目標とする選手は
たった今、プロ野球のドラフト会議で一位指名が出そろった。一人の高校生に指名が集中し、十球団が競合したのだ。
こうなることは、もともと予想されていた。
そして、「くじ引き」が行われる。当たりくじを引いた球団が、交渉権を獲得するのだ。
その高校生の母校では、記者会見の場が設置されていた。
はたして、どの球団が交渉権を獲得するのか。
高校生は昨夜のことを思い出す。家族会議をした。どこの球団になってもいいよう、ちゃんと準備をしてきた。
ドラフトでは毎年、一位指名で競合した選手は、くじ引きのあとすぐに記者会見をする。
ぶっつけ本番だと、変なことを言ってしまうかもしれない。
だから、家族と練習してきた。記者会見のシミュレーションだ。記者がどのような質問をしてくるのかは、過去の選手たちへのインタビューを参考にした。
その中に、こんな質問があった。
――どんな選手になりたいですか? 目標とする選手は?
誰と答えるのが最良なのかについて、家族全員で何時間も話し合ってきた。念のため、十二球団分だ。
さらに記者が、
――他には?
というパターンもたまにあるので、目標とする選手を、各球団ごとに複数用意しておく。
その結果、十二球団で合計三十人になった。
「それでは、一斉に封筒をお開けください」
テレビの中で司会者が言う。
少しの間があって、くじを引いた一人が小さくガッツポーズをした。
交渉権を獲得した球団が決まったのだ。
高校生の母校では、すぐに記者会見が始まる。
記者の一人が質問してきた。
「どんな選手になりたいですか? 目標とする選手は?」
きたっ!
高校生は急いで、ある場所に目を向ける。
記者たちの後方では、自分の祖父が大きなパネルを掲げていた。選手の顔写真と名前が載っている。
さすがに十二球団、三十人分は覚えきれなかった。また、本番では、ど忘れする可能性もある。緊張していると、何が起こるかわからない。
そう思って、昨夜の家族会議で、このようにすることが決まっていた。祖父と母が学校に駆けつけて、こっそりサポートするのだ。
高校生はパネルを見ながら、そこにある名前を自信満々に答えた。
ところが、その直後だ。
祖父の隣にいる母があわてて、
「おじいちゃん、パネルが違ってる! 当たりを引いたのは、そっちの球団じゃなくて、こっちの球団!」
別のパネルを渡している。
なお、この会見は日本全国への生中継だ。
「・・・・・・」
高校生は咳払いをすると、何ごともなかったように、
「目標とする選手はですね」
祖父が新たに掲げたパネル、そこにある「選手名」を力強く告げた。
次回は「指導法」のお話です。




