スカウト
今年の夏、この学校の野球部は奮戦した。
最終結果は県内ベスト32だ。これまでの最高記録と同じである。
もっと上を目指すためには、今の練習だけでは足りない。強豪校と同じことをしていても、実力の差は埋まらないだろう。
そう考えた監督は、独自の練習を行うことにした。
ゴルフ場でのティーバッティングだ。開放感のあるゴルフ場で、気持ち良く野球のバットを振ってもらう。
はた目には「風変わり」に見えるだろうが、この練習には、「選手たちの気分転換」という意味もある。
翌年の夏、ついに悲願を達成した。ベスト32の壁を破ることに成功する。県内ベスト16だ。
野球部のOBから、「良くやった!」というメッセージが大量に届く。
これで監督は確信した。もっと練習を工夫すれば、さらに上を目指せるはず。
「行くぞ、全国!」
すると、秋の大会前に異変が起きた。
プロ野球のスカウトが練習を見にくるようになったのだ。
(県内ベスト16でも来るんだな)
そして、秋の大会でも県内ベスト16だった。強さを継続できている。
で、この学校の練習を見にくるスカウトたち。その数はどんどん増えている。
監督は内心でほくそ笑んでいた。
(これは来年あたり、選手がドラフト指名されるかも)
翌年の夏には、県内ベスト8まで勝ち進む。
しかし、スカウトたちがどの選手に注目しているのかわからなかった。一人の選手だけでなく、複数の選手を見ていた気がする。
(ドラフト候補の選手が何人もいるのかな?)
投手と捕手と、あとは打撃の良い数人か?
(その中の一人でも、プロから指名されれば・・・・・・)
期待する監督だったが、秋のドラフト会議、この学校の選手は誰も指名されなかった。
(あれっ?)
で、翌年の二月だ。
練習中に校長から聞いた。
自分が考えた特殊な練習を、複数のプロ野球球団が春季キャンプでやっているらしいのだ。
それで監督は気づく。あのスカウトたち、選手を見にきていたのではなかったのか。
とはいえ、スカウトが日常的に、この学校の練習を見にきてくれるようになったのなら、
(チャンスはある。あとは彼ら次第)
新品のバットを使って餅つきをしている選手たちに、監督は温かい視線を向けた。
次回は「ゴルフ場」のお話です。




