古代ローマの戦車競争(その十六)
ガリア地方を抜けた先で、地平線に朝日が昇ろうとしていた。
残り一日。
明日の朝までに、ローマにたどり着かなければならない。
ヒスパニアの『猛牛戦車』は、五つ目の関所を目前にしていた。
かなりの兵士たちが警備している。が、あれを突破して、必ずローマにたどり着いてやる。
一気に蹴散らしてやろうと意気込んだ時、関所の中から何かが出てきた。
戦車だ。なるほど。向こうも戦車を用意してきたか。
乗っているのは、ローマからやって来たという、腕利きの元警備隊長だろう。相手にとって不足なし。この『猛牛戦車』を止められるものなら、止めてみろ。
こっちが突進すると、相手も同じだ。突進してきた。
どちらも道を譲らない。正面から激突する。馬たちが勢い良く体当たりした。
かなりの衝撃が地面を走る。突進の威力はほぼ互角だ。
地面のざわつきが、なかなか収まらない。
その上で二台の戦車がにらみ合う。
今ので理解した。こいつは強い。
ならば、勝つまで続けるのみ。自分の方がもっと強いのだから。
衝撃の反動で一時的に後退していたが、すぐさま体勢を整えて再突進する。
が、それは相手も同じ。
二台の戦車が再び正面衝突した。
だが、今回も互角だ。並の戦車ならバラバラになるほどの衝撃に、どちらの戦車も耐えている。
ならば、もう一度だ。
二台の戦車が今度はゆっくりと後退していく。
逃げるのではない。加速する距離を長くして、最大の一撃を叩き込むのだ。次の一撃で確実に仕留める。
二台の戦車が同時に後退をやめた。
直後に前進を開始する。一気に加速した。
関所にいた戦車、それに乗っている元警備隊長が正面に大盾を構える。
一方、『猛牛戦車』は守りを考えない。さらに加速した。相手を速度で上回る。守りなど不要。攻撃あるのみ。
二台の戦車が激しく衝突した。
次の瞬間、片方が上空に跳ね飛ばされる。勝ったのは『猛牛戦車』だ。
「・・・・・・見事だ」
敗者の言葉が空から降ってくる。
「だが、お前はここで終わりだ」
その意味を『猛牛戦車』は理解する。
いつの間にか、関所の前に巨大な弓が設置されているのだ。装填された矢の太さは、槍の太さをも上回る。こんな秘密兵器を隠していたとは・・・・・・。
戦車同士の対決で勝てれば良し。仮に負けたとしても、激闘直後のわずかな隙、そこを巨大な弓矢で串刺しにする作戦だ。
それに耐えきったとしても、そのあとは関所を守る多くの兵士たちを、単独で相手にしなければならない。
「ここで朽ち果てろ! ヒスパニアの田舎戦車め!」
敗者が地面に叩きつけられた。乗っていた戦車もバラバラだ。
と同時に、復讐に燃えた兵士たちが、巨大な弓で大きな矢を発射する。
正確な一撃だ。矢は『猛牛戦車』目がけて、高速で突き進んでくる。
だが、そこに飛び出してきたものがあった。
「ここは俺に任せろ!」
新たな戦車が横から飛び出してきて、『猛牛戦車』の前に立ちはだかる。
それは奇妙な戦車だった。ごつごつした大きな岩に車輪をつけただけ。よくある戦車の外見からは、かなり逸脱している。
ものすごい勢いで矢が飛んできた。そして、岩のような戦車に命中する。
その場で踏んばる謎の戦車。強烈な衝撃に耐えきった。
しかし、さすがに無傷とはいかない。
「・・・・・・少しはやるようだな」
大きな岩にいくつもの亀裂が走る。直後に無数の石となって、がらがらがらと崩れ落ちた。
砂煙の奥から、
「だが、その程度で俺は倒せんぞ」
同じ声がする。
「やれやれ。ローマの円形競技場に着くまで、この姿は隠しておきたかったんだがな。ローマのちびっ子たちを驚かせる、俺の計画が台無しだ」
地面に散らばる大小さまざまな石に囲まれて、新たな戦車がお目見えする。
城塞のような戦車だ。戦車の土台の上に、大きな鉱石の塊を彫ってつくった城塞が乗っている。城塞のあちこちには、ガリア各部族の戦士たちが彫刻されていた。
ガリアの『鉱石戦車』、その真の姿である。
谷底に落ちはしたものの、あの程度で壊れるほど、軟弱ではない。
ここに二台の戦車が合流した。
どちらかが言い出すことなく、両者は同時に関所に向かって突進した。
移動する城塞と、闘志溢れる猛牛。
関所の兵士たちは慌てた。
相手が速すぎる! 巨大な弓で第二の矢を放つのが間に合わない!
大勢の兵士たちが悲鳴とともに、空を舞った。
さほど時間をかけずに、この関所も陥落する。
ローマへの道が開けた。




