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THE FIFTH WORLD  作者: シロタカ
Episode.1

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22/31

021 homicide

「PK事件?」


 HAYATE(ハヤテ)は狐の白面を外して、ただ驚きながら聞き返す。


 COOLFOOL(クールフール)は無言で、神妙にうなずいた。


 ここ最近は随分と立派になってきた、為政者《キング》プレイヤーの執務室。観葉植物としてバナナの木が飾られていたり、ハンモックが吊るされていたりするのは、軽薄な中年男性であるCOOLFOOL(クールフール)の純然たる趣味嗜好だろう。


 秘書として雇われているNPCは、HAYATE(ハヤテ)がやって来た時点で席を外していた。青ざめながら、できるだけ距離を取って壁際を移動するNPCの様子に、「そこまで嫌わなくても」と思わなくもない。


 フレンドコールで呼び出しを受けた時点で嫌な予感を覚えていたが、わざわざ二人きりの場が用意されたことで、さらにその予感は強まった。


 それゆえ、最初はむしろ気安く、わざと明るい声で挨拶を済ませた。


「やあ、王様。攻略者《アグロ》パーティーで出発する間際だったから、予定が狂って、アリスの機嫌を損ねたぞ」


「ああ、それは申し訳ない。〈大々魔道士〉の不興を買うと、それだけで功績値が下がりそうだ」


 冗談に付き合うぐらいの余裕はあるとわかり、HAYATE《ハヤテ》は少し安心した。


「云ってろよ。それ以上の功績値はいらないだろ?」


「憐みではないが、功績値が譲渡可能ならば、お前にわけてやりたいよ」


「残念だけど、あんたの一人分ぐらいで、僕の借金を返せると思うな」


「ちょっと待て。当初の惨状より、さらに酷くなっているのか?」


 COOLFOOL《クールフール》が目を丸くしたので、HAYATE《ハヤテ》は真顔で現在の功績値を告げてやった。

 

 すると、彼は驚きを通り越して、「うちの解析者《アナリスト》パーティーに協力しないか?」と真剣に誘ってきた。


「実験動物の扱いは勘弁だな。僕は珍獣か?」


「そうも云いたくなる数字だぞ。むしろ、何をどうやれば、そこまで異常なマイナス値を維持するだけでなく、さらに悪い方向に更新できるんだ?」


「大したことはしてないぞ」


 HAYATE《ハヤテ》は、日々の活動内容を振り返りながら、せいぜい思い当たるところを口にした。


「一日一殺を心がけている」


「原因は明らかだな」


 しかし、HAYATE《ハヤテ》としては大いに自重しているつもりなので、反射的に抗弁した。


「だって、βテストの期間は三年だぞ。つまり、千日とちょっとしかない。βテストに参加しているプレイヤーは四千人だから、一日一殺だと間に合わないのに……」


「待て、前提がおかしい。当然の義務みたいな顔をしているが、すべてのプレイヤーをPKするなんて目標は意味がわからない。そもそも、罪もないプレイヤーを殺すな。PKはせめて手段であって、それ自体を目的とするのは……」


「あんたは、あと二回キルする必要もあるし」


「忘れていなかったのか、あの約束」

 

 クールフールは絶望的な顔になる。HAYATE《ハヤテ》が、「そういえば、今日はまだ誰も殺ってないな」とつぶやきながら、腰の忍刀を撫でると、彼は慌てたように本題を口にした。


 すなわち、ここ最近、はじまりの街を騒がしているという不可思議な『PK事件』のことである。


「てっきり、ソレイア共和国の件かと思っていた」


「そちらの準備は着実に進めているさ。もうしばらく待て」


 HAYATE(ハヤテ)は、狐の白面をかぶり直し、視線を逸らした。


 正直なところ、『ソレイア共和国の大統領』の件については、〈ラウンド・テーブル〉に仕切りを任せたものの、攻略者《アグロ》パーティーはまったく乗り気ではないのだ。


「選挙の開催は、クリスマスに照準を合わせている。〈ラウンド・テーブル〉の中でも、大規模イベントの開催はロロが長けているからな。彼女に任せておけば、盛り上がることは間違いなしだ」


「……選挙?」


「建前としてのイベント名称だ」


 COOLFOOL(クールフール)は皮肉に笑った。


「さて、話を戻そうか」


「ああ、『PK事件』について……」


 HAYATE(ハヤテ)は率直に、一番気になるところを尋ねた。

 

「犯人の目星はついているのか?」


 COOLFOOL(クールフール)は、深々と頷く。


「お前だ」


 さもありなん、HAYATE《ハヤテ》自身もそう思った。

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