風雲ハルモニア城
城を浮かせる準備はばっちり整った。
といっても、浮かせることができても実際にお城を建築できるわけじゃないので、そこはハルモニアの建築職人の方々にお任せしている。
建築職人の方々はある程度ハルモニアの居住地区が整うと、既にお城の築城を開始してくれていた。
旧ディスティアナ皇城跡地には、瓦礫食べ蟲たちが吐き出した大量の生きている煉瓦で造りあげられた、それはそれは美しい白い宮殿のようなお城が既に建っている。
立派なお城ができてもクラフト邸で過ごしていたのは、お城で暮らしたことがないから慣れない――ということも理由の一つにあったし、まだ浮いていないし……ということもあったからだ。
「変形する城が、空に浮かぶ城になったわけね」
魔法の箒にいつものように乗りながら、ナタリアさんが言う。
このところ毎日お酒を飲みながらだらだらしているナタリアさんだけれど、だらだらしているのに完璧な美人だ。不思議。
「変形も考えたんですけど、有事の際に変形するよりは常に空に浮いていて、何かあった時の皆の避難場所になったりとか、観光地の一つになった方がいいかなって思って」
「空に浮く島など見たこともないから、すごくいいのではないかと思います」
ユーリスさんが熱心に言ってくれる。ユーリスさんは何でも褒めてくれるので、錬金物の発表のし甲斐があるわね。
「クロエ姉様、すごいですね。ラシード神聖国の方々とご友人なのですね」
「友人……といって良いでしょうか。お二人とも偉い方なので、ちょっと失礼な気がしますね」
「今はもうクロエさんの方が身分という意味では高いだろう。皇妃なのだから」
「そうですよ、クロエさん。友人といってくれると、僕たちは嬉しいです」
アズール君に言われて悩む私に、ラムダさんとジャハラさんが声をかけてくれる。
私たちは建築されたお城の前に来ていた。
海を造った時と同じように、私が城を浮かせるという噂が人々に伝わったらしく、海を造った時よりも倍ぐらいの人々が集まって私たちを見守っている。
この数か月で、それだけハルモニアには人が増えたということよね。
民家もお店も沢山増えたし、今ではすっかり大きな街、という感じだ。
街が復興していなければ城を浮かせている場合じゃないので、今はそれだけ余裕ができてきた、ということでもある。
「じゃ、じゃあ、お友達のジャハラさんに手伝って貰って、お城を浮かせる準備ができました。恒久の守護膜は既にお城の奥に安置してきてまして、永久無限の浮遊石も同様に、設置してきています。誰かが触るとよくないので、保管室には二重三重の守護を施してあるのでご安心を」
「この規模のものが浮くのか。確かに、無駄、だな」
「無駄こそ美学なのです。お城が皇都の上を浮いていたら面白いじゃないですか。ヘリオス君で地上とお城を行ったり来たりするんですよ、楽しそうじゃないですか?」
「あぁ、そうだな」
両腕を組んでジュリアスさんが的確なところをついてくるので、私は一生懸命空に浮くお城のよさを説明した。
ジュリアスさんは愉快そうに目を細めると、頷いてくれた。
ヘリオス君が絡むと大抵のことを肯定してくれるので、ジュリアスさんの説得は結構簡単だと最近気づいた私。飛竜愛好家は単純。理解してしまったわね。
「それでは、飛竜を持たない者はどうするんだ、クロエ」
ヴァイラスさんに尋ねられて、私は胸を張った。
「そこはご安心を! 私に抜かりはありません。浮遊城と地上をつなぐ、瞬間移動転送装置も作っておきました。竜の広場の祭壇の上と、お城の正面入り口を繋げるつもりです。といっても、誰でも簡単に行き来できるのも結構問題なので、瞬間移動転送装置を使用するためには皇帝家の承認が必要、という感じにしてみました」
「皇帝家の承認?」
「はい。ヴァイラスさん、騎士団を指揮していますから。警備はヴァイラスさんかなと思って、行き来するためにはヴァイラスさんの承認を貰うことにしたんです。簡単ですよ。承認を授けるときは、認証印を手の甲にぺたんっと押すんですね。またあとで説明します」
ヴァイラスさんは困ったように眉を寄せて「そんな大切な役割を俺に……」と、小さな声で呟いた。
色々説明したけれど、ジュリアスさんはめんどくさいと嫌がりそうだし、アズール君には大変だろうしで、消去法でヴァイラスさんを選んだのよね。内緒だけど。
「それじゃあ、さくさくっと浮かせますよ! 皆さん、ちょっと地面が揺れるかもしれません、気を付けてくださいね!」
私が大きな声で言うと、集まった人々から波のようにざわめきが起こって、やがて静まった。
すっと息を吸い込んで、錬金物を発動するための言葉を口にする。
「恒久の守護膜、城と大地を守護せよ! 自由な大空に浮かべ、浮遊石!」
途端に、ぐらぐらと大地が揺れる。
目の前の地面にぴしぴしと亀裂が走り、地面が綺麗な長方形に抜き取られた。
ふわりと、それはそれは大きな質量のお城と地面が空に浮かび上がっていく。まるですっぱり剣で切ったかのように、地面に抜き取られたままの長方形の形に、ぽっかりと穴が開いた。
まぁ、そうよね。あくわね、穴。
地面を抜き取って空に飛ばしたら、土地に大きな穴があくのよね。それはそう。
どうしよう、この穴。
「……すごい、城が飛んだ!」
誰かがそう口にした。
大きなざわめきと歓声が起こる。
皇都に巨大な穴をあけてしまったという私の動揺をよそに、人々は歓声をあげて喜んでくれている。
私は愛想笑いを浮かべた。
趣味で城を飛ばして、地面に無駄な穴をあけてしまったことを、誤魔化すために。
「……クロエ」
「何ですか、ジュリアスさん」
「この、残りの土地は?」
「気づかれた……」
「そりゃ気付くわよ」
ジュリアスさんとナタリアさんに、小さな声で言われる。
跡地の穴の使い道、募集中です。
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