雨天中止になったので
天気予報は晴れだった。
しかし、試合開始の三〇分前になって、激しい雨が降り始めた。
その雨は現在も止んでいない。グラウンドのあちこちでは、大きな水たまりができている。
試合開始の予定時刻から三〇分後、雨天中止が告げられた。
球場に来ていたお客さんたちは、残念でならない。
この地方にプロ野球が来るのは、年に一回だけだ。雨天中止の場合、その試合の振替は主催球団の本拠地球場になる。この球場ではない。
チケット代は返ってくるけれど、できれば試合を見たかった。プロの選手たちが躍動する姿を、すぐ目の前で見たかった。
でも、雨なので仕方がない。
お客さんたちが帰り支度を始めた時だった。
片方のチームの若手選手が、ベンチから出てきたのだ。
客席に向かって大きく手をふる。それから急に走り出して、大きな水たまりにダイブした。
その選手が水面をすべっていく。すべり終わって立ち上がった時には、ユニフォームはどろんこまみれだ。雨の日だからできるファンサービス。
お客さんたちは選手に歓声を送った。
すると、もう片方のチームからも選手が出てきた。今度は二人だ。
二人は助走すると、水たまりにダイブした。横に並んですべっていく。
盛り上がる客席。
その直後だ。
なんと、審判が飛び出してきた!
そして、水たまりにダイブする。
真面目な顔ですべっていく審判。先にすべった選手たちよりも、きれいな姿勢だ。すべる距離も長い。
実はこの審判、ここが地元なのだ。
で、立ち上がると客席に向かって、「セーフ」のジェスチャーをする。
まさか審判までもがファンサービスをしてくれるなんて。これまで以上に客席が盛り上がる。この球場の人気は今や、審判が独り占めだ。先にやった選手たちは引き立て役も同然。
この展開に、両チームのベンチは黙っていない。審判が出てきたのだ。これを上回るには・・・・・・。
「今すぐ監督を呼んでこい!」
数分後、両チームの監督は私服に着替えたばかりだというのに、二人そろって大きな水たまりにダイブするのだった。
次回は『悲しいことになる可能性』というお話です。




