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本日もよろしくお願いいたします

 

 ゲリエル侯爵領での生活が始まって、暫くが経過した。

 専属侍女のラベンダとか言う女は、「専属とは?」と疑問に思うほど、俺の世話に来ない。朝起こしに来ることも無く、着替えの準備や手伝いも無し(寧ろ、要らないけど)、掃除は数日おきに簡単にしかやらない。たまに、ベッドに虫の死骸があったりする。わざとか?

 あとは・・・夕食の準備ができた事を伝えに来るくらいかな?しかも微妙に遅く呼びに来るもんだから、いつも食堂に行くとゲリエル侯爵が既に食事を始めてしまっている。


 ゲリエル侯爵は基本的に領地に住んでいるが、王都の王宮で仕事があるために、度々王都と領地を往復している。だいたい月の半分くらいは留守にしている。

 ゲリエル侯爵の留守中、領地の屋敷を采配するのは家令のギャビーだ。


 俺が侍女のラベンダに何かを指示したり所望したりすると、まずは「ギャビーさんにお伺いしてまいります」と返される。

 俺が何かをするのに、いちいち家令の許可が必要なのだ。屋敷の女主人の面目丸潰れである。まぁ、そんなのに興味無いから良いけどね。


 帝国と違いレチノール国はまだまだ魔獣が多い。魔獣討伐にかける資金も人材も不足しているのだろう。

 「屋敷の外に出る時は身の安全を保障しかねます」と言われた。屋敷には結界の魔道具が設置されており、外から外敵が侵入する事は無い。

 なぜ、そんな事を言われたかと言うと、あまりにも暇を持て余し過ぎた俺が「馬で遠乗りに出掛ける」と言い出したからだ。護衛を付けると言う発想は無い様だ。まぁ、護衛など逆に邪魔になるだけから良いんだけどね。


 ギャビーの忠告に適当に返事しておいて、俺は遠乗りに最適な服装に着替えて厩へ向かった。後ろからギャビーの大きな溜息が聞こえたが無視した。

 魔獣に怯えなさそうな一番がっしりした体格の馬を選ぼうとしていたら、「旦那様の馬なので駄目です」と止められた。仕方がないので、二番目に良さげな馬を選んだ。


 馬番はニマニマしながら、鞍を付けて手綱を渡してきた。

 留め具を確認すると、緩みがあった。

 鞍や(あぶみ)(はみ)などの取り付けをやり直しながら「ちょっと技量が足りていないわね。侯爵家の馬番としては、不味いんじゃないのかしら?」と指摘したら、苦虫を嚙んだような顔をして、小さな声で「申し訳ねぇこってす」と返してきた。


 馬の名はアレスと言うらしい。アレスは気性が荒いらしく、最初は暴れて俺を乗せたがらなかったが、俺が強引に飛び乗って従わせたら直ぐに素直になった。


(馬の分際で俺に逆らうなんぞ、100年早ぇえわ!)


 馬番は詰まらなさそうな顔をして、自分の仕事に戻って行った。


 久しぶりの乗馬だ。風を切って走る。風が汗を吹き飛ばす。気持ちがいい!

 アレスも鬱憤を晴らすかのように全力で走っている。


「お前、運動不足だったんだな。これからは俺がちょくちょく走らせてやるからな!」


「ブヒヒィ~ン!」


「よしよし、可愛いやつめ!」


 屋敷の周囲は草原地帯であるが、1時間も馬を走らせると林が見えてきた。陽の光が入る明るい疎林だ。少し速度を落として林の中の小道を進むと、間もなく大きな湖が見えてきた。湖の近くで馬を降り湖面を覗き込むと、非常に澄んでいて魚影が多数見えた。


 水に手を浸すと、とても冷たくて気持ちが良かった。湖に飛び込んで汗を流したいが、『索敵』が周囲に魔獣の反応を多数感知しているから、止めておいた方が良いだろう。

 今も1匹の魔獣がこちらへ向かってきた。この大きさはワイルドボアかソードディアか?

 木々の向こうから姿を現したのは、やはりワイルドボアだった。

 俺は腰に佩いた剣を抜いて構えて『身体強化』を発動する。


「グワァ~~~っ!!」


 ワイルドボアが威嚇の咆哮を上げながら突進してくる。


「ふんっ!」


 『身体強化』と魔術を纏わせた剣で一閃。さっさと討伐し、魔獣を『収納』に入れた。

 その後も数匹の魔獣を討伐してから帰路についた。



 後日、俺は冒険者ギルドへ冒険者登録をしに行った。

 侯爵夫人だとばれない様に冒険者の恰好をして、顔は目だけを出して布を巻き付けて隠した。名前は前世の名前のパトルとした。


 冒険者に出される依頼はクランに所属していないと受けられないが、討伐した魔獣の買い取りは個人からでも受け付けてくれる。

 俺は度々「遠乗り」に出掛けて魔獣討伐を行い、ギルドに売って小銭を稼ぐようになった。


 何故小銭を稼ぐのかって言うと、俺は侯爵夫人であるにも関わらず、屋敷ではゲリエル侯爵家の金を自由に使えないからだ。

 いちいちギャビーにお伺いを立てて支給して貰わなければならない。しぶしぶ支給されるし、何か言いたげな目で見て来られるのが鬱陶しい。

 と、言うのが最初の2週間。その後、だんだん拒絶される様になり、1ヶ月を越える頃には殆ど支給されなくなった。

 理由は「ゲリエル侯爵の女主人としての仕事を何もしていただの居候に支給するお金はございません」からだそうだ。


「下働きから家令である私も含め全員がこの領の為に何かしらの仕事をしております。

 奥様は宜しいですね。日がなのんびりとお過ごしになって、豪華な食事を召し上がって、乗馬を楽しまれて。

 その上、金をくれとは、図々しいと思いませんか?」


 と嫌味を言われた。

 俺は図々しくダラダラしている訳ではない。ゲリエル侯爵の女主人としての仕事を取り上げられているのだが?まぁ、どうしてもやりたい訳ではないから良いんだけど。


 別に贅沢三昧がしたい訳でもないし、冒険者活動をすれば自分の鍛錬にもなってお金も手に入る。持て余した暇を潰すにも丁度良い。

 こっちの方が俺にとって旨味しかないのである。


 そして、俺は3年以内に離縁されるらしいから、その後は冒険者で生活していくつもりだ。帝国に帰るかレチノール国にずっと居るかは決めていない。

 恐らく、離縁された俺は帝国に戻っても騎士に成るのは無理だ。家にも迷惑をかけるだろう。「行方不明」になるのが一番良い。

 それならば、レチノール国で冒険者活動を続ける方が良いだろう。いまはその下準備だと思えば良い。



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