89. 殺生石3
転移魔法陣での転移は一瞬で特に不快感などはなかった。これなら、葉隠の里への行き来に不満が出ることはなさそうだ。下界側の転移先は洞窟の広間にポツンと設置されていた。ここも整備する必要があるな。もっとワクワクする世界への入り口感を出したいところだ。
「師匠、ちょっとこの場所を作り変えたいんだがいいかな?」
「葉隠の里のために必要なことなのじゃろ。もちろん良いのじゃ」
俺は、体をめぐる魔素の巡回をさらに高める。そして、イメージを作り上げる。入場門に料金所、休憩所、そして、入り口に鳥井を建てる。イメージが出来上がったところで、印を結ぶ。
「葉隠流忍術 土遁」
土や岩がイメージに合わせて動いていく。グニグニウネウネと土で形が作られ、表面を岩が覆っていく。鳥井は石づくりにした。ついでに、入り口へつながる道を整備して、周囲に建物が建てれるだけの空き地を作っておく。
「ほう、よくぞここまで土魔術を使えるものだな」
「妾が鍛えたのじゃ。このくらいできて当然じゃ」
後は、ドアと周りの建物を周りの木を使って作る。
「それなら私も手伝うわ」
「OK、じゃあいくぞ」
「葉隠流忍術 風遁」
「葉隠流忍術 木遁」
ギアナが風遁で周りの木を切り、俺が木遁で建物を組み上げていく。イメージは葉隠の里にある建物だ。1分とかからず家ができる。とはいえ、人が住めるようなものではなく休憩所と言った方が近い。
「ふう。まずはこれくらいでいいかな。葉隠の里に人が集まるようになると、ここに宿場町ができると思う」
「ふむ、確かにアキラのいう通りだ。我が見てきた村もそのようにできておった」
「では、ここに葉隠の里の誰かを常駐させるか、交代で来させるかじゃな。そこら辺はドルフの采配で良いじゃろ」
今まで、神の頂の中の整備を進めてきたが、こちら側の整備が全くできていなかったことに気づいた。ドルフさんに伝えておこう。
「休憩所ができたところで、ちょうどお昼だしここで休んで行かないか?」
「賛成〜」
「アキラよ。今日の昼ごはんは何じゃ?」
師匠がよだれを垂らしながら聞いてきた。平静を保ってる桔梗も若干そわそわしているように見える。あなたたち食べなくても問題ないでしょうに・・・
「そういう問題ではないのじゃ。うまいものはうまいのじゃから仕方ないのじゃ」
俺、そんなに顔に出るのかな?最近、やたら師匠に心を読まれる気がする。
気を取り直して、本日の昼食はビッグボアのステーキだ。昨日、ロストフォレストで米麹にビッグボアのロース肉を漬け込んでソラちゃんの神空間に格納しておいたのだ。竈に炭を入れ、火遁で火をつける。炎が消えて十分に網が熱せられたら、ビッグボアのロース肉を置いていく。ジュゥという音と共に美味しそうな匂いが広がる。そこに岩塩と胡椒を砕いて振りかける。身体強化をした体ならつまんで粉々に砕けるのでいつでもフレッシュな香りが楽しめる。
肉汁が炭火に落ちてジュウジュウと音をたて始めたところで裏面にする。表面がカリッと焼けているのが非常に美味しそうだ。この面にも岩塩と胡椒を砕いて振りかける。師匠と桔梗の涎が・・・。獣の姿なら違和感はないんだけど、見た目が美女の2人が涎を垂らしているのはいかがなものか・・・。
「師匠、桔梗、涎が垂れてるよ。せっかくの美人が台無しだよ」
「アキラよ。しかしここまでうまそうな匂いでは仕方ないのじゃ」
「そ、そうだぞ。我もそう思う」
「涎が出るのは仕方ないから、せめて垂らさないで・・・」
渋々と頷いた2人を横目に最後の仕上げ。葉隠の里の柔らかいパンを半分にカットして表面を炙る。そこに チカト産のゴーダチーズをとろけるまで炙ったものを乗せて、表面がカリカリのビッグボアのステーキを乗せてレタスとトマトのスライスをのせ、最後にパンで挟む。
「よし完成だ」
BLTサンド(ビッグボア・レタス・トマトサンド)with チーズが出来上がった。それぞれの前にお皿を置いて配る。もちろんソラちゃんの分もある。
「「「「いただきまーす」」」」
「どうぞ」
それぞれが齧り付く。
「ふほぉ。うまいのじゃ。表面はカリッとしておるが中はとろけるほど柔らかいのじゃ」
「ああ、溢れてくる肉汁とチーズの相性が最高だ。トマトの酸味が後味をすっきりさせてくれる」
「ほいひいでふ・・・もぐもぐ」
ギアナ、無理して喋らなくていいから。
「ソラしあわせぇ」
ええ子や。ソラちゃんがぴょんぴょん跳ねて喜んでいるのを見ると本当に癒される。それじゃあ俺も食べようかな。一口食べると肉が溶けた。元のビッグボアの肉質もあるが、米麹につけておいたことで一層柔らかくなっている。表面のカリカリの部分と岩塩の旨み、胡椒の香りが鼻からぬけその後をチーズが追いかけてくる。桔梗のいう通りトマトが口の中をさっぱりさせてくれる。レタスのシャキシャキ感もいい。
「うまっ!」
まじで炭火最高だ。炭火で焼いただけで肉のポテンシャルを最大限に引き出せている。森に囲まれているので空気も美味しい。ふと目の前を見ると一匹の子犬が涎を垂らしてこちらを見ていた。
「師匠、あの子犬こっちを見てるよね」
「そうじゃな。もぐもぐ」
「ほう、フェンリルの子とは珍しいものが現れたな」
「えっ、フェンリル!?」
「そのくらいの魔物でなけれが、我らの側に現れたりせぬ。それから、フェンリルは、生まれてすぐ親から離れて行動するのだ。見ればだいぶ痩せておる。狩が下手なのだろうな」
桔梗は色々と知っていて助かる。俺は残っていたステーキをフェンリルの子供の前に投げてみた。するとすごい勢いで食べ始めた。
「ウォン」
鳴き声はやっぱり犬と同じなんだな。変なところに関心してたらもう一回鳴いた。
「おかわりよこせってことかな?」
「ウォン」
そうらしい。最後の一枚を投げてやる。若干師匠が羨ましそうな目で見ている。ガツガツと食べ終わったところで、フェンリルが近づいてきて、頭を擦りつけてきた。
「懐かれたようだな」
「懐かれましたね」
「懐かれたのじゃ」
いや、そんなに簡単になついていいの?フェンリルといえば魔狼系の最上位。子供とはいえ普通ならプライドが高くて云々っていう展開じゃない?あれ、お腹を見せてゴロゴロしている。そっとお腹を撫でてみると、めっちゃ気持ちよさそうにしている。
わしゃわしゃ。「きゃんきゃん」わしゃわしゃ。「クゥーン」わしゃわしゃ。
はっ!あまりの可愛さに夢中になってしまった。
「これは決まりじゃな」
「ああ、勝敗は決したようだな」
「そうですね。あんなに鼻の下を伸ばしてたら誰でもわかります」
「じゃあ、この子を飼うってことで・・・」
「ちゃんと面倒を見るんじゃぞ」
さっきまで涎を垂らしていた師匠が、ここぞとばかりに師匠ぽいことを言う。
「じゃあ、お前の名前はシロだ」
「キャン」
こうしてシロが仲間に加わった。




