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本日もよろしくお願いいたします
王都の屋敷で過ごす間、帝国から一緒に嫁いで来た花嫁達とはたびたびお茶会を行って、お互いの状況を報告し合った。
皆、概ね歓迎されており、相応の扱いを受けている様子だった。俺も勿論「非常に快適に過ごさせて頂いておりますわ」と言っておいた。
レチノールから帝国に王族や公爵家の姫が嫁いでいる訳だから、レチノール国も滅多なことはできないのだろうし、上位貴族はそこらへんをちゃんと弁えてくれている様だ。
王都の屋敷では、ゲリエル侯爵は夜の晩餐時に顔を合わす以外は滅多に顔を見ない。夜の晩餐でさえ、時々はブッチされる。使用人たちも俺に丁寧に接してくれはするが愛想は無い。この家に他の花嫁が宛がわれなくて良かったよ。彼女たちの誰かだったら絶対泣いてるな。
お茶会の無い日は書庫に籠り、レチノール国の歴史や情勢などについての書物を読んでのんびりと過ごした。と言うか、それ以外に何もする事が無かった。早朝にひそかに鍛錬はやっていたが。
そんな感じで1ヶ月を過ごした後、領地へ移動する日がやってきた。王都から南へ馬車で3日の距離にゲリエル侯爵家の治める領地がある。
夫婦は同じ馬車に乗っているが会話はない。
(こいつ、3日間このまま一言も話さないつもりか?)
会話の無いふたりでの馬車旅は苦行だ。仕方なく俺から会話を試みる。
「ゲリエルの御領地の特産は何ですの?」
「蜘蛛糸とその製品」
「ポイズンスパイダーが多く獲れますの?」
「ああ」
「領兵が討伐を?それとも冒険者に依頼をだすのかしら?」
「冒険者」
「領兵はどれくらいおりますの?」
「2000」
「・・・」
「・・・」
うん、無理だ。ネタ切れだ。会話は諦める。
▲▽▲▽▲▽
領地の屋敷では30名ほどの使用人たちに出迎えられた。王都の屋敷よりも広いから、流石に使用人も多い。と言えど、侯爵家にしてはとても少ない方だろう。侯爵は人嫌いなのか?
使用人以外に、領兵が2000名ほどいる。彼らは、領地の見回りや盗賊や魔獣の討伐を主な仕事としており、屋敷の警備には別に護衛兵が50名ほどいる。
本日は領兵、護衛兵から隊長だけが出迎えに来ていた。
ゲリエル侯爵はまたしても私を家令に押し付けて、自分はさっさと屋敷に入って行ってしまった。予想通りの展開に俺は驚きもしなかったが、家令や使用人達はびっくりした表情で固まっていた。
唖然とした表情を一瞬で隠した家令はギャビーと名乗り、俺に使用人と隊長達の紹介をしてくれた。こちらでも歓迎の色はない。だろうな。
ギャビーに案内されて2階建ての邸内に入ると、玄関ホールを挟んで左右に廊下が伸びている。正面奥に階段があり、その手前、左手の扉は食堂、右手は応接室であるそうだ。
左手の廊下の先は厨房や洗濯場、倉庫など使用人に関わる部屋がある。2階は侯爵家の居住空間である。
そして、右手側。1階は晩餐会や舞踏会の為のホールになっている。2階は客室が並んでいる。
ツェツェアーリが案内された部屋は、またしても客室だ。2階の侯爵家の居住空間とは反対側の廊下の一番奥。ここが俺に宛がわれた部屋だそうだ。
室内に入って直ぐが居間であり、奥に寝室の間がある。寝室には厠と浴場が付いており、1日の生活がここで完結できる作りだ。
「奥様におかれましては、こちらのお部屋でお寛ぎくださいませ。
お荷物は既に収納させて頂いております。何か足りない者がございましたら、侍女にお申し付け下さいませ。
最後に奥様専属の侍女を紹介いたします」
ギャビーの後ろから年嵩の女性が一人進み出た。
「ラベンダと申します。奥様の侍女としてお仕えいたします。宜しくお願いいたします」
「そう、よろしくね」
「では、晩餐の時間になりましたらラベンダがご案内いたします。それまでごゆるりとお過ごし下さいませ」
「私はずっとこの部屋かしら?」
「・・・と、申しますと?」
「普通、女主人の部屋があるわよね?後日、そこに移るのかしら?」
「・・・その様なご予定は承っておりません。私には分かりかねますので、旦那様にお尋ねになった方が宜しいかと存じます」
「そうね。今夜にでも聞いてみるわ」
「では、私共は失礼いたします」
ここでもやはり、侯爵家夫人として遇する気は全く無いらしい。まあ、奥様として扱われても面倒なだけだから良いんだけどね。
晩餐の時に部屋についてゲリエル侯爵に確認したところ、「お互い隣の部屋では気を遣うであろう?離れていた方が好きに過ごせる。女主人の役目については気にしなくて良い。家令のギャビーと侍女頭のマラルは有能だ。彼らに任せておけばいい」と言う。
「そうは言っても、社交はどうなさるお積りですか?社交が苦手と仰っておられましたが、ゲリエル家として親戚筋との集まりを全く行わないと言う訳にはいきませんでしょ?そこで女主人が采配していないとなると、要らぬ憶測を生んだりするのでは無いですか?侯爵家としての対面と言う物がございますでしょ?」
「・・・君がそのような心配する必要は無い・・・王都では言わなかったが、いい機会だ。はっきりさせておいた方が良いだろう。
私は君と生涯を共にする予定はない。1年だ。1年後、私とは離縁して欲しい」
「は?本気で言っているのですか?これは国同士の婚姻です。私たちの希望で勝手に分かれるなんて許されないと思いますが?」
「我がレチノール国とパミドロル帝国の交流事業は、関税の引き下げ、文化交流、人的交流の三本柱で行われている。我々の婚姻だけで成り立っている訳ではない。
1年もあれば両国の繋がりはそれなりに強化されるだろう。そうなれば私たち1組くらい離縁してもそれ程影響はない筈だ。
状況を見て1年後が難しければ、2年後、3年後になるかも知れないが、いずれにしても離縁はしてもらう。勿論、それ相応の慰謝料は支払わせて頂く。君には申し訳ないが、これは決定事項だ。
前にも言ったが、私には心に決めた相手がいる。例え政略だとしても、心に決めた相手以外と生涯を共にする気はない。妾を持つつもりもない」
ゲリエル侯爵は、取り付く島もなく。言いたいだけ言って、食堂を去って行ってしまった。
(相当な頑固者だなぁ。そんなに大切な相手なら、何でいま結婚してないんだよ。ちゃんと繋ぎとめておけよな!ヘタレか!?
それに、国同士の婚姻を1年やそこらで離縁が許される訳ないだろうがよ )
このようにツェツェアーリの結婚生活は始まった。
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