90. 殺生石 4
フェンリルの子供シロを仲間に加えて、俺たちは本来の目的である殺生石を探すことにした。殺生石と思わしき道標の石はここから2、3km行ったところにある。そこまでゆっくりと歩いていく。すぐに気づいたことだが、人が2人並んで歩くのがギリギリの道だ。つまり、葉隠の里へ行くためには、徒歩しかないと言うことだ。
まずい、それはまずい。せめて馬車が通れる道が必要だ。今後の交易も含めて物流という意味でもこれは喫緊の課題だ。
「師匠、これはまずい。道幅が狭くて馬車が通れない。観光客も交易商もこれでは葉隠の里へ行けないぞ」
「何じゃそんなことか。黒いの力を貸すのじゃ」
「仕方ないな」
桔梗がブラックドラゴンへと変わっていき、大きく息を吸い込む。
「待った待った。ドラゴンブレスはまずい。この先にはトリプレットデザートがあるんだ。それに、道沿いにある殺生石も壊れるかもしれない」
「それでは、この翼で森を切り拓こう」
バサっと羽を開き低空飛行する桔梗。羽には風の魔力が纏われており、木が豆腐の如く伐採されていく。すぐに見えなくなったと思ったら5分後空を飛んで帰ってきた。
「それでは、次は妾が受け持とう」
そういうと、九尾の姿に変わっていく。
「土よ、妾の求めに応えよ」
切り株が土から吐き出され、道が平く固められていく。その上に石材が敷き詰められていく。全ての作業が終わった後、師匠と桔梗が人の姿に戻る。
「ふっ。我らにかかればこのような些事一瞬で終わる」
「そうじゃぞ」
なぜか師匠と桔梗がシロを見てドヤ顔をしている。シロが尻尾を丸めてぷるぷると震えている。これは、最初に上下関係をしっかりと刻みこもうというあれか!2人とも元の姿にならなくてもこのくらいできる。わざわざ元の姿でこれをやったというのは、子供のシロにもわかりやすく教えたのだろう。
「2人とも大人気ないぞ」
「こういうものは初めにしっかりと教えておかねばならぬのじゃ」
「ふむ、そいういうことだ」
シロを抱き上げてなでてあげる。
「な!」
「なに!」
「アキラぁ。ソラも、ソラも」
「はいはい、ソラちゃんもよしよし」
師匠と桔梗がぶーたれているのが解せない。それを見たギアナが苦笑いしている。
(アキラくんって神獣様に好かれる体質なの?)
(そうかもしれない)
シロへの対抗心が原因とはいえ、トリプレットデザートに通じる道と葉隠の里までの石畳の馬車道があっという間に完成してしまった。恐るべし神獣コンビ。
「師匠、桔梗もありがとう。こんなに簡単に道ができるなんて、さすが神獣だね」
「わ、妾にかかればこのくらいは朝飯前なのじゃ」
「我もこの程度造作もない」
「それでもすごいよ。これで葉隠の里に人を呼び込める」
「それなら、妾たちを労っても良いのじゃぞ?」
「別に、そのシロのように撫でてほしいなんてことは、な、ないんだからね」
え、そういうこと?シロをわしゃわしゃするのと、師匠と桔梗をなでなでするのは、ちょっとレベルが違うというか、絵面的な威力も・・・ぶっちゃけ恥ずかしい。そんなキラキラした目で見られても・・・。
根負けした俺は、師匠の頭をそっと撫でる。尻尾がぶんぶん振られている。
(撫でられるというのは心地よいものなのじゃな。初めての経験じゃ)
そっと桔梗を見ると、こっちはこっちで待て状態の犬のような目で見てくる。俺は桔梗の頭もそっと撫でる。こちらも尻尾がぴーんと立っている。
(我が誰かに撫でられる日が来るとは、これはなかなか良いな)
撫でている俺の方が恥ずかしいってどんな罰ゲームだよ。しかし、師匠と桔梗の機嫌が悪くなるのは困るので仕方ない。何とか場が納まったことで、ようやく殺生石を探しに行ける。
「じゃあ、殺生石を探しに行こう」
「任せるのじゃ」(楓:九尾の狐)
「うむ」(桔梗:ブラックドラゴン)
「キャン」(シロ:フェンリル)
「いくよぉ」(ソラ:魔改造スライム3号)
「・・・・・」(私だけなんか違う気がする)
ギアナが1人だけ何か悩んでる?
肩をポンと叩いて「行こう」と言うと「まぁいいか」と言って1人で納得していた。
自転車を取り出して移動する。シロは自分で走ってついてくる。とても楽しそうだ。3時間ほど走ったところで、前回キャンプした場所と思わしき場所についた。なぜ断言できないかというと、桔梗と師匠によって道が整備された結果だ。スペース的にここだと思う。奥の方にあるあの石が今では道標となっている殺生石候補だ。
「師匠、これが殺生石候補だけど、何か感じる?」
殺生石は、師匠の魔素を吸収して封じるために作られたと言うことなので、師匠なら何か感じるかと思って聞いてみた。
「ふむ、わずかばかり魔素を吸われている感じはするのじゃ」
「じゃあ、ソラちゃんに解析鑑定してもらおう」
「わかったよぉ。えい。ちょっと変わった石だって」
「そっか!ありがとうソラちゃん。普通の石じゃないんだね。助かったよ」
「わーい、褒められた」
ソラちゃんがぴょんぴょん。それにつられてシロがぴょんぴょん。何この癒しの光景。撮影者を起動して、激写する。レンズは皐月だ。
「アキラよ。今は殺生石を調べるのではないのか?」
「ごめんなさい。つい」
桔梗に諭されてしまった。
『マスター。殺生石の解析鑑定が完了しました』
おお、メーティスさんが静かだと思ったら、じっくりと解析鑑定されていたようだ。
『殺生石は、天の湖で拾った黒い石の魔素吸収成分を抽出し高純度の結晶にしたもので間違いありません。また、刻印によって魔素の吸収に指向性を持たせてあります』
「ありがとう、メーティスさん」
『また、現在の殺生石は、魔素が飽和するほど蓄えられた状態です。刻印の制御下から外れた場合、蓄積された魔素によって魔物が生み出される可能性が非常に高い状態です』
「じゃあ、この殺生石を破壊すると、砕けた破片から大量の魔物が発生する?」
『その通りです』
「めちゃくちゃ危険じゃないか」
『個体名:ソラの神空間への隔離を推奨します。また、刻印の解析が終わりました。刻印の術式を変更することで、魔素の吸収を停止し、任意に魔素を取り出すことができるようになりました』
「ソラちゃん。即お願い」
「わかったよぉ」
ソラちゃんが神空間へ殺生石を格納したことで、魔物の大量発生は防ぐことができた。やれやれだぜ。
「それじゃ、メーティスさん。新しい刻印を試してみよう」
『了。神空間にて殺生石の分割を実施。完了しました。刻印生成。成功しました。殺生石、改め、魔光石を取り出せます。取り出しますか?』
「よろしく」
取り出した魔光石は、手のひら大の八角形で、厚さ2センチほどだった。表面に何かの刻印がされていた。しかし、全く魔素の気配を感じない。
『告。安全性と利便性の確保のため、魔光石の刻印は陰と陽に分けました。片方では魔素は安定して蓄積され漏れることはありません。陰陽の両方を重ねることで蓄積された魔素が放出される仕組みです』
メーティスさんに抜かりなし!さすがです。しかし、殺生石が大きいとはいえ、限りのある資源だ。魔光石自体を作り出せなければ、乱用はできない。
『告。神空間においてではありますが、魔素吸収成分の抽出と結晶化は可能です。殺生石は純度80%でしたが、魔光石は純度100%となっており、魔素吸収と放出効率は90%以上です。以降、ガウスでの精製工程の開発を行います』
さすが、さすがメーティスさん。そこにシビれる憧れるぅ。嬉々として開発を進めてくれている。とりあえず、魔光石という新たな材料が手に入ったので、葉隠の里のダーシュたちへ見せてみよう。
☆★ ☆★ ☆★ ☆★ ☆★ ☆★ ☆★ ☆★ ☆★ ☆★ ☆★ ☆★ ☆★
ここまでお読みいただき、誠にありがとうございます。
もし物語を少しでも楽しんでいただけたようでしたら、
【いいね】や【★(星)】をつけていただけると、大変励みになります。
今後の執筆の力になりますので、応援していただけたら嬉しいです。
☆★ ☆★ ☆★ ☆★ ☆★ ☆★ ☆★ ☆★ ☆★ ☆★ ☆★ ☆★ ☆★




