古代ローマの戦車競争(その十七)
あと一日か。
地平線から昇りきった朝日を見ながら、ベスボリウスは剣闘士たちを眺めていた。
昨夜はここで野営した。
彼らは本当に元気だ。きびきびと動いている。思い思いに準備体操をしていた。
それに対して、こっちは筋肉痛だ。鍛え方がまるで違う。
とはいえ、ゆっくりもしていられない。
ガリアの石版、あれに記されていた謎の競技を再現するのだ。
あの競技には高い潜在能力を感じている。
しかし、時間が足りなさすぎる。
残りは一日だけ。明日の『戦車競争』が中止の場合、この競技を円形競技場で行う。大勢のローマ市民たちに見てもらうのだ。
つまらないと思われてはならない。この競技はうまくいけば、千年後、二千年後も、人々を熱狂させることになるだろうから。
その大事な最初の一歩で、絶対につまずくわけにはいかない。
「まだ一日ある」
自分に言い聞かせた。
とはいえ、昼過ぎには剣闘士たちを連れて、ローマに戻らなければならない。明日の準備がある。もしも『戦車競争』が中止なら、この競技をお披露目できるように。
なので、こうして広い場所で練習できる時間は、そう長くないのだ。
残された時間を有意義に使いたいのは、彼らも同じらしい。朝ごはんの前なのに、剣闘士たちが棍棒で球を打ち始めた。
夢の中でも練習していたのか、飛距離は昨日よりも増している。
「本当に元気なものだ」
ベスボリウスの体のあちこちで、筋肉痛がうなずいた。




