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【書籍化】捨てられ令嬢は錬金術師になりました。稼いだお金で元敵国の将を購入します。  作者: 束原ミヤコ
ディスティアナ皇国復興365日

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空飛ぶ城といえばやっぱりあれ



 恒久の守護膜のおかげで、一番どうしようかと悩ましかったお城が浮遊した場合における土地と建物の強度についての不安がクリアできた。

 ジャハラさんの言う通り気になってはいたところだったのよね。

 お城を空に浮かせるのはいいけれど、本来なら地上に建っている質量の大きなものを空に浮かせるのだから、当然地上に建っている時よりも不安定になるもの。

 

 いつ墜落するか不安なものを造ることはできない。だったら浮かせない方がいい。

 この辺りをどうするかをずっと考えていて、ナタリアさんにも相談したけれど、『海の魂』を作るときは相談に乗ってくれたナタリアさんは、浮遊城については「急ぐものじゃないし、よく考えなさいな。私は口を出さないわよ」と言っていた。

 だから、もしかしたら浮遊城を造るのは、ナタリアさんの弟子としての私の試験的な何かなのかしらと思っていた。

 

 まぁでも、ナタリアさんはそんなに教育熱心な方ではないし、単純に面倒だったのかもしれないし。

 八割がた復興が終わったハルモニアでは、ナタリアさん待望の果実酒も完成して売りに出されるようになってしまった。

 つまりナタリアさんは今まで頑張った分といって、昼間からお酒を飲む自堕落な生活に戻りつつある。


「千年分働いたから、二千年は休んでいいでしょ、クロエ。早く私のためのお城と、温泉街を作ってちょうだい。遊園地はそんなに興味はないわね」


 と言っていた。今日もクラフト邸の居心地のいい中庭で侍女の方々にお世話をされながらお酒を飲んでいると思う。ナタリアさんらしいといえばらしいから別にいいけれど。


「ジャハラさんのおかげで、お城の強度は完璧になりましたので、あとは浮かせるだけですね」


「恒久の守護膜、万が一破壊されたり持ち去られたりしたら大変なことになりますからね。せっかく素材がありますし、あと二、三個作っておきましょうか。あぁ、嬉しいですね。こんなに希少な素材を、さくさく使用することが許されるなんて。嬉しいな」


「えっ」


「駄目でしたか?」


「い、いえ、大丈夫、大丈夫です……」


 首を傾げるジャハラさんに、私は両手をわたわた振りながら返事をした。

 趣味で空に浮かべるお城に、伝説級の高級素材をいくつも使用するなんてどうなのって正直思ったのだけれど、私がここで素材を使いたくないってジャハラさんを止めたせいで、お城が空から落ちたら大変よね。

 お金よりも安全、安全の方が大切。

 ジャハラさんが本当に嬉しそうにぽんぽん錬金窯に素材を入れていくのを見ながら、私はぎりぎりする心臓を押さえた。

 ちょっと動機と息切れがするわね。

 五百億ゴールドがいとも簡単に、錬金窯の中で溶かされていく幻を見た気がした。


「ふふ……実をいえば、クロエさんの目には豪勢に研究を行っている施設に見えたかもしれませんけれど、プエルタ研究院は結構資金繰りに苦労していましてね。一度、排斥されてしまったこともあるのですけれど、それ以前から研究者というのは金銭感覚が乏しい者が多くて」


「そうなんですね……」


 錬金窯に魔力を注ぎながら、ジャハラさんが話をしてくれるので、私は相槌を打った。

 それは何となく分かる気がする。ナタリアさんも今までどうやって生きてきたのかしらっていうぐらいに、お金に興味がないのだ。

 おかげでクロエ錬金術店を開いたとき、私はかなり苦労した。

 ナタリアさんの未払いだったせいで膨れ上がった税金の支払いをするのが、本当に大変だったのだ。お役人の方々は怖かったし。


「ええ。父が亡くなり、プエルタ研究院の院長を継いだ時、杜撰な帳簿やら勝手に高級な研究道具や錬成素材を買う研究者たちに苦労して、それから逃げ込んできたラムダさんたち竜騎士の方々や飛竜たちを養うのも結構大変でした。僕の代になってから、希少な素材を購入することを制限していますし、もともと院に保管されていた貴重な素材や錬金物に手を出さないように、保管を厳重にしたりしていまして」


「大変ですね、ジャハラさん。私にもその気持ち、少し分かる気がします」


 つまり、ジャハラさんはナタリアさんみたいな研究者の方々を何人も抱えてまとめ上げてきたわけだ。

 それは若いのにしっかりするわよね。私は私一人、ジュリアスさんと一緒に暮らすようになってからはジュリアスさんと私の二人の面倒を見ていればよかったのだもの。

 ジュリアスさんは飛竜が欲しいとは言ったけれど、ご飯に文句は言わないし、住む場所にも寝る所にも文句は言わなかったし。

 豆のスープばかり出しても文句を言わず、私の可愛いベッドで寝ることにも文句を言わなかったジュリアスさん、偉いような気がしてきたわね。


「分かってくれますか、クロエさん。資金繰りのために、利益を考えながら錬金物を造り売って、収支の計算をしなければいけないのがプエルタ研究院の現状でして。ファイサル様にも、プエルタ研究院は国にとって大切な機関だが、国費を湯水のように使わせるわけにはいかないと言われてしまっていて」


「ファイサル様、しっかりしています」


「しっかりしているんです、ファイサル様。聖王宮では長らくシェシフ様が宝石を買いあさったり美女を侍らせたりそれこそ湯水のように金を使っていましたから、余計にだとは思いますけれど」


「あぁ……」


 私は眉を寄せた。シェシフ様の暗黒時代ね。そうなってしまったのにも理由はあったけれど、お金を自分のために使い込んでいたのはよくない。


「だから、こうして好きなように好きな素材を使用して錬成するのはいつぶりでしょうか。楽しい」


「よかったですね、ジャハラさん」


「はい!」


 ジャハラさんがそれはもうにこにこしている。

 その笑顔を見ていたら、五百億ゴールドの素材が三回分で、合わせて一千五百億ゴールドになるのね――なんて思うのは、くだらない気がしてきたわね。

 いまのは嘘。くだらなくない。

 でも、どのみちナタリアさんに貰ったものだし。そんな値段で希少な素材を買う人なんてほぼいないだろうし、変形するお城についての皆からの期待が私の肩にのしかかっているのだもの。

 お金に固執してはいけないと、自分に言い聞かせた。


「話をしている間にできました。恒久の守護膜、二個。先程造ったものと合わせて三個ですね。これだけあれば、空飛ぶ城はむこう数百年は空を飛び続けるでしょう。破損することはまずないでしょうから、盗難予防ですね。一つ盗まれても、スペアが二つあるので安心です」


「ありがとうございます、ジャハラさん」


「無事か、クロエ。声が震えているが。金額を聞いて、お前が倒れるんじゃないかと思っていたんだが、倒れないな」


「大丈夫です、ジュリアスさん……」


 ジュリアスさんが心配してくれている。優しい。

 飛竜一頭五千万ゴールドでぎゃいぎゃい言っていた私のことを覚えているのだろう。

 五千万ゴールドで大騒ぎする私は、五百億ゴールドでは倒れるんじゃないかと思われていたのね。

 大丈夫、踏みとどまった。


「数々の戦いを経て、私は生まれ変わったのですよ。お金よりも大切なものがあるって、気付いたのです」


「それは素晴らしいな、クロエさん。愛だな」


「愛ですね?」


「愛か」


「愛です。愛。新しい錬金物をつくりたいという、錬金物に対する愛情もその中の一つですね」


 ラムダさんとジャハラさんとジュリアスさんが、口をそろえて愛かと聞いてくるので、私は頷いた。


「クロエさん、そこはジュリアス殿に対する愛情だと言うところだ」


「そうですよ、クロエさん。今、僕は、とても期待していました」


「どうして錬成部屋でラムダさんとジャハラさんもいるのに、ジュリアスさんへの愛情を宣言しなきゃいけないんですか」


「お前は俺を愛しているだろう」


 お酒を飲みながら、ジュリアスさんがさらっと言ってくるので、私はジュリアスさんを軽く睨んだ。


「空飛ぶお城を作ってるんですから、ラムダさんとジュリアスさんは静かにお酒を飲んでてください。それは、その、もちろん、好きですけども……! 今はそんな話をしていません……!」


「俺も愛している」


「ひぇ……っ」


 ジュリアスさんが新たな私の揶揄い方を学習している。やめていただきたい。

 私は聞かなかったことにして、錬成用の素材を棚から取り出してきた。

 ジャハラさんには恒久の守護膜を作ってもらったので、今度は私の番よね。


「さ、さぁ、次は実際にお城を浮かせるための錬成に取り掛かります。お城と土地自体には、守護膜での保護がありますから、この保護された全体を浮かせる動力源を造る必要がありますね。これは、発想としてはそんなに難しくありません」


「やっぱりあれですか、クロエさん」


「分かりますか、ジャハラさん。あれです。やっぱり、浮かせるといえばあれです」


 私の両手に抱えた素材を見て、ジャハラさんはすぐに理解してくれたらしい。


「空の結晶に、魔力増幅回路、風の守護神の両翼、妖精の粉、遊走するゾルゲハルの浮遊核、これを混ぜ合わせて――」


 私は錬成素材を錬金窯に入れていく。

 私の使用しているのも、ジャハラさんが使用したのと同じぐらいの希少な素材である。

 そして私にもジャハラさんの気持ちがよく分かる。

 希少な素材を豪勢に、何の躊躇もなく錬金窯に突っ込んでいくのはとっても楽しい。

 すごく心が弾んでしまう。


「できました! 永遠無限の浮遊石です!」


 錬金窯が虹色に輝き、中から錬成された錬金物が現れる。

 それは私が両手で抱えてやっと持てるほどの、巨大な青い宝石の形をしている。

 城を浮かせる単純な動力源として『浮遊』の力を持った、錬金物である。

 物を浮かせるという性質を持たせた石だ。ジャハラさんが造ってくれたものよりも、簡単で単純で、それ故に効果を高くするためぎりぎりまで素材の力を引き出した。

 お城一つぐらいは、簡単に浮かせることができる。

 物を浮かせる動力源として、浮遊石は錬金術師の中では結構一般的だったりする。

 ナタリアさんの魔法の箒なんかも、これの亜種だろうと思う。箒の形にして空を飛ぶのはかなり難しいので、私には作れないのだけれど。

 大きなものを浮かせるほうが大雑把にできるのだ。

 ただ、大きなものを浮かせるほどに強度が弱くなるので、浮遊石を実際に使用してなにかをするということはあまりない。

 だから今回は特別である。

 ジャハラさんのおかげで浮かせるに特化した、巨大な浮遊石を造ることができたので、私は大変満足した。



お読みくださりありがとうございました!

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