【第十章:来た、騒いだ、演じた(二)】
貨物車が成層圏戦略艦の停泊地へと向かう途中。
マッド・ハイエナは箱の中から這い出し、「予備パーツ」のラベルを剥がして「武器装備」に貼り直すと、再び箱の中へと戻った。
戦艦がゆっくりと浮上し、貨物室から作業員たちが立ち去ったのを見計らい、ハイエナはようやく箱から這い出した。彼は用意していたウィッグとつけまつげを顔に貼り付け、胸元の毛をこれでもかと派手に逆立てると、雌ハイエナのフェロモンを全身に浴びるように振りかけた。
化粧鏡を覗き込み、満足げに自分を眺める。口角を吊り上げ、陶酔したように低く笑った。
「ひひっ……アタシがメスだったらさ、今頃あのアタシが議長の座に座ってたかもねぇ……」
通路を巡回していたハイエナの守衛が、心をかき乱すような香りに気づいた。彼は無意識にその匂いを辿り、角を曲がる。鼻を突く強烈なフェロモン。守衛の顔には淫らな笑みが浮かんだ。
「おやおや……どこの世間知らずなメス犬ちゃんが、戦艦で迷子になってるのかなぁ?」
次の瞬間。
曲がり角から姿を現したのは、狂ったように色目を使うマッド・ハイエナだった。
金属パイプを握ったハイエナはしなやかに身をくねらせ、逆立てた胸毛を揺らしながら、わざとらしく声を震わせる。
「んふぅ~❤ ア・ニ・キ。アタシの神秘的な『デカい凶器』、見てみない~?」
守衛が反応するより早く、重い金属パイプがその顔面に叩きつけられた。――ドンッ。
角の向こうで、守衛の飛節が二度目の鈍い音と共に跳ね上がり、そのまま闇の奥へと引きずり込まれ、消えていった。
ほどなくして。
角から再び飛節が現れた。踏み出したマッド・ハイエナは、守衛の制服を身に纏い、胸にはIDカードを光らせている。彼はニヤリと笑い、武器庫へと潜入した。
通路を歩いていたオークの守衛が、武器庫の近くで異様な物音を耳にした。彼が中を覗くと、そこには一人のハイエナの守衛が、ハイエナを模した奇妙で安っぽいロボットの前に跪き、敬虔に祈りを捧げていた。
ロボットは今にも外れそうな機械の顎をガクガクと動かし、防弾チョッキを高く掲げて叫ぶ。
「アッー!」
ハイエナが応える。
「わが命、狂気に捧げん!」
ロボットが防弾チョッキをハイエナに着せると、次は防弾ヘルメットを掴み、再び叫んだ。
「ウッー!!」
「わが運命、癲狂に委ねん!」
ロボットは満足したようにヘルメットを被せ、武器を手に取って叫ぶ。
「エーッ!!」
「わが恐怖、それは二度と笑えぬこと!」
武器を受け取った瞬間、マッド・ハイエナは猛然と振り向き、唖然としているオーク守衛に向かって乱射を開始した。
艦内に銃声が轟き、緊急警報が鳴り響く。ハイエナはロボットの傍らにあったバッグを掴み、武器庫を飛び出した。
武器庫に取り残された安物ロボットは、一分と経たぬうちに再び動き出した。それは不自然かつぎこちない歩調で、不器用に上下に揺れながら、武器庫を後にした。
「アハハハ! ヒィーッハァーッ!」
狂った笑い声を上げ、乱射しながら駆けるマッド・ハイエナは、目的の昇降機へと突き進む。
昇降機の前で、彼はIDカードをセンサーに叩きつけた。扉が開くと同時に、中へ向かって火力を叩き込む。
『――奴を止めろ! でないと俺たちの生活は終わりだ! この能無しどもめ!!』
督軍の怒号が艦内放送に響き渡る。
ハイエナは血まみれの昇降機内へと飛び込んだ。武装した守衛たちが駆け寄ってくるが、扉が閉まる直前、彼は嘲笑を浮かべてそれを見送った。
扉が閉じると同時に、彼はバッグの中からシンバルを持った不気味な玩具を取り出した。ゼンマイを巻き、玩具の帽子を押し込んで床に置く。
一分一秒を争う速度で天井パネルを剥がし、その上へと滑り込む。直後、数条の銃弾が床を貫いた。
昇降機が目的階に到達し、扉が開く。扉にぶつかりながら、シンバルを叩く玩具がよたよたと外へ出た。守衛たちの罵声と共に蹴り飛ばされた玩具は、衝撃で帽子が脱落する。その瞬間、頭部に隠されていた水晶が炸裂し、凄まじい閃光を放った。
弾匣を交換したマッド・ハイエナは、天井から飛び降りると、通路へ向かって掃射を開始した。扉が閉まるまで、凶弾の雨が降り注ぐ。
凄まじい爆発音が響き、最上階に辿り着いた昇降機の扉が開いた。赤い警報灯に染まった通路。ハイエナは脳内のマップに従い、艦外ハッチへと急ぐ。
動力を失い、空中を傾ぎながら漂う成層圏戦略艦。足元をふらつかせながらも、ハイエナはバッグからフックロープを取り出し、バッグに残った最後の「荷物」を叩いて笑った。
ハッチ横の配管にフックを引っかけ、彼はそのまま艦外へと躍り出た。
艦首のプラットフォームを疾走するハイエナは、途中で振り返り、艦橋に向かって芝居がかった一礼をして見せた。
脱出ポッドの射出音が天に響く中、ハイエナは艦首に向かって一直線に助走し、その先端から虚空へと身を投げ出した。足下を戦艦の巨大なシルエットが掠めていく。
眼下には、機体を反転させ、ハッチを全開にした輸送機が待ち構えていた。
高空中。
片手でロープを掴みながら、もう片方の手でバッグの中の小型偵察ドローンを機内へと放り投げる。レンズが自分に向けられた瞬間、シャッターが切られた。
最高の一枚――記念撮影は完了した。
刹那、ピンと張ったロープが落下の勢いを殺し、彼はドローンと共に輸送機の安全網へと正確に飛び込んだ。
ハイエナは即座にポケットのプレイヤーを起動させた。録音された大歓声が爆音で鳴り響き、彼は興奮の絶頂で叫ぶ。
「フライ――アウトッ!!」
その合図と共に、ドワーフのパイロットはエンジンの角度を調整し、リミッターを解除した。
スロットルを力いっぱい押し込むと、輸送機は爆発的な加速と共に、帝国の空から揚長と去っていった。
帰路の途中、マッド・ハイエナは満足げに今の「最高の一枚」を送信した。
送信先:『熱狂的なファン(新聞記者)』。




