古代ローマの戦車競争(その十四)
夜になった。白い砂浜に波が打ち寄せている。
この砂浜では昼間、『跳躍戦車』を巡る争いがあった。
あの戦車はあれ以降、完全に行方をくらませている。
反マスルス派の捜索部隊も、ここら辺にはもういないと考え、もっとローマに近い場所を探していた。
砂浜には今、誰もいない。
突然、これまでよりも大きな波が押し寄せ始めた。
そして、海中から何かが姿を現す。
一台の戦車だ。その車体には、無数の魚鱗が彫刻されている。大量の水滴を落としながら、浜辺へと上がってきた。
アテネの『魚鱗戦車』である。海に沈んだと思われていたが、そうではなかったのだ。
この戦車にも、『跳躍戦車』のように、特殊な機能が備わっている。水中でも活動できるのだ。
だから、ローマ近郊の港で海賊船に襲われた時、船が沈み始めても、慌てる必要がなかった。
ちょっとした機転を利かせて、予備の車輪を海上に浮かべておく、そんな余裕さえあったのだ。
さすがにそのまま港に入るのは目立ちすぎるだろうと、水中に潜った状態で海岸沿いを移動した。
途中で二隻の船を見つけたので、悪そうな方にイタズラした。船の底に大きな穴をあけてやったのだ。
あの直前、もう片方の船から、一台の戦車が飛んでいくのを見た。
一目でわかった。あれもどこかの腕利きがつくった戦車だろう。
早く戦ってみたいものだ。もちろん、満員の円形競技場で。
そのためにも、明後日の朝までに目的地へたどり着く必要がある。
一台の戦車は砂浜を軽く走ったあと、
(どこかで馬を調達するか)
この戦車は馬がなくても走ることができるが、速さは出ない。
砂浜を離れると、ローマに向けて闇に紛れた。




