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本日もよろしくお願いいたします
ゲリエル侯爵家の領地に移って2ヶ月程が過ぎた。
俺は毎日魔獣狩りに出かけている訳ではない。俺も馬もたまには休息も必要だ。
今日はそんな休息日だ。
朝食後、昼過ぎまで惰眠を貪ってしまったので、「少しは体を動かすか」と庭の散策に出た。
ゲリエル侯爵家の庭は立派で、よく手入れされている。専属の庭師が3人もいるのだ。当然か。
生け垣を進み、小さな池を眺め、バラ園を散策して気が付いたのだが、ここは前世の俺の実家ジアゾキシド家の庭に似ている場所と、アマラの実家のシャルパンティエ家の庭に似ている場所がある。いま遠くに見えて来た東屋は、シャルパンティエ家にあった物と同じ形、同じ意匠の様だ。
俺は庭の事については詳しくはないのだが、“典型的”とか“流行の形”と言う物があるのだろうか?時代も違う、貴族家も違う庭がこんなに似るものか?
そんな事を考えながら歩いていたから、東屋に人が居ることに気づかずに不用意に近づいてしまった。
東屋でゲリエル侯爵と若い女性がお茶を飲んでいる事に気が付いた時には、あちらも俺に気が付いてしまっていた。客を前にして挨拶もせずに「回れ右」する訳にはいかないだろう。
仕方なくそのまま東屋に近づいて行くと、ゲリエル侯爵があからさまに表情を歪めた。
(おいおい、俺だってわざとやってる訳じゃねぇんだからよぉ。そんな失礼な態度を取るなよなぁ)
「お客様がいらしてたとは知らずに、御挨拶が遅れて申し訳ございません。私はツェツェアーリ・ゲリエルと申します。主人がいつもお世話になっております」
「まぁ!お客様だなんて!私はイーリー・ミロワール。ミロワール家はゲリエル侯爵の分家で男爵家ですわ。アルとは従妹で、物心ついた時から兄弟の様に育ちましたの。
今ね、アルったら小さい頃に私と結婚の約束をしたのに、散々待たせた挙句に帝国から嫁を貰うなんて酷いわ!って話してたのよ!今日は帝国の泥棒猫が見られて満足だわ!」
ずいぶんと若い。まだ成人もしていなさそうな少女が満面の笑顔で毒を吐いてきた。
「・・・」
(何と言うか、レチノール国は社交に礼儀と言う物は存在しないのか?それともゲリエル侯爵家の教育方針か?)
「それでねっ、私に妙案があるの!
私が正妻であなたが妾になれば良いのよ!
だってあなた、客室を与えられているのでしょ?
正妻と認められていないってことよね?」
俺はゲリエル侯爵の顔を見た。
(こいつか?こいつなのか?
このお馬鹿っぷりが規定値をはるかに越えている、この餓鬼んちょが、お前の“心に決めた相手”なのか? )
ゲリエル侯爵は俺の事はまるっと無視して、頭の足りない餓鬼んちょに話しかけた。
「リー、私は君とは結婚しないと言ったろ?リーは妹みたいな存在だ。可愛いとは思うが、それは妹としてだ。家族に向ける親愛の情しかない」
「アルったら照れちゃって!良いのよ!アルの気持ちは分かってるわ!」
どこまでも自己中心的な会話を続ける餓鬼んちょは、また俺に向かって毒を吐く。
「アルはあなたの事なんて全然愛してないって!迷惑だって!分かったらさっさと出て行ってくれないかな?」
(さっきは「妾にしてやる」とか言ってなかったか?思いついたままを口に出している。発言に何の責任も持ってないのがまる分かりだな。
“国際情勢”なんてものもまるっきり分かってねぇんだろうな)
「お子様のままごとにお付き合いなさってる旦那様はお優しいですわね。
でもイーリー嬢、そろそろ大人の常識も学んでいかれないと、社交界でお困りになるのはあなたですよ?」
俺は最初にゲリエル侯爵、次にイーリー嬢に向けて優しく声をかける。挑発をしっかりまぜて。
するとイーリー嬢は顔を真っ赤にして頬をぷっくり膨らませて、プイっと横を向いてしまった。
「ご歓談のお邪魔をして申し訳ございません。私は失礼いたしますね」
あれが“思い人”なら、俺の事を好きになるはずねぇな。って言うか好きになられたら迷惑だったわ。
▲▽▲▽▲▽
その夜、晩餐の席にイーリー嬢が同席していた。
イーリー嬢はゲリエル侯爵家に居座る事にしたようだ。
館の主人の隣の隣の部屋。つまり女主人の部屋の隣を自分の部屋に決めたらしい。
「アルの意地悪ぅ~!私、アルの部屋の隣が良かったのに!」
「リー、あの部屋は女主人の部屋だ。リーを入れる訳にはいかない」
「良いじゃない。あと何年かすれば私の部屋になるんだから」
「何年たっても、リーの部屋ではないよ」
「焦らし作戦ね!良いわ、付き合ってあげる!」
「・・・」
(俺の居ないところでやってくれないかなぁ。胸やけするわ。
いや、イーリー嬢はわざと俺の目の前でやってんのか)
「ねぇ、明日は街に買い物に行きたいわ。アル付き合ってくれるでしょ?」
「明日は王都に移動する日だから無理だよ」
「じゃあ、午前中!半日もあれば買い物は終わるから、お昼から出発すれば良いじゃない!ね?」
「ギャビーに言っておくから、彼に付いていって貰いなさい。お金は私が出してあげるから好きな物を買いなさい」
「えぇー!ギャビーって会話が詰まんないから嫌だわ。
先月も買い物に行けなかったのよ!明日は絶対に絶対にぜーったいに付き合ってもらうわ!」
「はぁ~。無理だよ」
「あ、じゃあ、王都に私が付いて行くわ!王都の街を案内してよ!」
「私は王都に遊ぶに行くのではないんだよ。仕事なのだよ」
「半日くらい空けてよ!」
このあしらわれかたで、能天気におねだりができるイーリー嬢の精神の強さに脱帽だな。
ゲリエル侯爵の塩対応の様子を見る限り、“心に決めた相手”はイーリー嬢ではないのか?
幼い子供特有のキンキン声が俺の精神ゴリゴリと削って来て疲れさせられるが、ゲリエル侯爵が王都に行けばイーリー嬢も帰るだろう。明日からまた静かに過ごせそうだ。
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