【第十章番外:ア、アァ――!!】
『システム起動中……』
『主関節神経接続確認:43対のマイクロ接続未応答……ロスト』
『カメラ認識システム接続:……単一レンズのみ検知……接続完了』
『センサーデバイス接続:……単一センサーのみ検知……接続完了』
『音声レシーバー接続:……接続完了』
『兵装防衛システム:……レスポンスなし……レスポンスなし……ロスト』
『メイン電力供給:……通電正常』
『スピーカーの異常を検知:……テスト中。』
「アッ――、ウッ――、エッ――」
『スピーカーの異常:修復困難……解決不可。』
『新規デバイスを検知、接続を試行中……拒絶……コマンド上書き:熱源感知、デバイスの輪郭照合。一致を確認後、当該デバイスを接続。』
『既存コマンド実行:……アッパーハッチ開放。傍らのバッグを把持。第二コマンドの実行準備……』
武器庫に積み上げられた貨物箱。その内部から一本の機械腕が蓋を押し上げ、ハイエナの輪郭を模した一台の安っぽいロボットが起き上がった。それはもう一方の機械爪で指示通りのバッグを掴むと、箱の中から立ち上がった。
『新規コマンド実行……ヘルメット×1、防弾ベスト×1、武器×1を収集。センサーデバイスを維持。実行者の輪郭を確認。省エネ待機モードへ移行。』
安物ロボットは箱から這い出すと、レンズスキャンを開始した。庫内を移動しながら指示されたヘルメット、防弾ベスト、銃器を次々と一箇所に集める。そして庫の入り口を向き、まるで電源が切れたかのように、その場に蹲ったまま微動だにしなくなった。
やがて武器庫のハッチが開き、ロボットのセンサーが侵入者の輪郭をスキャンした。データベースにある「実行者」のデータと一致する。
ロボットは待機モードを解除し、レンズの前にいるマッド・ハイエナに向かって手を振った。
「ウッ――!」
「よお、小僧! ショーの準備はいいかい?」
『キーワード「パフォーマンス」を受信。コマンド検索……認可済みスクリプトを実行。』
コマンドを読み取った安物ロボットは、手を挙げて応えた。
「フッ――!」
マッド・ハイエナが片膝を突き、レンズ越しに輪郭を確認したロボットは、傍らの防弾ベストを掴んで高く掲げた。
「アッ!!」
ハイエナが敬虔に唱える。
「わが命、狂気に捧げん!」
『検知:狂気。次のコマンドを実行。』
ロボットが防弾ベストをハイエナに着せると、続いてもう一方の防弾ヘルメットを掴み、再び機械音を発した。
「ウッ!!」
ハイエナが続ける。
「わが運命、癲狂に委ねん!」
『検知:癲狂。次のコマンドを実行。』
ロボットは満足したようにヘルメットをハイエナの頭に被せ、武器を掴んで叫んだ。
「エッ!!」
ハイエナが応える。
「わが恐怖、それは二度と笑えぬこと!」
『検知:笑い。コマンド実行完了。スリープモードへ移行。30秒後に再起動。』
『スリープモード解除……』
「アハハハ! イィィ――ハァ!」
ハイエナの狂った笑い声が反響する中、安物ロボットが再び再起動した。
『デバイス管理実行。新規コマンド実行。新規デバイスインストール中……』
『新規コマンド誘導ルート、実行中……』
ロボットの視界にいくつもの点線が現れ、武器庫の外へと導いていく。その方向は、ハイエナの向かった先とは正反対だった。
通路を往く安物ロボット。それは不自然かつぎこちない歩調で、一歩ごとにその体を不器用に上下に揺らしていた。
艦内が騒乱に包まれる中、点線に沿って進むロボットは、まるで透明人間であるかのように誰の目にも留まらなかった。
一人のゴブリン船員が武器を手にその視界に入り込んだが、船員は足を緩め、向こうからやってくる安物ロボットを呆然と見送っただけだった。ロボットは船員とすれ違い、鈍重に、しかし真っ直ぐに反対側へと歩き去った。
「奴を止めろ――! でないと俺たちの生活は終わりだ! この能無しどもめ!!」
通路に督軍の怒号が響き渡る。その声に現実へと引き戻されたゴブリンは、顔を真っ青にして騒乱の現場へと走り去った。
『新規デバイス、インストール完了。新規電力経路を検知……』
『実行制限:プリセット作業……作業コマンド実行……』
『センサー検知。現在、データベースと一致する情報は検知されず……』
『ルート作業を継続。』
ついに安物ロボットは動力室の前に辿り着いた。その両手を扉の隙間にねじ込む。油圧が上昇し、動力室のハッチが凄まじい音を立ててこじ開けられた。
『センサー検知。熱源を検知。データベースの情報と照合……一致。』
『新規デバイス実行。電力接続……』
次の瞬間、ロボットのハッチが唐突に開き、そこにはペンキで殴り書きされた三文字が躍っていた。
『TNT』
そしてロボットは、笑っているような、泣いているような、壊れた音声を発した。
「ア、ア、ア、ア……」
まばゆい光が走り、爆発音が轟いた。




