古代ローマの戦車競争(その六)
この時、ベスボリウスはローマの近郊にいた。
その周囲にいるのは、二〇人の剣闘士たちだ。有名どころは一人もいない。今のローマで、剣闘士は引く手数多だ。それでも人数を集めようとすれば、こういうことになる。
剣闘士たちは二組に分かれて、謎の練習をしていた。
片方は、牛の革でつくった球状の袋を軽く投げている。
で、もう片方は、その袋を棍棒で打ち返していた。
ガリアで発見された石版、あれに記されている謎の競技を、どうにか再現しようとしているのだが・・・・・・。
ベスボリウスは考え込む。
剣闘士たちの意見を聞いてみたところ、棍棒で球状の袋を打つのは、思ったよりも楽しいらしい。
誰が遠くまで飛ばせるかで盛り上がっている。そのため、投げる方の組が「自分たちも打ちたい」と言い出しているとか。
ベスボリウスは考え込む。
(そういう競技なのか?)
球状の袋が遠くまで飛んでいくのを見ると、たしかに感心する。が、たぶん普通に剣闘士たちを戦わせた方が、ローマ市民たちは盛り上がるだろう。
ある可能性が頭をもたげてくる。
(他の者がやるのを見て楽しむ競技、ではなく、実際に自分でやって楽しむ競技なのか?)
とはいえ、これは『戦車競争』が中止になった時のための保険。
円形競技場に集まったお客さんを、どうにかして楽しませなければならない。
(どうすれば、この競技で観客たちを興奮させられるだろうか?)
ベスボリウスは熟考する。
円形競技場で人気がある催しと言えば、「戦車競争」や「剣闘士たちの戦い」だ。
どちらも対戦形式になっている。どちらか勝つか、自分の気に入ってる方を応援することで、客の多くが盛り上がる。
なので、この謎の競技も対戦形式にすべきだろう。たとえば、「誰が一番遠くまで球状の袋を飛ばすことができるのか」とか?
ベスボリウスは剣闘士たちの練習をしばらく見続ける。
(これをどうやって面白くするか)
何となくの手ごたえはあるのだ。この競技には高い潜在能力を感じる。
だから、わざわざ石版に記したのではないだろうか。つまらないもの、どうでもいいものなら、いちいち石版に残さないだろうし・・・・・・。
もう少し考えごとをしていたかったが、そろそろ時間だ。
剣闘士たちに練習を続けるよう言って、ベスボリウスは馬でローマに引き返した。
(あの賭けを妨害するために、すでに反対派は動き出しているはず)
ローマを目指している五台の戦車の内、一台か二台は襲撃を受けていてもおかしくない。
今の内にどうしても、済ませておきたいことがあった。




