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星屑たちのハッピーエンド  作者: ねこにゃん@灰猫陽路(ハイネコ ヒロ)
第1章 どこぞの天の原、出でし月は違うもの
11/11

11話

 ※※※※※※※※※※※※※※


 ―――耳元を掠める空気の音、突如感じる浮遊感、ぐるりと回る世界。

 目まぐるしく何かが投げられ、床が消えて、足をついた天井が回転する。なんて危険な秘密通路なんだ!

 あーあ、薄暗い通路を三人で静々と進むもんだと思っていたのに。


 ………そういえば、こういう仕掛けって、いつかのどこかで見た気がするなぁ、ええっとなんだっけ、なんとか屋敷―――いやもう忘れちゃったな。それにしても。


「なっっっっっがーーーい!!」

「だから、言った、でしょ?っ、時間が、惜しいって!」


 私の叫びに、息を切らしながらハイネが答える。

 彼は自力で矢をよけているところだ。小さな体で器用にすばしっこく動くさまは中々見ごたえがある。

 壁から突き出た槍をひらりと躱したハイネに拍手すると、上から殺気のこもった視線が降ってきた。

 ‥‥‥‥いいじゃんそれくらい、だって暇なんだもん。


 最初はこの罠と仕掛けの嵐に、警戒していたけど。

 この態度最悪なオマリーがきちんと私を守っていると確信してからは、腕の中で一人手遊びを始めたくらい、退屈だ。


「そこ、曲がったら、到着」

「いやったぁ!!!退屈からおさらばだ!!」


 いやそこなの?という空気を感じなくもないが、言われたわけじゃないので無視無視。

 としているうちに、視界が開けてきた。

 あれ?下がったんだから、上るんじゃないの?城内のどこかしらに出るにしては、作りが無骨というかじめじめしているというか‥‥…。


 ―――そうして、到着したのは、地下牢でした。

 右を見れば鉄の処女(アイアンメイデン)、左を見れば審問椅子、牢の中は乾いた血だらけ。


「………え?このまま私、拷問されるとか、ないよね?」

「そうしましょう、ハイネ様」

「…………はぁ………」


 ※※※※※※※※※※※※※※


「あの通路は、元々脱走者へのトラップだったんだ。それを途中から利用したってわけ」

「へぇぇぇぇ……いいご趣味だこと」


 ……あれか、捕われた人が希望に縋って脱出したら罠だらけ、ってことか、流石魔王城。

 想像通りの魔王っぷりに感心していると、普通に階段を上り始めるハイネ。


「ちょっとちょっと、せっかく秘密通路を通ってきたのに、堂々としたらばれちゃうじゃん」

「あぁ。心配ないよ」


 上り切った先の扉を、オマリーが開ける。


「何せ、ここが僕の塔だから」

「え、この地下牢付きで?」


 振り返ってみると、誰もいなくてがらんとしているが、牢獄としての規模はかなりなものだ。

 それこそ、国が管理してそうなものだと思ったんだけど。


「なに?歴史でも知りたいの?」

「まぁ、暇だし」


 またしても溜息を一つ吐いて、親切なハイネが説明してくれた。

 曰く、ここは大昔からずっと大盛況な牢獄だったが、先々代の魔王が罪人を哀れみ、ここを閉鎖すると宣言したそうな。お優しいことで。

 けれどもそこは血と争いが生きる源の魔族、正規がだめなら裏でと個々人で牢作りがブームとなり、公に管理されなくなった牢は、それはもう非道な行いであふれたのだと。本末転倒だわ。


「ここを閉鎖した魔王は、今でも魔族の間では笑い者にされててね。ここを管理するなんて不名誉極まりないんだ」

「なのに、ハイネの塔なんだ」

「うんそう、これで大体僕の位置がわかるでしょ?」


 不名誉を押し付けられても否やと言う後ろ盾もない、それでもいいと王に思われてるってことね。


 ………おいおいおい、思ったよりも随分とハイネの立場が悪いぞ?

 そういうのはここに連れてくる前に教えてって。

 同じ転生仲間だっていう好奇心のみで着いてきたのに、捕まって「はい、ジエンド」なんて洒落にもならないんだけど?


 そうこうしている内に、よく言えば堅牢、普通に言えばボロッちい部屋に通されました。……迎える人も、もてなす人もいないと。

 オマリーが、どこからともなく用意した紅茶を飲む。あら、香りは薄いけどおいしいな。


 さてと、と心の中で脱走計画を立てていると、ノックと共に扉が開けられた。

 ガシャリと耳障りな音を立てながら、尊大な態度で兵士が入ってくる。……わお、本当にやばいね!


 絞め殺さんばかりにオリマーが睨む中、白々としながら兵士が言う。


「陛下がお呼びだ、謁見の間まで来るように。ああ、そこな捕虜も連れて、だ」

「ああ、わかった。陛下の仰せのままに」


 そんな態度にも、驚愕な内容にも、顔色一つ変えずハイネは答える。

 私は、だって?それはもう、びっくりを隠さずありのままの私の顔になってるぜ!?


 私の顔を一瞥して鼻息で馬鹿にすると、その兵士は去っていった。


「よし、じゃあ、行こうか」

「よしでもじゃあでもない!!なんで着いて早々、魔王になんぞ会わなきゃいけないのさ!」


 噛みつくように(実際噛みつきたかった)ハイネに詰め寄ると、死んだ目で得意げにこちらを見た。


「もちろん、僕が計画したからだよ。本来なら君を殺した手柄をもらう予定だったんだけど」

「私生きてるんだけど?計画崩れてるじゃん、プランBはないの?」

「ない」「ないかぁ……」


 まあ、そうだよねぇ、まさか殺しのターゲットが転生仲間とは思わないよねぇ。

 でもダメだった時の保険って大事じゃない?って聞いたら、失敗したら死だったからないよ、と朗らかに言われた。あらら、随分とまあシビアな今世ですこと。


「とまあ、遅れれば遅れるほど生存確率がさがって「ほらほら!はやくいくよ!!」……はいはい」

「このっ、ハイネ様の言葉を遮りよってっ……!」


 いくら転生するとはいえ、まだ他の転生仲間にだって会ってないし、むざむざと死にたくはない。

 マイペースなハイネを急かしつつ、オマリーからの小言を聞き流しつつ、捕虜らしくした方がいいかなぁと思いつつ。


 ―――暗い廊下を歩いて行った。


 ※※※※※※※※※※※※※※

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― 新着の感想 ―
[良い点] > 大盛況な牢獄 なんか面白いワードでした!
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