古代ローマの戦車競争(その十一)
夕刻、ローマからガリアの方角に向かって、二頭の馬が駆けていた。
乗っているのは、反マスルス派の刺客たちだ。どちらもローマの元警備隊長で、今は反マスルス派の用心棒をしている。その武勇は広く知られていた。
二人が受けた命令は、「『猛牛戦車』を潰せ」だ。
現地の部隊と合流し、彼らを指揮することも、この命令には含まれている。
懸念されるのは、自分たちが現地に着く前に、『猛牛戦車』が関所を突破してしまうことだ。
だから、急がなければならない。馬を潰す覚悟で、ローマから走り続けてきた。
ところが、ここで予期せぬ事態が起こる。
「あれは何だ?」
北東の方角に眩しいものが見える。
よく見ると戦車だ。黄金に輝く戦車。
その姿でピンとくる。賭けの一覧表で見た。たしか、エジプトの戦車が、そういう感じの名前だったような・・・・・・。
黄金の戦車は全速力で、南を目指している。
これを見逃すわけにはいかない。このままだと、あの戦車はローマにたどり着いてしまう。
幸運にも発見したのだ。ここで仕留める。そう彼らは考えた。
しかし、『猛牛戦車』のことがある。少しでも急ぎたいのは事実。
そこで片方が提案する。
「すぐに追いつくから、先に行ってくれ!」
馬上で槍を構えると、一人で『黄金戦車』の方に向かって突進していった。
「楽しみすぎて、時間を忘れるなよ!」
やれやれという顔で、もう片方の刺客は先を急ぐ。
相方の実力は知っている。あんな戦車ごとき、一人で十分だろう。
と同時に、相方の性格も知っている。なぶり殺しにするのはいいが、少なくとも時と場所は選べ。
(とはいえ、あいつのことだ。ヒスパニアの『猛牛戦車』は、俺一人で片づけることになりそうだな)
まあ、それも悪くないが・・・・・・。
今から腕が鳴る。
「はははは! 逃げろ! 逃げろ!」
相方の声が聞こえてくる。
「さあ、狩りの時間だ! 本気で逃げろよ! で、俺を楽しませろ! 全力でな!」
あの分なら予感は的中しそうだ。
(いいだろう。お前が『黄金戦車』を潰せ。俺が『猛牛戦車』を潰す)
馬に鞭を加えると、刺客の片方は北西へと急いだ。




