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【書籍化】捨てられ令嬢は錬金術師になりました。稼いだお金で元敵国の将を購入します。  作者: 束原ミヤコ
ディスティアナ皇国復興365日

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クロエ、飛竜温泉を掘る



 ディスティアナの北方には、火山地帯がある。

 雪山もあれば雪解け水も豊富にあるので、つまり――温泉を掘るのには最適な土地である。

 実際ディスティアナ北方の山の麓にある街には温泉地もあるらしい。とはいえ、皇都ハルモニアに住むような都会の人々は、「温泉なんて田舎臭いですわ!」というような理由で、あまり足を運ばなかったらしい。

 ディスティアナの人々にとって、温泉地帯とは牧歌的な田舎の産物、という印象があるようだ。


「ディスティアナの人たちは温泉の効能を甘くみていますね。この私をご覧のとおり、毎日温泉石を使用したお風呂につかっているおかげで、大したスキンケアをしなくても、お肌はつるつるすべすべになってしまうのですね」


「まぁ、確かにな」


「そこで同意をされると……」


 ジュリアスさんが私の頬を軽くつつきながら頷いてくるので、私は頬を押さえながらぶつぶつ言った。

 浮遊城跡地の穴の前に、私とジャハラさんとジュリアスさんは立っている。

 ヘリオス君とリュメネちゃんも私たちと一緒に居て、一体何が起こるのかと不思議そうに私たちを見ていた。


「クロエさんの言う通り、温泉には多様な成分が含まれていますからね。大地には様々なものが積み重なり溶けています。例えばそれは魔物の魔力の残滓だったり、大昔に失われただろう生き物の――例えば死んだ飛竜の魔力も、その中の一つでしょう。そんな様々なものが溶けた大地から湧き出している温泉に、よい効果があるのは当然だろうと考えます」


「それをディスティアナの方々に伝えて印象を変えてもらえば、きっと飛竜だけではなくて各地から温泉に入っている飛竜が見たいという人々が集まる筈です」


「ええ。もちろん、ラシードの竜騎士団は利用をしに来させてもらおうとは思っていますが、数が多いわけではないですからね。そうすると、一般の方々の利用を増やした方がより儲かるかと」


「それじゃ、ラシード神聖国プエルタ研究院院長兼、ラシード神聖国宮廷魔導士長ジャハラ・ガレナ様太鼓判――という、宣伝文句をつけていこうかと思います」


「え、ええ、いいですよ、僕でよければ……」


 やっぱり有名な方の紹介文があると、より箔がつくというやつよね。


「そしてここは神龍シャガラ様の祝福を受けた地でもあるので、温泉の効能も普通の温泉の数十倍いい、という気がします。多分そんな気がします。ということで、神龍シャガラ様に祝福されし、飛竜温泉ハルモニアですね」


「いいですね。神龍シャガラ様とは、全ての飛竜の生みの親のような存在なのですよね。だとしたら、その名がついた温泉に飛竜たちが入るというのは浪漫がある気がしますね」


「神龍シャガラが奇跡を起こしたというのは確かなのだろうが、土地に祝福が満ちたという根拠はどこからきているんだ?」


 ジュリアスさんが痛いところをついてくるので、私は一本指をぴっとあげて、自信満々に言った。


「こういうのは――思い込んだもの勝ちといいますか、言ったもの勝ちですよ」


「宗教とは得てしてそういうものです」


「ろくでもないな」


「誰も傷つけない思い込みはいい思い込みですよ! 土地に神龍様の恩恵が満ちていると思えば、ちょっとテンションあがるじゃないですか」


「ですね」


「……お前たちは、似ているな。錬金術師だからか」


「錬金術師とは現実的な生き物なんですよ、ジュリアスさん。お金がなければ作り出せばいいじゃない、と思うのが錬金術師です。儲かるためなら神龍様のネームバリューをも利用するわけですね」


「実際神龍シャガラ様が降臨なさったわけですから、嘘はついていません」


 私とジャハラさんに言われて、ジュリアスさんは諦めたように嘆息した。

 ジュリアスさん意外と常識人なのね。そう呆れた顔をされると、なんだか悪いことをしている気がしてくるわね。でも、ジャハラさんの言う通り別に嘘はついていないし、いいんじゃないかなって。

 だってほら、神龍様の名前を出せば、悪いことをして恐ろしいことが起こったディスティアナの印象も、神龍様に赦されたという神聖なものに変わるだろうし。

 何事も、イメージというのは大切だ。

 おどろおどろしい怖い場所よりも、綺麗できらきらした神聖な場所に行きたいと思うのが人間なので。

 まぁ、何にでも例外があるので、おどろおどろしい怖い場所が好きな人もいるとは思うけれど。


「――ディスティアナのためにお前が色々考えてくれていると思えば、なんでも許せる気がするな」


 ジュリアスさんは少し考えたあとで、ぽつりと言った。


「あ、甘い……ジュリアスさんが、私に甘い……」


「ジュリアスさんは以前からクロエさんには甘いじゃないですか」


「そ、そうでしたか……?」


 今更なにを言っているのかという感じで、ジャハラさんに首を傾げられたので、私は口ごもった。


「ジュリアスさんの許可もいただけたところで、私とジャハラさんが造ったこの湯脈探知機と、穴掘りモグラ君、それから地形コーティング剤に世界樹の地下茎パイプで温泉を仕上げていきますよ」


 私は取り出した錬金物を、ちょっと量が多かったので、ジュリアスさんとジャハラさんにそれぞれ持って貰った。

 まずは湯脈探知機を大穴に放り投げる。大きな時計の針のような形のそれが空中をしばらく彷徨い、地面にズボッと突き刺さった。

 突き刺さった場所を掘ると温泉が湧いてくる。とても分かりやすい錬金物である。

 それから穴掘りモグラ君――可愛いモグラに安全第一ヘルメットをかぶってもらっているそれはそれは可愛い形をした錬金物を放り投げる。

 穴掘りモグラ君放り投げられた先で人間の男性ぐらいに大きく育つと、凄い勢いで、両手の鋭い爪で穴を掘って地中深くへと入り込んでいく。

 ややあって――穴掘りモグラ君の掘り起こした暗く深い穴から、ゴオオオッという水の音が響いてくる。


「よし! 温泉が湧きあがってきますよ! やりました!」


 予定通り――とはいっても、実際成功すると嬉しいものだ。

 私は両手を握りしめて、やや興奮気味に声をあげた。

 ジャハラさんもわくわくした様子で穴の奥を高台から見守っている。

 地響きのような水の音と共に、噴水のように穴から温泉がそれはもう激しく噴き出した。

 まるで巨大鯨の潮吹きみたいな湯量である。思いのほか勢いよく空高く噴き出した温泉からお湯のしぶきが私たちにびしゃびしゃとふりかかる。

 一瞬のうちに全身びしょ濡れになる私たち。

 大喜びして翼をばさばさ羽ばたかせているヘリオス君とリュメネちゃん。

 あぁ、空に虹ができている。綺麗。


「クロエ様! 何事ですか!? 地鳴りと共に、街の一画から水が噴き出していると報告が……!」


 慌てたように走ってくるユーリスさんの声がする。

 吹き出したお湯が、土が切り取られただけの大きな穴を満たしてしまう前に、私は急いでジュリアスさんから受け取った世界樹の地下茎パイプを温泉が噴き出している場所に放り投げた。

 世界樹の地下茎パイプは穴の中に入り込んで、ぐいぐいと根をのばしていく。

 それから、地形コーティング剤で、土がむき出しだったただの穴を、つるりとした石づくりの巨大な湯舟へと変えた。

 地下茎パイプから、温泉を養分として世界樹が天高く伸びていく。

 大きな木の太い幹に、青々とした葉。そして、太い幹がぱっくりと口を開いて、そこから温泉のお湯がじゃばじゃばと流れていく。

 なんということでしょう。

 あっという間に、大きな木の下の風情のある巨大温泉ができあがってしまった。

 世界樹の地下茎パイプで、お湯があふれすぎないように、古いお湯を地下茎パイプを通して海に流せるようにしているので、お湯が湯船から溢れて街に流れ込む心配もない。

 完璧だ。


「ユーリスさん、温泉ができました」


「温泉ですか……! あぁ、すごい。すごいですね、クロエ様。ハルモニアには海と、空の城と、巨大な温泉が……もう元の街の原型はほぼありませんが、これはこれでとてもいいと思います……!」


 慌てて駆け寄ってくるユーリスさんに、私は報告した。

 ユーリスさんは何でも褒めてくれるのだけれど、今回は流石に少し戸惑っているようだった。でも、褒めてくれた。対応が大人だ。

 豊富な湯量を誇る飛竜温泉。すでに半分ぐらい、巨大な湯舟にお湯がたまっている。

 ヘリオス君とリュメネちゃんが、じゃばんとそこに飛び込んで、ばしゃばしゃと足でお湯のしぶきをあげたりして、じゃれつきながら遊んでいる。

 ジュリアスさんはその光景を見ながら、腕を組んで満足気に目を細めた。

 嬉しそうだわ。よかった。


お読みくださりありがとうございました!

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