浮遊都市セウハルディン
空に城がふわふわ浮いている。
ハルモニアの中心に浮かせようと思っていたのだけれど、浮遊城の下の土地はもれなく影になってしまうので、日照権の侵害になってしまうわねということで、海の上に移動してもらった。
無暗にただ浮かせただけでなく、ちゃんと操縦幹も作ってあって、スピードはゆっくりだけれど動かすこともできるのである。
変形はしないけれど、空を飛んで動く城というだけで十分格好いいのではないかと思う。
竜の広場から瞬間転移装置でつなげようと思ったのだけれど、それだと折角空にのぼる感じが満喫できないなと考え直した私。
瞬間転移装置と一緒に、結局空中階段を繋げることにした。
ジュリアスさんがルシファーになった時、空の上の玉座と地上を繋げていたあれである。
あの、透明な階段みたいなやつ。
メレクの変形させたお城は正直センスがないなって思っていた私。
色々あったけれど、メフィストの変形させたお城は結構造形美に溢れていて、メレクのお城は駄目だった。
美意識の高さの順ではやっぱり綺麗なものが好きそうだったルシファーが一番上だと思う。
あんまり思い出したくないような気もするけれど、ともかくあの階段はよかった。
空に続く氷の階段みたいで、綺麗だった。
参考にできるものは参考にするのが、錬金術師というものである。パクリとは言わせない。参考にしているのだ。あくまでも。
空に続く階段がむき出しだと、安全性にかけるのと怖いかなと思って、透明なドームで覆った。
そして、人がすれ違えるように大きめに作っている。
これは竜の広場にある転移装置の隣に造ったので、移動には転移装置を使ってもいいし、階段を使ってもいい。
そのうちハルモニアに飛竜が増えたら、飛竜で移動してもいい。
「移動は無料にして、空のお城でお金をたくさん使ってもらえるように、高級宿泊施設とか、お土産屋さんとか、お見せ屋さんとか。様々な商業施設を誘致するといいですね」
「……クロエさん、城は皇帝陛下と皇妃様の住居ではないのですか? 観光施設のようにしてしまっていいのでしょうか」
「大丈夫です、ジャハラさん。敷地面積がかなり広いので、お城を小さめにして、観光施設を多めにすればいいかなって……そもそもジュリアスさん、お城にずっといるタイプじゃないですし」
「それはお前だろう」
浮遊城につなげた透明な階段を、ジャハラさんと私とジュリアスさんは並んで降りている。
三人並んでも窮屈感のない階段は、階段もドーム状の壁も透き通っているので、まるで空に浮かんでいるみたいだ。
眼下には海が広がっていて、階段の先には街の姿がある。
ヘリオス君に乗り慣れている私は高い場所は結構大丈夫なのだけれど、高所恐怖症の人は駄目かもしれない。
瞬間転移装置も透明な階段もジャハラさんと相談して造ったので、階段の使い心地を確かめているところである。
広さも幅も、傾斜も、今のところ問題がなさそう。
足が悪い方や高所恐怖症の方には瞬間転移装置を使ってもらうということで、様々な人々への配慮も抜かりない。
「飛竜がいれば、どこにでもいけますからね。ずっと城にいる必要も、確かにない、か。いつも城にいない皇帝夫婦。お二人らしいです」
ジャハラさんが口元に手を当てて、楽しそうに笑った。
「浮遊城は、城というよりは観光地なのですね。ラシードもそれぐらい柔軟であれば、プエルタ研究院が資金繰りに苦労することもないのでしょうけれどね」
「ジャハラさんももっと商売に本腰をいれたらいいんじゃないかなって」
「そうですね……確かに。ディスティアナ皇国との諍いが落ち着いた今、時代は戦争ではなく、商売なのかもしれません」
「商売は大事です」
私は大きく頷いた。
どこか浮世離れした風情のあるジャハラさんだけれど、空中階段を作っている時も瞬間転移装置を作っている時もとっても楽しそうだった。
浮遊城――名付けて浮遊都市セウハルディンに、水源として多量の水が湧き出る錬金物である水封石を設置しているときもすごく楽しそうだったし。
流れる水をろ過するためのろ過装置を作っている時も楽しそうだったし。
ジャハラさんは、もしかしたら研究者よりも錬金術師のほうが向いているのかもしれない。
錬金術師とは基本的に商売が好きな生き物である。
便利な錬金物を造って売って生計を立てているので、商売が嫌いな者は錬金術師になったりはしない。
ナタリアさんは例外だけれど。
だって、便利なものを造ったら、皆に役立てて欲しいって思うし。
可愛い錬金ランプとか、皆に見て欲しいって思うし。沢山売れたら嬉しいのだ。
そしてお金が沢山あると嬉しい。
私はお金よりも大切なものがあるということを理解しているけれど、でも、お金も好き。
お金も好き……!
お金が沢山あるのを見ていると無性にわくわくするのだ。仕方ない。
お金が嫌いな人なんていないと思う。多分。
「それにしても、あのぽっかり空いた窪み。気になりますね」
「気になりますか」
「ええ。とても」
「そうですよね……」
ジャハラさんに言われて、私は口ごもった。
空中階段から眼下に見える浮遊城跡地。
長方形に綺麗に切り取られた穴みたいになっていて、落ちると危ないから、今は柵が厳重に張り巡らされている。
空中都市セウハルディンの土地が大きいものだから、切り取られた土地も当然ながら大きい。
火山の火口みたいになっているわね。どうしよう。
「温泉というのは、地面を掘るんだろう? あの大きさなら、ヘリオスも十分入ることができる」
ぽつりと、ジュリアスさんが言った。
私とジャハラさんは顔を見合わせる。「それです!」と、声が重なった。
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