古代ローマの戦車競争(その七)
シチリアからの船は逃走を続けていた。
待ち伏せを予想して、ここまで慎重に航路を選んできたが、ついに見つかってしまったのだ。
目的の港へ向かうのは無理だった。その方角を塞がれている。
急いで逆方向に進路を変えたが、相手が追ってきたのだ。
商船にしては異常に速い。甲板にいる男たちは、どう見ても海賊たちだ。
風の向きや勢いも、こちらに味方してくれない。
このままでは、あと少しで追いつかれてしまう。
ならばと、船長は舵を切った。船を陸に急接近させる。
しかし、相手の船もついてくる。この辺りの水深では、向こうの船だけを座礁させるのは無理らしい。
非常にまずい展開だ。
船長は思い出す。
シチリアを発つ際に、戦車職人と約束したのだ。この積み荷は確実に送り届けるぞ、と。
かなりの窮地だが、まだ希望はある。
すぐ横には白い砂浜が広がっていた。
これで最低限の条件は整ったはず。
こちらの船の甲板には、すでに『跳躍戦車』が待機していた。
普通の戦車と比べると、その足回りに随分と量感がある。
この戦車には特殊な機能が備わっているらしい。
「俺はあんたの腕を信じるぞ!」
船長は叫んだ。あの戦車職人の話が本当なら、今の状況でも突破口はある!
甲板の上で『跳躍戦車』が勢い良く走り出した。
で、船の舳先から空中に跳躍する。
そのまま美しい放物線を描いていく戦車。
そして、砂浜に着地する。
この瞬間、船長は神に祈っていた。
あの高さからの着地だ。普通の戦車ならば、確実に壊れる。
だが、『跳躍戦車』は少しぐらついただけだった。すぐに姿勢を立て直して、ローマの方へと走っていく。
成功だ。あの戦車職人の話は本当だった。
――俺の戦車は短い時間だが、空を駆けるぞ。
そのあと、バネとか衝撃吸収とか、わけのわからんことを自信満々に語っていた。
「これで役目は果たしたぞ!」
船長は急いで舵を反対側に切る。今すぐ陸から離れるのだ。
この直後、幸運も味方する。
相手の船に異変が起きたのだ。右舷近くの海面に、渦が発生している。
おそらくだが、船底が海底にぶつかったらしい。それで穴があいたのだ。
あの状態なら速度が落ちる。
「今の内だ!」
こちらは全速力で逃げるのみ。
一目散に水平線の方へと走り去った。




