古代ローマの戦車競争(その十三)
ガリアの山脈、その間を走る街道に、『猛牛戦車』の姿はあった。
ヒスパニアを出てから、ほとんど休まずに進んできた。
そろそろ次の関所が見えてくる。夕暮れ時だし、今日はそこまでか。
ここまでの関所でも、兵士たちや傭兵たちが襲ってきた。で、その全員を倒してきた。
次の関所でも同じことだろう。俺の前進を阻む者は、何人たりとも蹴散らすまで。
前方から馬に乗った男がやって来る。
「止まってくれ。話がしたい」
ガリア人だ。ローマ軍の鎧を着ている。
その男から視線を外すことなく、『猛牛戦車』は周囲の気配を探った。
どうやら、伏兵はいないようだ。男も腰に剣を下げているが、まだそれを鞘から抜いていない。
とりあえず、『猛牛戦車』は足を止めた。
さて、相手はどうするか。
「ありがとう。そちらの状況は理解しているつもりだ。明後日の朝までに、ローマにたどり着きたいのだろう」
「そうだ。だから、そこを通してもらおう」
「もし、できないと言ったら」
「力ずくで通るまでだ」
相手の男がため息をついた。
「反マスルス派の議員たちから命令を受けている。『猛牛戦車』を死んでも止めろと」
「足を止めることには成功したぞ。これで満足か。と言っても、すぐに走り出すがな」
両者の間に火花が飛ぶ。
だが、相手の男はまだ剣を抜こうとしなかった。
「無理を承知で頼みたい。別の道へ回ってくれないか」
「そうして俺に何の得がある」
「情報を提供する。この次の関所に、反マスルス派が戦力を集めている。ローマから腕利きの元警備隊長もやって来たらしい」
「それを聞いてしまうと、ぜひともその関所をぶち破りたくなったぜ」
「別の道に回る気はないのか?」
「ああ」
「ならば、こうするしかないな」
相手の男が剣に手をかける。
そして、鞘に収まった状態のまま、『猛牛戦車』の方に軽く投げてくる。
「これで私は丸腰だ。人質にして、この関所を通ればいい。ただし、部下には手を出すなよ」
「そういうことか。わかった。お前の部下が何もしなければ、俺も何もしない」
「もちろんだ。部下が手を出した時には、私を斬れ」
男は『猛牛戦車』の前で反転する。こちらに背を向けると、関所の方へ進み始めた。『猛牛戦車』も後を追う。
「一つ聞いていいか。お前はかなり強いと見た。なのに、戦わないのはなぜだ。部下の安全のためか」
「それもある」
そのあとで男はつぶやいた。
「ガリアの『鉱石戦車』、それをつくったのは私の父だ」
だから、ヒスパニアでつくられた戦車を壊す、そんな命令には従いたくないという。
指揮官と一緒に、『猛牛戦車』は関所に入る。
誰も襲ってこない。武器も手にしていない。
人数が少ないようだが、他の者たちには周辺地域の捜索を命じているそうだ。
そのまま何事もなく、関所を通過する。
去り際に相手の男が告げてきた。
「こういうことを言える立場ではないのだろうが、あえて言わせて欲しい。ローマにたどり着いてくれ」
「ああ。必ずたどり着くと約束しよう」




