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本日もよろしくお願いいたします

 冒険者になって6ヶ月ほどたった頃、俺はその外貌(マスク姿)と実力でそこそこ有名になっていた。

 そんなある日、魔獣氾濫(スタンビート)が起こった。


 いつもの様に森で魔獣討伐を行い、冒険者ギルドへ素材を売りに行った夕方。冒険者ギルド内が騒然としていた。

 買い取り窓口の職員に何があったのか聞いてみると、ゲリエル侯爵領と隣の領との間に広がる“黒の森”で魔獣氾濫(スタンビート)が発生したと言うのだ。“黒の森”とは俺がいつも魔獣を狩っている場所とは街を挟んで反対側だ。

 氾濫した魔獣は隣の領の方向に進んだ様だが、いつこっちに反転してくるか分からない。偵察に行った冒険者達が帰還するのを待っているとの事だった。

 もしこちらの領に来るならば、冒険者ギルドは冒険者を招集し、領兵と連携して対応に当たるらしい。クランに所属していない俺も招集対象らしく、このままギルドで待機してほしいと言われた。


「直ぐに出るわけじゃないなら、ちょっと所用を済ませ来て良いか?」


「駄目だ。偵察隊は間もなく帰還するだろう。混乱で招集漏れになる危険があるからこのままここにいてくれ」


「う~~ん、仕方ねぇな」


(一旦屋敷に戻って、就寝した風に取り繕って来たかったんだが)


「すまないね」


「いや、非常時だ。そちらの判断が正しいだろう」


 それから間もなくして、偵察が帰還した。隣の領で散々暴れまわった一部が左右に分かれてぐるりと回りながらゲリエル領に向かってくる様だとの事。


「二手に分かれて迎え撃つ!ソロの冒険者はこちらに集まってくれ!」


 クラン所属の冒険者達はクラン単位で受け持ちを割り振られた。俺のようなソロの冒険者は16人ほどいるのだが、纏めて北側から侵入してくる魔獣の群れの対応に配置された。

 ソロ冒険者以外にもいくつかのクラン所属の冒険者も一緒にギルドが準備した馬車に乗り合わせて現場へ移動する。現場に着くと、領兵も出動していた。

 最初はポツポツと、そして次第に増えていく魔獣を次々と討伐してゆく。気が付けば魔獣が洪水の様に押し寄せてくるまでになっていた。休む暇はない。皆、黙々と討伐を続けていく。




▲▽▲▽▲▽


 明け方、漸く動く魔獣の姿が無くなった。

 一晩中、魔獣討伐を行っていた冒険者や領兵達は俺も含めて皆、自分の怪我からの出血なんだか返り血なんだか、泥汚れなんだか分からない位に血みどろで疲れ果てている。しかしその表情は明るかった。領地を守り抜いたんだ。


 疲れた体をひきずりながら一旦ギルドに戻り、今日の討伐に参加したことを証明する木札を受け取って帰路に就いた。報酬支払は混乱がある程度収まった頃まで待ってくれって事だった。


 屋敷では俺が居ない事で大騒ぎになって・・・いなかった。

 と、言うか屋敷全体が静かで人の気配がない。屋敷のみんなも討伐に駆り出されたのか?女性も?

 良く分からんが、疲れていた俺は考える事も、家人を探すこともせず、まずは自室でお湯を使ってさっぱりした。

 次に「寝る前に腹に何か入れないと死にそうだ」と思って、厨房へ行って適当に食料を漁って立ったまま食った。

 食っていたら、料理人が現れて腰を抜かすくらいにびっくりされ、怒鳴られた。


「どこへ行ってたのですか?皆して散々探したのですよ!それに何ですか、泥棒猫みたいに食事を漁ったりしてはしたない!」


 どうやら、魔獣氾濫(スタンビート)や戦争など非常時には襲撃に備えて屋敷中の人員が宴会場に集まる事になっていたらしい。そこだけ特に強力な『障壁』の魔道具で守られているからだそうだ。

 しかし、侍女が俺を呼びに部屋に行っても居ない。どこへいった?と大騒ぎになった。すると馬番が「遠乗りに出掛けた」と言う。

 ゲリエル侯爵は領兵を連れて魔獣討伐に出ていて不在だ。


 そこで家人達は悩むことになる。

 街に買い物にでも行ったのか?

 探しに行く?

 誰が探しに行く?

 街に魔獣が侵入したらどうする?

 旦那様に不要な扱いを受けている奥様を俺たちが命を懸けて探さないといけないのか?

 兎に角、旦那様に知らせなければ。

 いや、報告は旦那様が戻られてからで良いのでは?

 それまでに自分で戻って来るかも知れないし。

 そーだ、そーだ、そうしよう。家人たちはそう結論付けた。

 そして明け方に帰宅したゲリエル侯爵がツェツェアーリの不在を聞いて激怒。

 再度、領兵を連れてツェツェアーリの捜索に出掛けて行ったと言う。


「一晩中討伐任務についていた旦那様は疲れた体をおしてあなたを探しに行かれたのですよ!?

 あなたはいったいどこをほっつき歩いていたのですか!? 」


 料理人から連絡を受けて慌ててやってきた家令のギャビーがガミガミと文句を言ってきてウザい。

 俺は適当に話を流して、おざなりな相槌をうちつつ、果物と飲み物を持って自室に戻った。


「私、疲れてるの。説教を聞いてる余裕はないわ。また明日にしてちょうだい」


 ギャビーの目の前で自室の扉を閉めた俺は、そのままベッドに潜り込んで意識を手放した。


 


▲▽▲▽▲▽


 扉をドンドンと叩く音に意識が浮上してきた。でもまだ寝足りない。


「う~ん、もう少し寝かせてくれぇ」


 掠れた俺の声は、当然扉を叩いている者には聞こえていないだろう。ドンドンと不快な音が続く。

 布団を頭から被って無視してたら無遠慮に扉を開けられて誰かが侵入してきた。ゲリエル侯爵だ。


「おい!起きなさい!どう言う事か説明しなさい!」

 

 ゲリエル侯爵は私の頭から布団を剝ぎ取った。

 目に陽差しが刺さり眩しい。光の刺し具合からして、私が寝てから数時間程しか経っていない様子。

 俺は不機嫌を隠しもせず顔を上げて夫を睨んだ。


「何が?」


「何が?じゃない!昨夜はどこへ行っていたのですか?魔獣氾濫(スタンビート)があったんですよ!家人を心配させるんじゃない!」

 

 頭に響く大声に顔を顰めながら返事をする。


「ゲリエル侯爵様が、好きに過ごせって仰ったんですよね?文句を言われる筋合いではありません。私、疲れているんです。お話は明日にして下さいませ」


 剥がされたかけ布団を奪い返し、また頭の上まで被って無視する。

 ゲリエル侯爵はしつこく声をかけ続けていたが、暫くして諦めて出て行った。

 漸く静かになった部屋でツェツェアーリは再度、夢の中へと旅立った。




▲▽▲▽▲▽


 夢の中でパトルはアマラと一緒に魔獣の討伐を行っていた。実際にはパトルとアマラは騎士団の所属が違ったので一緒に魔獣討伐に行った事はない筈なのだが・・・

 ふたりは連携して次々に襲い掛かる魔獣を倒していく。ふたりの息はぴったりだ。


「アマラ、疲れてないか?大丈夫か?」


「ええ!大丈夫よ!あなたこそ大丈夫?パトル」


「この程度、余裕だよ!」


「それは頼もしいわね!じゃあ私は行くから、後は宜しくね!」


「え?宜しくって・・・」


 気が付いたら、俺はひとりきりで森の中におり、魔獣と戦っていた。アマラを探しに行きたいけど、魔獣が引っ切り無しに襲いかかって来るから、この場を離れる事ができない。


「アマラ!どこだ!? どこにいった!? 俺を置いて行かないでくれ!」


 必死に呼びかけるが応えは無い。

 俺は遮二無二剣を振り続ける事しかできなかった。



「はっ!」


 薄暗がりの部屋で目が覚めた。

 一瞬、自分がどこにいるのか分からず慌ててベッドから飛び出して周囲を確認する。


(ああ、ここはゲリエル侯爵領の屋敷の俺の部屋だ。夢を見たんだな。

 いまは明け方の様だ)


 自室だと気づいて、一気に脱力してベッドに戻る。


(パトル)の方がアマラを置いて先に逝ってしまったのに、「置いて行かないでくれ」はねぇわな)


 若干夢見が悪かったけど、十分な睡眠時間をとったおかげで頭はすっきりしていた。体はまだ鈍い疲れが纏わりついているけれど。


 寝る前に持ち込んだ飲み物と果物を口にしてから、俺は朝食の時間になるまでベッドでゴロゴロと過ごしたのだった。



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