交渉権獲得
プロ野球のドラフト会議で、一位指名が重複した。
その選手の交渉権を獲得するのは、どの球団になるのか。
それを決める「くじ引き」が行われる。複数の球団が順番に、くじの入った封筒を引いていった。
「それでは、一斉に封筒をお開けください」
司会者が言う。
それぞれが封筒の中身を確認するのだ。自分が引いたくじは、「当たり」なのか、「はずれ」なのか。
少しの間があって、くじを引いた一人がガッツポーズをした。こうした光景は、ドラフト会議の一位指名では当たり前になっている。
当たりのくじを引いた者のリアクションには色々あるが、喜びをはっきり表現することは重要だ。指名した選手に対して、「うちの球団はこれほど評価している」というメッセージになる。
逆にリアクションが地味だと、「実はそこまで評価していない」という間違ったメッセージを送ることにもなりかねない。
それで近年、当たりくじを引いた時のリアクションが、どんどん派手になっていた。
で、今年も一位指名が重複する。
複数の球団によって「くじ引き」が行われ、
「それでは、一斉に封筒をお開けください」
司会者が言う。
少しの間があって、くじを引いた一人がガッツポーズをした。
その直後、会場の扉が大きく開け放たれる。
そして、サンバのリズムに合わせて、金ぴかの衣装を着た集団が笑顔で乱入してきた。男女合計十二名。球団で手配した『カーニバル隊』だ。
しかし、さすがにこれは「やりすぎ」だった。
くじを外した球団への配慮に欠けるのでは? そうした声がプロ野球ファンの間でわき起こる。
ファンからの批判を真摯に受け止め、翌年からは、過剰な喜び方が禁止になった。もうドラフトの会場でサンバの踊りを見ることはできない。
ガッツポーズも小さくなった。肩よりも高く腕を上げると、せっかく獲得した交渉権を剥奪されてしまう。
で、翌年のドラフト会議だ。
ある個室で一人の男が、テレビでドラフト会議を見ながら祈っていた。
自分の応援している球団が、一位指名の「くじ引き」をしている。
この選手は絶対に欲しい。他球団に渡したくない。
「それでは、一斉に封筒をお開けください」
テレビの中で司会者が言う。
少しの間があって・・・・・・。
その直後に、個室のドアが大きく開け放たれる。
サンバのリズムに合わせて、金ぴかの衣装を着た集団が笑顔で入ってきた。男女合計四名。男が個人で手配した『カーニバル隊』だ。
球団ができないのなら、ファンが代わりにやればいい。喜びを盛大に表現する。この様子は、インターネットの動画サイトに上げる予定だ。
一方、他球団にも同じことを考えた者がいた。
同時刻、そのファンがいる部屋に入ってきたのは、黒服の男たちだ。ファンが個人で手配した『がっかり隊』である。
そして、クリームたっぷりのパイを次々と、ファンの顔面にぶつけていく。
この様子は、インターネットの動画サイトに上げる予定だ。ものすごく残念なのを、ファンが代わりにアピールする。
次回も「ドラフト会議」のお話です。




