77. 魔法のランプ 再誕
「おお、アキラよ。死んでしまうとは情けないのじゃ」
「・・・・死んでない」
頭の後ろに柔らかいものが当たっている。顔にも暖かな感触があり、前が見えない。
「妾の膝枕の感触はどうじゃ?」
俺は動かない体に力を入れて手をあげて目の前を塞ぐものを取り除こうとする。
むにゅ。
「起きて早々、狐の胸を触るとは、さすが我の見込んだ男よ」
「アキラさん、最低です」
え、ええええええ。さっきまで5歳児くらいになっていた師匠が元の姿になっている。魔素が足りないとか言ってなかったっけ?
助けて、エロ仙人様〜。俺の体は悲鳴をあげて動けないので、仕方なく顔に当たる感触に身を任せる。
「魔神ジーニは?」
「大丈夫じゃ。お主の最後の一撃で魔素をほとんど消費したようじゃ」
「そうか、よかった」
俺たちがほっと一息をついている一方、アラジンがガンザスを起こそうと呼びかけていた。
「ガンザス。おい、ガンザス。起きてくれ」
「・・・・・。う、アラジンか?」
「ガンザス!目を覚ましたのですね」
「っ!バドゥール王女様。お身体はよろしいのですか?」
「はい、魔神ジーニが消えてから、体のだるさも痛みもなくなりました。」
「バドゥール。本当によかった。それからガンザス。生きていてくれてありがとう。しかし、お前の右手は・・・・」
「はは、気にするな。魔神ジーニに取り込まれた時の記憶はあるんだ。自業自得さ」
床に寝かされているガンザスの右手は、俺が切り飛ばしてしまった。俺は桔梗に目を向ける。
「ふむ。我にかかれば再生は造作もない」
「それなら、お願い」
「・・・・我に願うのなら対価が必要だ」
「俺にできることなら」
「良かろう。」
桔梗は、アラジン達の元へ歩み寄り、おもむろにガンザスの右手に手をかざす。
「エクストラヒール」
目の前でガンザスの右手が生えていく。その異様な景色に呆気に取られるアラジンとバドゥール王女。この世界でも部位欠損を回復させる魔法は聖女のみが使える魔法とされている。それを目の前で使われれば驚くのも無理はない。桔梗の中身はブラックドラゴンなので人の魔法など造作もない。
「右手が・・・・。ありがとうございます。聖女様」
「我は、聖女ではない。ブラックドラゴンである。今は桔梗と名乗っておる」
「なっ・・・・」
「嘘だろ」
ガンザスとアラジンが驚きの声をあげる中、ガンザスの右手も元に戻り気が緩んだのかバドゥール王女がそんな2人を見て楽しそうに笑う。そんな中ガンザスが思い出したようにアラジンに問いかけた。
「・・・アラジン。魔法のランプを盗んだ後、急にいなくなったが何があったんだ?」
アラジンが思い出しながら話し始めた。
「リーカ教団の司祭から、バドゥールの病の原因が魔法のランプだと聞いて、ガンザスに頼んで魔法のランプを盗みだす計画を立てたんだ」
「それは知っている。俺が警備の穴を教えたんだからな」
「警備の穴をついて魔法のランプを手にした瞬間、頭が真っ白になって不思議な声が聞こえたんだ。ダンジョンに向かえと・・・」
「だからあの時俺の声にも反応しなかったのか」
「そこからは、あまり記憶がないんだが、空飛ぶ絨毯で砂漠を超えたような気がする」
アラジンは、魔法のランプを触った瞬間から魔神ジーニによって意識を乗っ取られていたってことだろう。しかし、儀式の間まで魔法のランプを運んだ人もいたはずだ。なぜアラジンだけが魔神ジーニに操られたのだろうか?
「なぜ、アラジンだけが操られたんだ?」
「妾も気になるのじゃ」
「私も・・・」
ギアナがおずおずと右手をあげる。そして皆で桔梗を見る。
「なぜ我を見る・・・・」
「博識な桔梗なら何か知っておるかと思ってな」
「ふ、我が知らぬものはないからな」
(ちょろいぞ 桔梗)
『・・・・・』
なんだかメーティスさんが不機嫌な気がする。
桔梗が両手を胸の前に水を掬うように構えた。
「現れよ」
その手の上に魔法のランプが現れた。
「それは!?壊れたんじゃないのか?」
「ああ、壊れた。これは我が嫉妬の魔素を集めて新しく作ったのだ」
「ええ!!魔法のランプを作れるの?」
「作ったというのは少しニュアンスが違うか・・・。壊れた魔法のランプを修理したというのに近い」
さすが、桔梗だ。まさかの魔法のランプ復活。ということは魔神ジーニも復活しているということになる。
「魔神ジーニよ。出てくるが良い」
「・・・・。ごめんだし」
出てきたそばから謝るミニサイズの魔神ジーニ。
「魔神ジーニよ。嫉妬の魔素の管理者のお主がなぜこのようなことをしたのか説明してくれるか?」
「・・・・はい」
それから魔神ジーニの説明というなの愚痴がものすごい勢いで始まった。魔法のランプは主に嫉妬の魔素を吸収し、管理するための神器であった。世界の嫉妬の魔素がオーバーフローしないように多すぎる嫉妬は吸収し、少ない場所には供給する。それでも嫉妬の魔素は魔法のランプに溜まっていき、魔神ジーニが生まれた。それから、だいたい1000年前に気まぐれに人間の呼び出しに応えて願いを一つ叶えてみたところ、ランプの魔神は呼び出したものの願いを叶えるという噂が広まった。
人々は自らの願いを叶えるために、魔法のランプを取り合い、戦争も起きた。魔神ジーニは、その人の愚かな行為を最初は楽しんでいた。何度が願いを叶えるうちに、魔法のランプを持っている者は周りの嫉妬の対象になっていき、魔法のランプに集まる嫉妬の魔素が増えていった。
ある時、魔神ジーニに愛を誓う者が現れた。その願いは自分のそばにいること。魔神ジーニは驚き興味を持ってしまった。このような願いは聞いたことがなかった。その男こそ砂漠の諸部族をまとめた初代トリプレットデザート王国の国王その人であった。以降、魔法のランプは国宝として管理され、毎年の降雨の儀式で嫉妬の魔素を消費する仕組みが作られていった。
降雨の儀式により、作物が順調に育成できるようになり、王国は安定した。その後、数世代にわたって王国は繁栄を極めた。魔神ジーニも王国の繁栄を見るのを楽しんでいたようだ。ただ、何百年もたてば飽きてくる。そんな中、バドゥール王女とAランク冒険者のアラジンの結婚という事件が起きる。冒険者とはいえ一般庶民と王族のラブロマンスは国民に絶大な支持を得たっと共に、アラジンとバドゥール王女は多くの嫉妬をかった。その嫉妬の感情が魔素に宿り魔法のランプに溜まっていく。そして、ダメ押しのように、ガンザスの無自覚な嫉妬がきっかけとなり、バドゥール王女へ呪いがかかることになった。
「それで、なぜアラジンを操ったのだ?」
「そ、それは・・・」
魔神ジーニが両手の人差し指をツンツンしている。
「それは?」
「それは・・・すごいタイプだったから・・・つい」
「「「「・・・・・・はぁぁぁぁ!?」」」」
「違うし、魔素が溜まりすぎてだいぶ狂っていたというか、制御できなかったというか・・・・ごめんだし」
魔神ジーニが暴走した理由はだいたいわかったが、ちょっとモヤモヤするのはなぜだろうか?いずれも魔素過剰による暴走が原因で、今はほぼ全ての魔素を使い切っている。これから千年程度は暴走することはもうないということだ。ガンザスの右手も戻ったし、魔法のランプの事件はこれにて一件落着だ。




