このビン、開かない!
朝ごはんの時だ。
小学生の娘がジャムのビンを開けようとしている。
十秒ほどがんばっていたが、
「このビン、かたい! ママ、開けて!」
ところが、ママにも開けることができない。
二人の視線が俺の方を向く。期待するような眼差し。
こういうことが、我が家ではよくある。
「任せなさい」
俺はプロ野球選手だ。こんなジャムのビンを開けるくらい、朝飯前だ。
あっさり開けてみせると、
「パパ、すごーい♪ 力持ちー♪」
二人からの称賛に悪い気はしない。
で、その日の夜だ。
俺は深夜に一人で、こっそり冷蔵庫を開けていた。
ジャムのビンがある。
ビンを取り出して、そのフタをかたく閉めておく。
これで良し。明日の朝が楽しみだ。
翌日の朝、小学生の女の子とその母親は冷蔵庫をのぞいていた。
「ママ、ジャムのビンが」
ジャムのビンを冷蔵庫に入れる時、メーカーのロゴマークを正面に向ける。パパには教えていない、二人だけの「秘密のルール」があった。
しかし今、ロゴマークは正面を向いていない。よそ見をしている。
「パパが触ったみたいね」
ママが言う。
なのに、パンを食べた形跡はなかった。他の用途でジャムを使った、そんな形跡もない。
ということは・・・・・・。
女の子は小さく笑うと、ママに言う。
「じゃあ、いつものようにするね♪」
二人で冷蔵庫を閉じる。そろそろパパが起きてきそうな時間だ。
五分ほど経って、
「おはよー♪」
パパがやって来る。昨日の試合で大活躍したので、上機嫌だ。
そして、すぐさま朝ごはんになり、女の子は『ノルマ』をこなす。
「このビン、かたい! ママ、開けて!」
しかし、ママでも無理。
今朝もパパの出番である。
ジャムのビンはあっさり開いた。
「パパ、すごーい♪ 力持ちー♪」
このあと女の子は、ママと一緒にこっそり笑う。
これで良し。今日の試合も楽しみだ。
次回は「バッティングセンター」のお話です。




