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大罪抱えし  作者: 硝子
奇跡と協力と対価
13/17

「こ、これだよ!これ!!」


 ≡≡≡≡≡≡≡≡


写し身(ドッペルゲンガー)

 分類:スキル

 レア:UR


 使用者が触れた相手の姿を写しとり、姿を変化させる。

 重量、身長は差程写すことは出来ない。身体の性別的特徴は写せない。


 ≡≡≡≡≡≡≡≡≡


「こういうのが欲しかったんだよ!!」


 ある日手に入れた不思議なアプリ【ゲッター】。


 それによって徐々に、そして劇的に変化していく日常の中、働くこと無く贅沢三昧して生きていく夢を抱く男【奥菜(おきな) 和徒(かずと)】。

 29歳にもなって引っ越して早々定位置と定めたリビングに置いたシオンチョイスの少しお値段が高いソファー。そのソファーの上に乗り、狂喜乱舞する姿は正直言って痛々しい。


「和徒様。お気持ちはお察し致しますが、落ち着きください」


 赤暗い髪を左右に振り、残念な主を嗜めるのは、メイドとして和徒に仕える【ケイリシュオン】。その姿は見事なプロポーションであり、浅黒い肌と、少しきつめの目はどこか艶を感じさせる。


 漸く手に入れたメイド服を何処か誇らしげに胸を張りつつ、和徒の背後に控える姿は実にメイドらしい。


「いやいや。これは喜ばずには居られない!これでやっと金稼ぎが楽になる!」


 第一回目の金稼ぎ。

 その時から続けられたあらゆる束縛は和徒とケイリシュオンを苦しめてきた。


「シオンだってあの格好はもう嫌だろう?」

「えぇ。それはそうですが・・・・失礼ながらそれはお一人分だけでございますよね?ですので、わたくしはまだまだあの格好を続けなければなりません。ですので、さも、わたくしもあの変装をしなくて良い様に言われても困ってしまいます」


「あっ」


 第1回目の金稼ぎから一月と少し。

 その間に2回程お金稼ぎを実施。


【ゲッター】によって出来る不思議なガチャは最初こそ低資金で出来ていたが、それは徐々に高騰していき。とうとう11連ガチャをするのに1億円もの大金が必要となった。


 そこから値段の上昇はストップし、11連ガチャは1億円のまま。

 それにつぎ込みながら出てきたアイテム、スキルを駆使し何とかしていたが、それは綱渡りで危険な自転車操業の様な状態であった。


 変装は1回目から変わらずケイリシュオン、改め、シオンが作成した穴無しの黒い覆面とリバーシブル仕様のローブ。通気性は悪く、ジメジメするその格好は12月を迎えた現在でも野外はともかく暖められた室内では正に地獄の様なものだったのだ。


 そんな格好から解放されると喜んだ和徒であったが、それはスキルを覚えれる1人だけが解放されるものであり、自然と従者であるシオンは今までと変わり無いことを自覚したのであった。


 因みにシオンもスキルは習得することが出来た。


 数回に及ぶガチャの中で重複したスキルを試しにとシオンが習得しようとした結果である。


【ゲッター】から得られるスキルは、スマホから摩訶不思議に取り出すとビスケットになる。

 それを食べれば習得できるのだが、当初和徒は危険性を説いた。


 もしかしたらアプリの使用者以外には毒になるかもしれない。


 そんな懸念を抱いたのだが、シオンは和徒が説明しながら取り出したビスケット。【天気予知(サー・プレ・ジオン)】と【燃えたろ?】の2枚を奪うように手に取り、和徒が止める間もなく食べてしまったのだった。


 唖然とした和徒ではあったが、直ぐ様シオンの心配をした。が、当の本人のシオンはスキルを行使し、己が生まれながらに有する【デピア】以外の力に感動していた。


「ご、ごめんな。・・・・えっと。次から暫くは俺1人で「それは却下ですね」・・・・・」


 主である和徒が先に有用なモノは使用していく。


 ある種、上下関係、主従関係においては上位のものが優先されるその暗黙の了解のようなものを漸く、自然に出来るようになった和徒に少し嬉しく思うシオンは、和徒の意見をバッサリと切り捨てる。


「漸く和徒様優先の考えが出来るようになったと思ったら・・・・良いですか?和徒様はその辺の有象無象の輩とは違うのです。

 誰もお仕えしていないならば仕方ありませんが、わたくしが居るのです。共も付けずに重大で且つ危険性のある事にお一人で挑まないでください」


 ここ最近はシオンの和徒の扱いが雑に―――――良い意味で雑になったことによって、言いたいこと、守るべきことをズバズバと言うようになった。

 それは和徒にとってありがたい事ではあったが、同時に少し窮屈な想いもあったりすのだが、まぁ、夢の実現のため致し方なし。


 我慢するしかないのである。

 それが、誰かを『従えること』なのだ。

 とは、何時しかシオンが言ったお言葉である。


「わ、わかった。・・・・・も、もう一回ガチャしてみよう!」


 資金としては十分と言って良いほどあり、散々苦しめられた11連ガチャをする度に10倍に膨れ上がっていく費用もストップしたまま。

 思わず手が出てしまうのも人として仕方ないと言えるだろう。


 止めるべきか、黙するべきか。


 悩むシオンを尻目に和徒は躊躇無く、まるで焦るように―――――その結果は。


 ≡≡≡≡≡≡≡≡


【従者の指輪】

 分類:アイテム

 レア:SSR


 主と定めた者へと従者がこの指輪をはめることにより使用可能になる。

 主が望めば何時、如何なる時も側に指輪をはめた従者を呼び出すことが出来る。


【ホーム】

 分類:スキル

 レア:UR


 限定的な転移の翼を得る。


 ≡≡≡≡≡≡≡≡


「か、神引きですやん・・・・・!!」

「まぁ!大変素晴らしいです!!」


 わなわなと震えるスマホを覗くシオンも思わず声をあげる程の『最良』と言って良い結果。


『限定的な転移』とは何か?

 詳細は書かれていないが、それは何度か試して確認すれば良い。転移は転移であるのだから、それは今後の活動において必ず役に立ってくれる事だろうと2人はそのスキルの有能さに想いを馳せる。


 更に【従者の指輪】は【ホーム】が使用者1人だけの効果であったとしても、この指輪を使うことによって2人ともが無事に帰還することが叶う。


 和徒が言うように『神引き』であった。


 因みにそれぞれのスキル、アイテムは文句の一つもなくどちらがどちらを使用するのかは決まっていた。


 自然と和徒もそう判断出来たことにシオンは1人こっそりと、安堵の吐息と喜色の感情を浮かべていた。


 ◇◆◇◆◇◆


 変わらず入念な調査を行い、【改善せし不浄の右手スユズ・ラウ・パタユア】を使用する相手を探すシオン。

 そして、何時もはシオンが調査している間は完全に暇になるのだが、今回は極々短い時間とは言え、和徒にもやることがあった。


【ホーム】。


 つい先日に手に入れたスキルで、説明文には『限定的な転移の翼を得る』とあった。その使用を確認するために一度使ってみる事だ。


 このスキルを使用すると背中から視認できるが接触出来ない不可思議な、されど神秘的な純白の一対の翼が生えてくる。

 それは和徒の意思で動かすことが出来、その翼は身体を覆い隠す様に動かすことで初めて『転移』する仕様になっていた。


 この『身体を覆い隠す』動きは自然とスキルの発動と同時に始まるのだが、演出のためなのか、酷く怠慢で遅い。それをどうにかしようとして、自分の意思でも動かせることに気がついた。


 そうやって自分の意思で動かすことで演出を短縮し、即座に転移することも出来ることがわかり、確認の大切さを思い出す和徒であった。

 仕事をやっているときにはこの確認を兎に角大事にしてきたなー。と思い出を頭に浮かべながら、シオンの調査完了までの待機へと移行していった。


 そんな和徒を傍目にシオンは眉をひそめる。

 偶々ではあったが、不穏な動きを確認した為に思わず寄せた眉間を解しながら深々と溜め息をついた。


 一般的に『不穏な動き』と言えば良からぬ事であるように聞こえるが、今回のこれはその様子とは逆ではあった。しかし、同時に喜ばしい事でもなかったが、その行動を起こしている人物たちの心情を思えば仕方の無いことではあった。そのために、シオンが最後に浮かべた表情は苦笑(・・)


 その様は正に『仕方無い』と雄弁に物語っていた。


 シオンの心情だけで言えば放置しても良かった。

 しかし、彼女の個人的な感情は現在では無用のもの。


 彼女が従うのは己の心ではなく。和徒であった。


 第一に和徒の言葉と心であり、次点に和徒を思う己の心がくる。

 この2つ以外は彼女の行動を決める一切の権限はなく。即ち『和徒以外の誰かを思った心が生んだ感情』は彼女にとっての娯楽(・・)程度の意味しか持ち合わせていなかった。


 その結果。

 この見つけてしまった者たちは、自然と『悪』と判断される。


 しかし、己の独断で動く事は(はばか)れる。

 時として、主人を想っての行動が、その主人を苦しめる結果となってしまう可能性がある。


 その事に思い至る事が出来るシオンは、直ぐ様主人である和徒へと報告を行った。


 前の住居とは比べられないほどに広くなった家。比例して広くなったリビングにて【ホーム】の確認を行っていた和徒ではあったが、その確認は少しばかり前に終了しており、新しく買い直した少しお高いソファーでだらけていた。しかし、シオンの報告を聞くと起き上がり、考え込み始める。


「(部外者に知られるのはかなりリスクが高い。――――――が、ただ知られるだけではデメリットしかないけど、協力してくれることを前提に今までの事を考えるとメリットも大きい)」


 唸り声をあげながら悩む主人を眺める従者、シオンは自分の行動が大きな間違いではなかったと安堵しながら、和徒の答えを待った。


「正体を明かさないまま会ってみるかな・・・・」


 溢れた答えに頭を下げ、了解の意を示すシオンは、今後の行動のために監視を開始。


 ポロリと溢した答えをもう一度よく考え、シオンへと向き直り、和徒は口を開いた。


「メリットとデメリットが両方あると思うんだ。デメリットを考えると会うのは悪手に思うけど、どうにかその悪手を軽減して、メリットを取りたい。

 大変なことだけど、シオン。協力を頼むよ」

「畏まりました」


 特に今現在は大きな動きはないと判断したシオンは、本来の視界に映る和徒へと意識を戻し、再び頭を下げる。


「今現在は大きな動きはなく、このまま放置すれば見付かるかもしれない。と言う程度の状態です。先に此方が動き、対策を打った上で接触すればデメリットは大幅に軽減されると思われます。

 その対策も今となっては打ちやすい状況ですし、相手方も和徒様だけに集中出来る程暇な方々ではありません。

 かと言ってあまりのんびりも出来ませんが、数日内には接触する機会を調節します」

「よろしくね」


 対策は今まで得たアイテムやスキルによって解決できる。

 更にシオンが口にした『接触の機会』もそれらによって容易に整えることが出来る。


 夢へとたどり着く道筋がハッキリと見え始めた。

 シオンはそう感じると共に気を緩ませぬよう己を引き締める。変わりに暢気な気分へとシフトさせる和徒は再びソファーに寝転んだ。


「(場所や時間の指定は【式紙・送飛】を使えば良いでしょう。残念ながら数は1つだけですが、代表としてあの方に送れば問題もないでしょうし・・・・・問題は移動手段ですかね)」


 手筈を考えると致命的な問題が浮上。

 その問題点『移動手段』によって眉間に皺を寄せ、考え込むシオンは、何か使えるものはないかと倉庫として使用し始めた一室へと足を運ぶ。

 その部屋の入り口横の壁にはタブレットが埋め込まれており、それによって在庫管理をしていた。ある程度金銭に余裕が出てきたため悪乗りした和徒が、在庫管理だけをするにはオーバスペックな代物を取り付けたのだった。


 それを操作し、在庫を一つ一つ確認。

 万事解決出来るようなモノは無かったが、可能性のあるものを発見し、その物を部屋から取り出し、和徒のもとへと戻る。


 不安要素はあるが、少し仕掛けを施せば大丈夫だろうと主人である和徒に作戦の説明、報告を行った。

 その作戦での不明点を思い付く限り質問、相談した後に作戦決行をソファーから宣言された。


 ◇◆◇◆◇◆


 作戦決行を宣言した翌日。


 所変わってシオンにより『不穏な動きをする輩』と断ぜられてしまった内の1人。九重重蔵(ここのえじゅうぞう)は部下からの報告を秘書を通し聞いていた。

 聞きながらも書類に眼を通し、必要な処理を済ませると言う常人とも老人ともかけ離れた働きをしている。


 しかし、その行為に触れること無く淡々と報告を済ませる秘書は特に不思議に思うことは無い。

 幾度と無く無理をせぬようにと進言したものの聞き入れることはない重蔵に最早諦めの境地に辿り着いていた。


 この鬼気迫るほど効率を追い求めたスタイルは重蔵の孫娘である九重秋葉(ここのえあきば)の奇病が治ってから見受けられる。何にそれほど焦っているのか?理由を説明されていない秘書は溜め息を漏らしつつも重蔵に余計な負担が掛からぬように配慮した。優秀な秘書花村真木(はなむらまき)


 そんな彼女の元に何処からともなくフワリと小鳥が近付いた。


「え?なんで、こんなところに鳥?」

「ん?」


 報告を思わず中断させた秘書の声に齧り付いていたデスクから顔を上げ、声の発生源に顔を向け、途端に怪訝な表情を浮かべる重蔵。


 それもそのはず。

 この2人が今現在いるのは九重グループ本社ビル、最上階である30階の一室。

 空を飛べる鳥とは言え、窓を開けているわけでもない密室の空間にいつの間にか鳥が居れば不思議に思うだろう。


 思わず固まる秘書を怒ることは出来ないだろう。

 そして、そんな秘書を傍目に重蔵は喜色の声をあげる。


 ピクリと我に返った秘書を尻目に小鳥へと近づく重蔵であったが、小鳥はフワリヒラリと重蔵を避け、何故か秘書が今まで確認していたシステム手帳に舞い降りた。


「ピヨリ」と現存する鳥から発せられる鳴き声とは違う声を上げた途端。


 小鳥はその身を一枚の紙へと転じさせたのだった。


 その奇天烈な光景に再び固まる秘書。そして、己の予感が正しいことにより一層確信を深める重蔵。


 居る筈の無い鳥。生物が紙へと転じる不可思議な現象。


 これはあの夜の様ではないか。


『奇跡の夜』


 九重重蔵の一家に訪れた幸福。

 その幸福が訪れた夜。


 その夜の雰囲気を醸し出す今のこの場面にゴクリと喉をならし、半場奪うように秘書から紙を手にとる。


 ≡≡≡≡≡≡≡≡


 拝啓。花村真木殿。


 貴女が仕える九重重蔵殿に取り次ぎ願う。


 12月20日午後9時。

 九重グループ本社ビル屋上にてお会いしたい。

 尚秘密を共有せし皆々様と共にお待ちして頂きたい。


 ≡≡≡≡≡≡≡≡


 簡潔に要件だけを伝えたその紙、手紙とギリギリ言えるそれを震える手で見つめる重蔵は確信へと至った。


 まだ誰も、この四六時中張り付いていると言って良いほどの秘書の花村真木でさえ知らない事。重蔵が密かにコンタクトを取った者たちの事も知っている。

 勿論それは分からないようにしていた為に花村は知り得なかったが、本気で調べれば完璧に隠せていた訳ではない為、露見していただろう。現に秘書の花村は薄々何かしらを感じてはいたが深く詮索しなかっただけだ。

 しかし、それは花村だからこそ、何時も側に居るからこそ調べられることであり、気がつける事。


 他所の者がこの事を知るには少なくないリスクを冒す必要があり、そのリスクを無視し動けば少なからず重蔵や他の者の耳に入る事になる。

 そんな事もなく突然に、唐突に寄越された手紙は重蔵を震えさせた。


 それは確かに恐怖も孕んでいた。しかし。

 しかし、だ。


 それ以上に歓喜が彼の身体を駆け巡った。


 どれだけ情報を得ようとしても集まらなかった謎の人物への手掛かり。

 どれだけ感謝しているか。

 どれだけ嬉しかったか。

 どれだけ今が幸福であるか。


 何一つ伝えられていない。


 ただ。ただただ伝えたかった。


 感謝を。

 感情を。

 幸福を。


 それが、叶うのか。

 そんな自問に乾く喉とは裏腹に口角を盛大に上げ、声を張り上げる。


「この日の前後の予定は全てキャンセルだ!!」



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