メジャーリーガーのグローブをいただく!(後編)
翌日になる。
野球博物館では鑑定作業が行われていた。
「本物で間違いないと?」
警部は鑑定士に尋ねる。
「ええ。これは本物ですね」
展示室のロッカーには、あのお宝グローブがある。
大泥棒はこれを盗んでいかなかったのだ。
しかし、「『お宝をちょうだいするぜ』という犯行予告に失敗した」、とも言い切れない。
奴は確かに盗んでいった。
で、ロッカーに自分のサインを書き残していったのだ。これは犯行成功のメッセージだろう。
大泥棒が盗んでいったのは、「ある日本人メジャーリーガーのサイン色紙」だ。
昨日の日付と一緒に、「世界一の大泥棒さんへ」と書いてある色紙。
警部は回想する。
――お忙しいところをすみません。警部さんに一つ、お願いしたいことがありまして・・・・・・。
大泥棒が犯行に及ぶ三時間前だ。あの日本人メジャーリーガーは自分のサイン色紙を持って、ここにやって来た。
そして、サイン色紙と一緒に、こんなメモを置きたい、と提案してきたのだ。
――このグローブは勘弁してください。
――もっとたくさんの子どもたちに見て欲しいので。
――その代わりと言っては何ですが、このサイン色紙をプレゼントさせてください。
あの時、警部はほとんど迷わずに、日本人メジャーリーガーからの提案を受け入れた。
うまくいくという確信があったわけではない。
グローブもサイン色紙も両方盗られる、そんな可能性もあった。
だが、大泥棒のとった行動は・・・・・・。
「次こそは、絶対に逮捕してやる」
警部は小さくつぶやいた。
その頃、大泥棒は自分の隠れ家で、グラスにシャンパンを注いでいた。
一仕事を終えた。「お宝」はちゃんと手元にある。
「世界一の野球選手から、世界一の大泥棒へか」
にやにやしながら、壁にかけたサイン色紙を眺める。
野球博物館に侵入して、あのメモを見つけたあと、自然と体が動いていた。
ロッカーに自分のサインを書くと、日本人メジャーリーガーのサイン色紙だけを取って、その場を立ち去ったのだ。
昨日ので、ちょうど一〇〇〇〇件目の泥棒成功になる。
で、あのグローブには昨日の日付が入っていない。一方、このサイン色紙には昨日の日付が入っている。
「いい記念になったぜ」
シャンパンに口をつけながら、満足そうにつぶやいた。
次が最終回です。




