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本日もよろしくお願いいたします
俺、ツェツェアーリは今、死地に赴く兵士の様な気持ちで歩いている。
純白のドレスに身を包み、
父上にエスコートされながら、
赤い絨毯の上を、
これから夫となる顔も知らない男性の待つ、
祭壇前に向かって。
とうとう合同結婚式が来てしまった。
3組のパミドロル帝国側の花嫁とレチノール国側の花婿との結婚式だ。
結局、夫となるゲリエル侯爵との事前顔合わせはできなかった。あの野郎、王宮の晩餐会をブッチしやがった。結婚式で初顔合わせとか、不安しかねぇわ!
(無理だ!男なんて愛せる気がしねぇ。俺は女しか愛せない!
やっぱ、さっさと家出しとくんだった!
ちょっと危険だけど、冒険者になれば自分の食い扶持を稼ぐ位はできるんだし!)
しかし、後悔してももう遅い。祝福に集まった大勢の客の前で婚前逃亡する訳にもいかない。そもそも、この結婚は国同士の政略であり、最初から俺に拒否権はなかったのだ。
そんな事を考えている間に、俺は祭壇前に辿り着いた。父上の腕に置いていた手を放し、夫となる男の左横に立つ。ずいぶん背の高い男だ。体格も良い。王宮騎士を7年やっていたが、2年ほど前に急逝した御父上の跡を継いで侯爵家に戻ったそうだ。
女性に興味が無いのか、逆に一人に決められないほど浮世を流しているのか。結婚は勿論、婚約さえ結んだことが無いらしい。
俺としては、どちらでも構わないんだが、頼むから俺に興味を示さないでくれ。事務的に夫婦業を熟す同士になれればそれで良い。
粛々と式は進んでいる。今は神官が祝詞を挙げている。最後に、夫婦の誓いの接吻の儀で式が終わる。右を向いて夫となる男を見上げると、夫は俺を見下ろし、ベール越しに額に顔を寄せて、しかし接触することなく離れて行った。
(???)
他の組はベールを上げて、口同士の接吻をしている様だ。
(だよね?額じゃなく、口同士だよね?まぁ、俺も男と接吻なんて鳥肌が立ちそうだったから助かったけど・・・)
▲▽▲▽▲▽
式は滞りなく終了し、両親に別れの挨拶を済ませた俺は夫の後について教会を出た。ふたりの後ろには夫の従者が俺の荷物を持って付いてきてくれる。夫は俺をエスコートするつもりは無い様で、スタスタと階段を下りて行く。
ゲリエル侯爵の姿を認めた侯爵の馬車が、教会の階段下に寄せて来て止まった。
御者が速やかに馬車の扉を開ける。
「どうぞ」と言う御者の言葉に頷くと夫は馬車に乗り込み、さっさと座席に座ってこちらを見ようともしない。
俺がロングスカートをたくしあげて馬車に乗り込むと、後ろで御者が扉を閉じた。従者は御者の隣に乗った様だ。
ふたりを乗せた馬車が走り始めた。新居を目ざして・・・
馬車が走り始めてから、向かい側に座る夫は「まずは王都の屋敷に向かう」と一言述べたきり、腕を組んで目を閉じている。俺とは交流を持つ気は無いと言う事か。
俺も本当は眠かったが、行儀作法の家庭教師に「淑女と言う者は人前で居眠りをするようなものではない」と言い含められていたので、我慢した。
眠気覚ましに、向かいに座る夫を観察してみる。夫は背も高ければ肩幅も広く、筋骨隆々と言った体格だ。顔は厳つい。顔には傷跡は無いが、右手の甲に剣で切られたらしい傷跡が見える。髪色は焦げ茶色。今は固く目を閉じているが、瞳の色は琥珀色だ。
対して、私は赤茶色の髪の毛、瞳の色は翡翠色。背は割と高い方だが、それでも夫よりも頭1つ分低い。鍛錬で付けた筋肉はドレスによって隠されている。着痩せする方だ。
馬車は20分も走らないうちに侯爵家が王都に構える屋敷に到着した。窓の外を見ると、15名程の使用人達が左右向かい合わせに整列している。恐らく出迎えに来てくれたのだろう。
御者は馬車の扉を開けると頭を下げた。
「到着しました、旦那様」
「うむ」
御者の呼びかけに答えて、夫は馬車から降り、私を振り返りもせずに屋敷に向かって歩いて行く。
俺も慌てて馬車から降りて夫の後を追った。
「・・・」
その様子をその場にいた使用人達全員がびっくりした様子で凝視している。
(何なんだ?こいつ!仮にも妻だぞ!人前でだけでも尊重した態度を取れよ!)
「お帰りなさいませ、旦那様。
ご結婚おめでとうございます」
「うん、ただいまグレン。ありがとう」
夫は笑みを浮かべて1人の使用人と挨拶を交わしている。
次に俺が馬車から降りて玄関前に立つ自分に追いついてきたのを見届けると声を掛けて来た。
「彼は王都の屋敷で執事をしてくれているグレンだ」
そしてグレンに視線を向けて言った。
「後の事は任せた。私は執務室で仕事がある。何かあれば知らせる様に」
その言葉に驚いた俺とグレンが同時に夫を見る。
(え!? 結婚式直後にやらなきゃいけない仕事って何だよ?)
思わず声をかける。
「え?あ、あの・・・」
しかし夫はそのまま歩き去ってしまった。
呆気に取られて夫の姿を見送る俺。
(こりゃ、今まで結婚できねぇ訳だわ。女性のエスコートの仕方を誰も奴に教えなかったのかよ!? 俺でもこれが不味い振舞いだってわかるぜ?)
「お待ちいたしておりました、奥様。ご結婚おめでとうございます。
私はグレンと申します。こちらのお屋敷でお仕えさせて頂きます。どうぞよろしくお願い致します」
一足先に立ち直った執事のグレンが声をかけてくれた。
俺もはっとして慌てて挨拶を返した。
「ツェツェアーリよ。こちらこそよろしくお願いするわ」
次に彼は向かい合わせで並んでいる使用人達を紹介してくれた。侍従、侍女、庭師、料理人、御者とグレン合わせて17人だ。侯爵家の屋敷の使用人にしては少ないのではないだろうか?
紹介を受けた使用人の人達が次々と前に進み出てお辞儀をしていく。皆一様に無表情を保っている。歓迎の雰囲気は・・・薄い。
(屋敷の主人があの態度だ。そう言う雰囲気は使用人にも伝染するよなぁ)
暗澹たる気持ちのまま、俺はグレンに連れられて屋敷に入った。
使用人達が私に憐れむような視線を向けている事には気づかずに。
案内された部屋は、屋敷の女主人が入るべき部屋、ではなく客室だった。
俺の嫁入り道具は既に王宮から運び込まれていた。
「申し訳ございません。部屋の準備が間に合わず、今夜はこちらでお過ごしくださいませ」
グレンが申し訳なさそうに言った。
(どこまでも妻として扱う気は無いと・・・なるほどね)
▲▽▲▽▲▽
その夜、俺の部屋を訪れた夫は開口一番こう宣った。
「君に大事な話がある。
私は君と結婚する気は無かった。私には心に決めた相手がいるんだ。
しかし、国際問題だと陛下にごり押しされてね。君との結婚話を勝手に進められた。
全く・・・迷惑な話だよっ」
「迷惑・・・」
「兎に角、私と君は結婚したけれども、この先私が君を愛することはない。当然寝室は別々だ。つまり白い結婚を希望する。
使用人の手前、夜の食事は一緒に取るが、それ以外の食事は別々にする。
基本、君と関わるつもりはない。極端に非常識な行為でなければ妻として屋敷でどう過ごそうと自由だ。社交でも観劇でも庭の改造でも好きにすれば良い。
私は社交界が苦手で、茶会や晩餐会には極力出席しない。
1ヶ月王都で過ごした後、領地の屋敷に移る。そちらでも同じ様にしてくれ」
(つまり、お飾りの妻と言う事か!
妻としての役割は何もないという事。
こんなの・・・こんなの・・・
まさに俺の為の様な結婚じゃないか!!
異議なし!)
「はいっ!!!」
満面の笑顔で返事してやったぜ!
妙に嬉しそうな私に怪訝な顔をしつつも、夫は、いやゲリエル侯爵は自分の言いたい事だけを言い放って、俺の部屋を出て行った。
(閨も共にするつもりはない様子。
天国か?
天国なのか?
天国だな!
子作りの義務もない!
俺にとってこれ以上ない夫だぜ!
ゲリエル侯爵が退室した後、充分時間を置いてから、
「ひゃっほ~い!! 」
俺は雄たけびを上げて、ベッドに飛び込んだ。
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