夢の技術
ある会社の研究開発部が、ようやく試作機を完成させた。
この特製ヘッドギアをつけて眠ると、従来よりも短時間で、脳の機能を回復させることができるのだ。要するに、睡眠時間を減らせる。
そのあとのテストでも、期待していた通りの結果が出た。
これをつけて三時間眠ると、六時間眠ったのと同じくらい、脳の機能が回復したのだ。睡眠の質が大幅に向上した。
「こいつは売れるぞ!」
ところが、すぐに大きな欠点が見つかった。
たしかに、脳は回復する。三時間眠っただけで、六時間分の効果がある。
しかし、体はそうもいかない。三時間しか眠っていなければ、三時間分の回復効果しか得られないのだ。頭はスッキリしているのに、体は疲れた状態。
これでは結局、体を回復させるために、追加の睡眠時間が必要になる。すでに脳はスッキリしているのに・・・・・・。
「この問題点をどうにかしなければ」
そこで研究開発部は考えた。
だったら、このヘッドギアに「睡眠学習機能」をつけてはどうだろう。眠っている間の脳に、新たな負荷をかけることで、回復にかかる時間を増やすのだ。
たとえば、六時間睡眠の内、二時間を「睡眠学習」にあてる。起きている時間にするようなことを、眠っている間に済ませてしまうのだ。
使用者が学生なら、「学校の勉強」とかどうだろう。眠っている間に勉強しているにもかかわらず、起きた時に脳はスッキリ。もちろん、勉強した内容はちゃんと記憶している。
「それ、いいね♪」
そういうわけで、研究開発部は『超睡眠ヘッドギア』の改良を始めた。
これが完成したら、学生以外も使うはず。勉強以外の用途にも使えた方がいい。
たとえば、眠っている間に、スポーツの反復練習はできないだろうか。脳に繰り返し学習させることで、その動きを体にも記憶させることができれば・・・・・・。
「スポーツ界に革命を起こせるかもしれない!」
地味な反復練習は眠っている間に済ませ、起きている時間をもっと有効に使うのだ。
たとえば、野球のピッチャーなら、ひじに負担をかけることなく、毎日二〇〇球くらいの投球練習ができるかもしれない。野球のバッターなら、毎日五〇〇回くらいの素振りができるかも。イメージトレーニングの一種なので、実際に体を酷使するわけではない。
で、起きている時間に、筋トレとかをすればいいのだ。
「これはきっと、夢の技術になるぞ!」
世間をアッと言わせたい。研究開発部は改良を続ける。
と同時に、多くのデータをとるため、自分たちが実験台になった。眠っている時間を有効活用する。
そして、数年の月日が流れた。
その日、研究開発部のメンバーは野球場に来ていた。
「ついに、ここまで来ちゃったか」
これから、社会人野球の全国大会があるのだ。
メンバーの一人がしみじみとつぶやく。
「まさか、野球は素人同然だった私たちが、腕試しに参加した地方予選を勝ち抜くことができるとは・・・・・・」
すごいぞ、睡眠学習。この結果は予想外だ。
研究開発部のメンバーはユニフォーム姿で、グラウンドに足を踏み入れる。今や全員が筋肉ムキムキだ。
「この大会が終わったら・・・・・・」
研究開発部のリーダーが言う。
「『超睡眠ヘッドギア』の大量生産を開始しような。市場販売を行うぞ」
眠っている時間も有効に使えちゃう時代が、すぐそこまでやって来ていた。
次回は「プロ野球のスカウト」が出てきます。




