも満足に行えませんでした。

 そんな私の苦悩など関係なく、我が国とパミドロル帝国との緊張感が高まり一発触発の様相を呈してきました。私もいつでも従軍できるように準備を進めていました。

 ところが、来月にでも開戦か?と言う中、突然にレチノール国とパミドロル帝国との条約締結が発表されたのでした。

 戦争が回避されたのは喜ばしい事なのですが、私にとって嬉しくない話までも付いて来てしまいました。

 パミドロル帝国の貴族の娘との縁談です。これは王陛下からの勅命なので断ることはできまん。 

 貴族でこの歳まで結婚せず、婚約者も居ないと言うのは異例でしょ?勿論、これまでも何度も縁談の話は来ていたわ。

 婚姻と後継者を作る事は貴族の義務。ええ、分かっています。分かっているんですけれど、私にはパトルを忘れる事はできないの。

 今まで誰に何を諭されても。どんな良縁があっても絶対に首を縦に振らなかったわ。

 前世では断れずに別な方と結婚してしまった。女性であった(アマラ)にはどう仕様もなかったの。

 でも今世ではせっかく男に生まれたんですもの。両親には散々泣かれてしまったけれど、頑として縁談を断り続けたわ。


 しかも今は私が侯爵家当主であり、私に命令するのは王族だけ。ある程度、自分の自由に生きることができる立場よ。ならば私はこの生を終える瞬間までパトルを探したい。パトルと共に在る未来しか受け入れられない。


 勿論パトルを見つけても、彼が男ならば親友にしかなれないです。分かっています。だけど、探さずにはいれないの。待たずにはいられないのよ。

 後継者は親戚筋から優秀な養子を貰えば済む話よ。ですから、いままで全ての縁談を断ってきたのに。今度ばかりは逃れられない。


 私は白い結婚を心に決めました。1~2年ほど経ってパミドロル帝国との同盟関係が確かなものとなった頃にでも、多額の慰謝料を支払って離婚しましょう。

 「期待させる」事が一番いけない事だと、パトルを待っていた自分が一番身に染みています。

 ですからパミドロル帝国から来る妻には優しい言葉や対応は極力控えて、交流も控えて事務的に対応しなければいけないわ。その代わり、(つつが)なく心安らかに過ごせるように、家令にはしっかり指示しておいたつもり。


 私は前世でも今世でも若い頃から騎士の道に進んだから家の内向きの事の采配は苦手なの。前世、結婚した時も「騎士の鍛錬ばかりで内向きの采配は全くできない」と言ったら、夫は優秀な侍女と秘書を付けてくれて細かい事は全て彼女や彼らに任せていました。

 ですから今世でも優秀な家人ばかりを揃えたわ。1を言えば10まで理解できる者達なのよ。

 侯爵家の力があれば優秀な人材で固める事は造作もない事です。妻の事も彼らがちゃんとやってくれるでしょう。

 と、そう昨日までの私はそう思っていたわ。


 信頼して全てを任せてしまっていました。

 交流して変に情が沸いてしまうと離縁できなくなるかも知れない。それを恐れた私は彼女と極力顔を合わせない様にしました。いえ、彼女の顔を見ると罪悪感に苛まれてしまいそうで顔を背けていたのです。

 この私の行動が家人達に変な忖度をさせてしまっていたなんて考えもしませんでした。見たくない物から目を反らせた結果がこれなのね。


 彼女に「(つつが)なく心安らかに」とは真逆の生活を送らせてしまっていました。

 最低の夫だ!

 考えてみれば夫から相手にされない妻など、屋敷では立場が弱いに決まっている。そんな事にさえ思い至れなかった自分に嫌気がさすわ。

 その上、なんと冒険者になって“食住”以外の自分の生活に必要なあれこれを手に入れなければならない状況だったなんて!

 しかも、先日の“魔獣氾濫(スタンビート)”の討伐に参加していたなんて!

 もしも死んでしまっていたなら、取り返しの付かない事態になっていたわ。


 彼女は「侯爵家の妻だとはバレない様に上手くやっていたから大丈夫」なんて言っていたけれど、そんな問題ではないの。国際問題なのよ!!何を考えているの!? 私もいけなかったけれど、彼女の思考と行動力は理解しがたいわ。


 彼女が冒険者ギルドから帰ったら、ちゃんと話合わなければ!

 でも私は彼女が帰宅する前にやるべきことがあるわ。家人を全員招集して、勘違いの無い様に、忖度の余地を残さない様に、しっかり、きっぱりと説明するのよ!





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