古代ローマの戦車競争(その十二)
ベスボリウスは剣闘士たちと、夕食の仕度をしていた。
小麦の生地をこねていく。パンをつくっていた。
「変なことに付き合わせてすまない」
ベスボリウスは彼らに対して、申しわけなく思っていた。
剣闘士は武器を持って戦いたいもの。なのに、謎の競技に協力させているわけだから。
しかし、剣闘士たちは一斉にきょとんとする。
ベスボリウスの言葉が意外だったのだ。実を言うと、彼ら自身はこの状況を歓迎している。
というのも、剣闘士の戦いには、怪我がつきものだ。重傷を負うこともあるし、最悪の場合には死ぬこともある。
それに比べると、ベスボリウスの謎の競技は平和だ。
もしも、これが人気競技になれば・・・・・・。
「剣闘士の何割かは、こっちに乗り換えるだろうな」
命のやり取りという側面がある以上、剣闘士でいられる時間は限られている。
だから、剣闘士の理想的な生き方とは、戦いで名を上げて、そのあとは若い剣闘士たちの教育係になることだ。
しかし、それは今のところ、狭き門になっている。
そこに新しい道が加わるかもしれないのだ。そうなることを、ここにいる剣闘士たちは強く望んでいる。
その期待に応えてあげたい、とベスボリウスは思った。
手分けして生地を成形する。
丸くするのだが、ここでふざける者が出た。
「丸い形ばかりではつまらない」
と棍棒の形にしている。
「お前が自分で食べろよ」
と他の剣闘士。
笑い声が起こった。
それを見て、ベスボリウスは考える。
(棍棒の形をしたパンか)
形はどうあれ、パンはパンだ。味は一緒だろう。
(でも、こういうものを円形競技場で売ったら・・・・・・)
新しいアイデアがいくつもわいてきた。




