メジャーリーガーのグローブをいただく!(中編)
日本人メジャーリーガーが帰って、およそ三時間後。
野球博物館は大混乱に陥っていた。
不審人物が侵入したのだ。
警官の一人が目を白黒させながら叫んでいる。
「警部がたくさんっ!」
この異常事態、大泥棒による「かく乱作戦」なのは明白だった。
金で雇った大勢の人間たちに、警部そっくりの変装をさせて、一斉に野球博物館へ突入させたのだ。
この人海戦術に対して、
「その手は食わん」
本物の警部は笑みを浮かべていた。
こうなる展開も予想していた。あの大泥棒が使ってきそうな手口だ。
なので、前もって部下たちには指示している。怪しい奴には遠慮するな。特殊ペイント弾を撃ちまくれ。
「少しでも塗料がついている奴は、すべてニセモノだ! 本物の俺じゃないぞ! 全員を逮捕しろ!」
警部はグローブの展示室から、元気に叫んだ。
正面入り口や裏口の他、地下や屋上からも侵入してきているらしい。
だが、それも予想していた。すべての場所に警官たちを配置している。彼らが侵入者たちに向かって、ペイント弾を撃ちまくっていた。
さらに、お宝があるこの部屋だけは、確実に守ることができるように、
「通路のシャッターを全部閉じろ!」
警部は無線で指示を出す。
すでに大泥棒はこの建物に侵入している、そんな予感があった。もしも通路にいるなら、これで奴は「フクロのネズミ」だ。逮捕は秒読み。
各通路のシャッターが一斉に閉まり始めた。
これと同時に、警察本部に連絡がいく手はずになっている。すぐに応援の部隊が駆けつけるだろう。こちらも人海戦術だ。
ところが、予想外の事態が起こる。
「火事だー! 火事だー!」
そんな声が建物の一角から上がった。
警部は不審に思う。本当に火事だろうか。それとも・・・・・・。
次の瞬間、換気ダクトから白い煙が流れ込んできた。
「落ち着いて行動しろ! 誰もグローブに近づくな!」
そう指示したあとで、警部は片手で自分の口を塞ぎながら、周囲を警戒した。
この煙、あまりにもタイミングが良すぎる。大泥棒の仕業と考えるべきだ。
となると、奴がもうすぐ、ここに来る?
グローブに近づく者がいたら、そいつが大泥棒で決まりだ。今回こそ、絶対に逮捕してやる!
みるみる内に、視界が白一色に染まっていく。これでは周囲の状況がわからない。
無線の調子も変だ。ノイズが鳴り続けている。まともに会話できているのかさえ、わからなかった。
しかしながら、部下たちには前もって、さまざまな状況に対応できるよう、細かく指示を与えている。
だが、相手はあの大泥棒だ。
(俺が何とかするしかない!)
そう意気込んだ次の瞬間、警部は前につんのめる。
いきなり床が傾き始めたのだ。
「何だ!? 何が起きている!?」
展示室の床はさらに傾いていく。こんな仕掛けがあるなんて聞いていない。どう考えても、大泥棒の仕業だ。
お宝を展示しているロッカーは、床にしっかり固定されている。それに手を伸ばそうとしたが、間に合わなかった。
とっさに警部は、横の壁の方へと走る。
今や床は急斜面だ。何かにつかまらないと、坂の下まで滑り落ちてしまう。
どうにか壁にたどり着いて、そこにあった手すりをつかんだ。
と思ったら、その手すりが「スポン!」と壁から外れる。
「は?」
壁に爪を立てようとするが、間に合わなかった。
「警部どの、おたっしゃでー♪」
煙の奥から大泥棒の声がする。
奴め、この建物自体に前もって、色々と仕掛けをしていたらしい。
「くそー!」
警部は斜面の下へと転がり落ちていった。




